婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや

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やんごとなき依頼者

リア公爵の夜会へ

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翌朝、私達はリア公爵邸を訪れた。指示のあったように誰にも会わずに裏手の門をくぐり、クレマチスの絡まる四阿へ進むと、メイド服の女性が立っていた。彼女は私達に、そこで待つよう言ってお茶を用意し、立ち去った。


「誰も来ないな」
リア公爵夫人が来ると思っていたのかロビンが首をかしげている。カップをとりあげると、その下に小さな紙片があった。

『お越しくださりありがとうございます、件の四阿はお気に召したでしょうか?先ほどのメイドが片付けに参りますから、お帰り下さって結構です』

見回せば、少し離れたところにさっきのメイドが立っていた。私はなに食わぬ顔で革の函を座面におき、二人に紙を差し出して
「さて、お茶も頂いたし、帰ろう」
と指示を出した。二人も黙ってそれについてくる。こんなにあっさり渡せるなら、二人も連れてくる必要はなかったか?等と呑気にかんがえながら。




だから知らなかったのだ。だれかが潜んでいたことも、そしてそれが、マグワイア・リア公爵その人であることも。だが、ユーリはそうではなかった。

「そういえばあの時、見られてましたよね。僕らがあそこへ行ったこと…いいのかな?」
そんな風にユーリが切り出したのは、それから7日も経ったリア公爵の夜会の会場へむかう馬車の中だ。
「見られた?なにを…まさか、例の首飾りの話?」
エリーゼのたっての願いで同席したものの、ユーリの話はどうしたって剣呑だ。

私達は四阿を見にゆき、『忘れ物をした』それだけに見せかけていたけれど、公爵が見ていたのなら函の中をみせるよう、メイドは言われた可能性がある。

「……白っぽいマントつけた、黒髪の、騎士のような?」
エリーゼがまるで見てきたように話し始めた。
「会長が話したんですか?」
ユーリに問われて必死に首をふる。王族の秘密をおいそれとどこへでも話していたら、命がいくつあっても足りない。
「あら、ユーリとクローディアス様がはじめて二人きりで馬車に乗った名シーンですもの!せめぎあうふたりの…」
はじまってしまった。二人ではなく三人だったし、馬車では和やかに次の試験の話などしていたけれど?と、私とユーリは顔を見合わせる。

「とにかく、見ていたのはリア公爵で間違いないのかな?」
ひとり盛り上がるエリーゼの話をユーリが遮ると、ええ、とエリーゼは頷いた。
「それは……まずいことになったんじゃ…」
リア公爵夫人はおそらく今頃とんでもないことになっているに違いない。そしてお使いも満足にできなかった我々は、ヴィルヘルム皇太子の逆鱗に触れてしまうだろう。知らず知らず首もとを掌で隠していた私に、エリーゼは

「チャンスですわね、クローディアスさま!リア公爵の後ろ楯をなくしたヴィルヘルム皇太子など恐れるにたりませんわ!」
やめてくれ、火に油を注ぐのは。
「エリーゼ、それはリア邸では言わないようにね…」
ユーリがエリーゼの唇に人差し指をたてると、エリーゼは頬をそめて頷く。
全く気に入らないが、これも子供の吝気だろうか…ひどく落ち込んだ気分になって頬をそめ喜ぶエリーゼを見ていると、エリーゼと目があった。

それは突然、起きた。

美しいアーモンド型の瞳がゆるりとほどけ、金の睫が少しだけ濡れて柔らかな光をはらんでいて、頬は薔薇の色にいろづき、紅で彩られた唇が蠱惑的な弧をえがいて僅かに開いている。
「クローディアスさま」
とうたうような声で私を呼び、微笑みかける。

雷にでもうたれたように、わたしは身動きできなくなった。心臓だけが、異常なほど鼓動している。
おそらく呼吸さえ、いっときは止まっていたとおもう。足先から痺れるような悦びがあがってきて、エリーゼの白い歯ののぞく唇から目が離せなくなった。

勿論エリーゼにしてみれば先程のユーリの接近のせいで偶然そうなったに過ぎないのだろうけれど、絶世の美少女にあんな風に呼びかけられて、恋に堕ちない男はいないだろう。

しかし、ここは馬車の中で、しかもユーリもいる。
とりあえず、できるかぎりの理性を総動員してエリーゼの手を握り、微笑みかけるだけにしておいた。




「……なんか……帰りは馬を借りるから、二人で帰りなよね?」
リア公爵邸につき、馬車を降りたあとの車寄せでユーリは私の肩を少しきつめに叩いた。ユーリの言うことは時々訳がわからない。
「あら、どうしてですの?やはりクローディアス様と一緒はお嫌?」
エリーゼは不思議そうに尋ねるが、ユーリは首をふり、
「ちょっとから、帰りは遠慮しとくよ」
と苦笑いしている。宰相邸の馬車だったので三人でも十分広かったし、むしろ少し寒かったようにおもうのだけど。

「さて、どうなるのかな」
ユーリが首をまわしながら、リア公爵邸の開かれている正面玄関を見る。わがマルセル邸の五倍はありそうな玄関に、おもわずため息がでた。
「10日ちかくも何も言ってこないということは、今日なにか仕掛けてくるのかな…エリーゼ、危なくなったら逃げるんだよ」
中に聞こえないようささやくと、ええ、とエリーゼは頷いたけれど、聞いていたのかいないのか回りをキョロキョロ見回している。

これは分かってくれてないかもしれないな、と不安に思いながら、私はエリーゼの手を取った。

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