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やんごとなき依頼者
憂鬱な夜会にて
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夜会自体は、いずれも同じく美しいものだ。特にそこに着飾ったエリーゼがいるのならば。とはいえ、私は色んな意味でため息ばかりついていた。
「憂鬱そうですね、会長みたいな美しいひとがため息なんてつくから、さっきから女の子たちの視線が痛い」
ユーリは可笑しそうに私の顔を見上げている。持ってきてもらった水を受け取り、何となく痛む胃に流し込む。
「令嬢というんだよユーリ…彼女たちには申し訳ないけれど、私はエリーゼとしか踊らないんだ。美しいというなら君でもいいはず…踊ってあげてはどうかな」
私が言うと、ええ?とユーリは眉根を寄せて
「僕は平凡なので喜ばれませんよ。それにニホン人男性は滅多に人前で踊らないんです…サムライなので」
と訳の分からぬことを言っている。この間はエリーゼと嬉しげに踊っていたじゃないか、なんだサムライって。
などと相変わらず狭量なことを考えていると、
「セレートニア子爵殿」
と、突然肩をきつく掴まれて呼び止められた。なかなかに乱暴な呼び止めかたに、びくっと体が固まるのを感じた。なるたけ不自然にならないように振り返ると、エリーゼの先ほどの説明どおり、黒髪に白い騎士服の50がらみの男が黒髪の若い女性を連れて、立っていた。
「リア公爵…ご夫妻。お招きありがとうございます」
私はしどろもどろになりながら、何とか体裁だけの挨拶をした。
「はじめましてクローディアス様」
意味深長な流し目をくれながら、リア公爵夫人が会釈する。
とたんに寒気があがってきて、となりに立つリア公爵をおもわず見る。顔はわらっているが、目元は笑っていない。
これは本格的に見られていたんだな、とはおもうものの、そんな急に良い方法など思い浮かばず、ユーリに視線で助けを求めるも、ユーリは肩を竦めて特段動こうとはしてくれなかった。
「はじめまして、クローディアス・マルセル子爵でございます、リア公爵様」
多分体の全ての水分が汗になったんじゃないかとおもう程、冷や汗がひどい。喉が異常なほど乾いてきた。
ふむ、と冷ややかなリア公爵の視線が突き刺さる。
「私とは確かに初対面だが…妻には面識があるのではないかな?」
「初対面ですよ」
あ、つい被せぎみになってしまった。でも無い、本当に無いのだから、そこは強調しておきたい。
「そうか…この間、うちの庭に来ていた若者に君が似通っていたものでね。なにせ私は国境警備に出ているし、妻はまだ若く美しい……色々と心配の種はつきなくてね。つい、試すようなことをしてしまって、この間も叱られた所だよ」
フフフと不敵に笑い、夫人の首もとを指差した。
「これはうちに伝わる家宝でね…そうだ、クローディアス子爵の婚約者は宰相閣下の娘御でしたな!とても賢くて、素晴らしく美しいとか。どうです?試しに着けてご覧になっては?」
その言い方に、私はゾッとした。
「おや、顔色が悪いな?うちの家宝について何かご存知のことがおありのようだ」
私は首をふり、ここは少し暑くて、と首もとを緩めた。
「たとえいっときでも、家宝の首飾りを他の若い女性になどと、夫人が気を悪くしますよ」
夫人をみれば、祈るように両手を組んで今にも倒れてしまいそうだ。
「心配ないよ」
そう言いながらまるで氷のような目で私を見る。どうやらリア公爵は、夫人の不貞の相手を私と定めてしまったようだ。…おそらくはそれも皇太子の策略のひとつだったのかもしれないが。
本格的にあのかたは私を追い落としたいとお考えなのか、それとも単にスケープゴートにちょうどいいと思われてしまったのか…とにかく迷惑な話だ。
ため息をついて額の汗をぬぐい、ウエイターから水を貰って飲み干したところで、
「では、君につけてあげようか?」
耳を疑う言葉をきいた。
「公爵閣下、今なんと?」
………耳がおかしくなったのか?それとも嫉妬でリア公爵の頭が?と返答しかねていると、リア公爵はさっと彼の妻の後ろへまわり、その豪華な首飾りを外した。
「さあ、こちらへ?」
口調は優しいが、リア公爵の目は冷酷に此方を見ていた。
「憂鬱そうですね、会長みたいな美しいひとがため息なんてつくから、さっきから女の子たちの視線が痛い」
ユーリは可笑しそうに私の顔を見上げている。持ってきてもらった水を受け取り、何となく痛む胃に流し込む。
「令嬢というんだよユーリ…彼女たちには申し訳ないけれど、私はエリーゼとしか踊らないんだ。美しいというなら君でもいいはず…踊ってあげてはどうかな」
私が言うと、ええ?とユーリは眉根を寄せて
「僕は平凡なので喜ばれませんよ。それにニホン人男性は滅多に人前で踊らないんです…サムライなので」
と訳の分からぬことを言っている。この間はエリーゼと嬉しげに踊っていたじゃないか、なんだサムライって。
などと相変わらず狭量なことを考えていると、
「セレートニア子爵殿」
と、突然肩をきつく掴まれて呼び止められた。なかなかに乱暴な呼び止めかたに、びくっと体が固まるのを感じた。なるたけ不自然にならないように振り返ると、エリーゼの先ほどの説明どおり、黒髪に白い騎士服の50がらみの男が黒髪の若い女性を連れて、立っていた。
「リア公爵…ご夫妻。お招きありがとうございます」
私はしどろもどろになりながら、何とか体裁だけの挨拶をした。
「はじめましてクローディアス様」
意味深長な流し目をくれながら、リア公爵夫人が会釈する。
とたんに寒気があがってきて、となりに立つリア公爵をおもわず見る。顔はわらっているが、目元は笑っていない。
これは本格的に見られていたんだな、とはおもうものの、そんな急に良い方法など思い浮かばず、ユーリに視線で助けを求めるも、ユーリは肩を竦めて特段動こうとはしてくれなかった。
「はじめまして、クローディアス・マルセル子爵でございます、リア公爵様」
多分体の全ての水分が汗になったんじゃないかとおもう程、冷や汗がひどい。喉が異常なほど乾いてきた。
ふむ、と冷ややかなリア公爵の視線が突き刺さる。
「私とは確かに初対面だが…妻には面識があるのではないかな?」
「初対面ですよ」
あ、つい被せぎみになってしまった。でも無い、本当に無いのだから、そこは強調しておきたい。
「そうか…この間、うちの庭に来ていた若者に君が似通っていたものでね。なにせ私は国境警備に出ているし、妻はまだ若く美しい……色々と心配の種はつきなくてね。つい、試すようなことをしてしまって、この間も叱られた所だよ」
フフフと不敵に笑い、夫人の首もとを指差した。
「これはうちに伝わる家宝でね…そうだ、クローディアス子爵の婚約者は宰相閣下の娘御でしたな!とても賢くて、素晴らしく美しいとか。どうです?試しに着けてご覧になっては?」
その言い方に、私はゾッとした。
「おや、顔色が悪いな?うちの家宝について何かご存知のことがおありのようだ」
私は首をふり、ここは少し暑くて、と首もとを緩めた。
「たとえいっときでも、家宝の首飾りを他の若い女性になどと、夫人が気を悪くしますよ」
夫人をみれば、祈るように両手を組んで今にも倒れてしまいそうだ。
「心配ないよ」
そう言いながらまるで氷のような目で私を見る。どうやらリア公爵は、夫人の不貞の相手を私と定めてしまったようだ。…おそらくはそれも皇太子の策略のひとつだったのかもしれないが。
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「では、君につけてあげようか?」
耳を疑う言葉をきいた。
「公爵閣下、今なんと?」
………耳がおかしくなったのか?それとも嫉妬でリア公爵の頭が?と返答しかねていると、リア公爵はさっと彼の妻の後ろへまわり、その豪華な首飾りを外した。
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口調は優しいが、リア公爵の目は冷酷に此方を見ていた。
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