婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや

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やんごとなき依頼者

チート発動!?

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駄目だ、これは死ぬしかない。目は笑わないまま口元だけ酷薄に歪めたリア公爵が差し出す、毒針付き魔道具『アトラスの真珠』を、私は断る術を持っていなかった。
助けを求めてユーリの姿を探すと、ヤツはのうのうとエリーゼと飲み物を飲みながら談笑している。私が心のなかで、知りうる限りの言語をつかって罵倒しているとヤツはこちらを振り向いた。だが、そうすることでエリーゼもこちらへ視線を向けてしまった。

エリーゼの口元が、明確に『やだ、最高』と動いた。何故だ……これが死をもたらす魔道具だということを彼女は知っている筈ではなかったか?
とにかく、ふたりは急ぎ足でこちらへやってくる。
しかし、それよりはやくリア公爵は私の首に『アトラスの真珠』をかけた。私の肩の辺りで、公爵の着けている指輪が火花のようなオレンジ色の光を放つ。それは、ほのかな変化だけれど、すぐ側で見ていたわたしにははっきりと見えた。

「ほら、やはり美しい。お前もそうおもうだろう?」
リア公爵は満足げに妻を見るが、公爵夫人はもはや声もなくがくがくと震えて、掌で顔を覆ってしまっている。

私はさっきのオレンジの光が、話に聞いたリア公爵の変化する指輪の色だということに震撼としていた。やはりリア公爵以外が触れれば、手でなくても発動するのか。このまま私がつけていれば、勝手にこの首飾りは、私に毒針を打ち込むのだろうか?

つまり、私がつけているかぎり男が外そうが誰か別の女性、例えばエリーゼに頼もうが、魔道が発動するのは時間の問題なのだ。発動して毒針を打ち出す部分によっては、エリーゼまで巻き込んでしまうかもしれない。
私は、酷い汗をかいた両手をにぎりしめ、できるだけ余裕の表情をとりつくろった。

ユーリに手を取られて、エリーゼがこちらへと戻ってきた。キラキラと輝く笑顔でリア公爵と私を見て、ありですわ、と口元が動いたのを見逃す私ではない。
「素敵ですわクローディアスさま!お似合いです!」
多分、首飾りの事を言っているのではなさそうな、素頓狂なエリーゼの言葉にリア公爵が頷いた。
「我が家が誇る名品、『アトラスの真珠』ですよ」
おそらく会話がかみあっていないままでも、そのあとに互いに膝をおり、簡単な挨拶を交わすことは忘れない。

とても素敵ですわ、とエリーゼはうっとりした表情をこちらへと向けた。やめてくれ、君のその表情は可愛いがとてもイヤな予感がするんだ…

「でもちょっと苦しそうかしら?もう夫人へお返しすべきですわね?」
そう言うと、リア公爵はフム、と頷いた。
「ではご令嬢、婚約者殿を解放して差し上げて下さいますかな?」
?リア公爵は、私かエリーゼの命を確実に獲りにきている。そもそも今、何回目にカウントされているんだろう?一体いつ、毒針は発動するんだ?
じりじりと後退り、エリーゼから離れようとすると、背後にいた人物にぶつかった。

「エリーゼ、僕が外すよ」
私がぶつかった男、ユーリはそう言うがはやいか私の首にかかった『アトラスの真珠』に手をかけ、金具を動かした。

その瞬間、耳元でなにか金属の弾けるような音が聞こえた。リア公爵の指輪が、先ほどとは比べ物にならない程の赤い光を放つ。公爵夫人がヒィィ、と小さく叫んで倒れこんだ。



「公爵、こちらはお返ししておきますよ。素晴らしい名品ですが、危険もあるようなので、厳重に保管をしてください」
ユーリは嵌めていた白い手袋に鮮血が滲むのを厭わず、リア公爵へと『アトラスの真珠』を差し出した。リア公爵は驚きに大きく目を見開き、ユーリを驚愕の表情で見た。

「ユーリ、そ、れ、大丈夫なのか?」
手袋に盛大に滲みでている赤い血液に、少々気が遠くなりながら尋ねると、
「針というけど、わりと大きく切れるみたいだね」
と手袋をはずして傷を確認した。

「クローディアス様は大丈夫ですの?」
問われて、首まわりを確認する。
「僅かな量でも体内に入れば命をうばうような猛毒だからね、エリーゼ、ちゃんと確認して差し上げたほうがいいよ」
本格的に気が遠くなってきた。ヨロヨロ歩いて近くの椅子に座り込む。ついてきたエリーゼが、私の首もとへやわらかな手をかけて、傷になっていないか調べてくれる。

少し離れたところでは、リア公爵とユーリがにらみ合い、なにかわあわあと騒いでいるが、いまはほんとうに気を失いそうだ。
「ごめんなさい、助けが遅くなって…小説ではクローディアスさまが私に首飾りをかけて、ユーリが助ける筈だったので、油断していて」
小説の私は鬼かなにかなのかな?軽い頭痛までしてきて目を閉じると、エリーゼの手が首もとから優しく背中を撫でる仕草にかわった。
「どちらにせよ、これでユーリは騎士団の聖騎士見習いになりますわよ」
そう言われて、ユーリの方を見れば、既にリア公爵に肩を抱かれて笑いかけられている。どうやら騒動はひと段落したようだ。

「…いや、私の濡れ衣は晴れてないんだが…」
これでは私が、他所の奥方へ手を出した揚げ句『アトラスの真珠』で腰を抜かし、『訪い人』であるユーリの聖なる力で助けられた愚かな間男ということになってしまう。周りを見れば、夜会へ参加していた貴族たちの好奇の視線が私たちに注がれていた。

いや、考えてみればその汚名を雪ぐとなるとヴィルヘルム皇太子の名をここで出さねばならない。
リア公爵夫人が私の言いぶんに荷担してくれるとは限らず、それどころか愛する皇太子のため、と嘘をつくかもしれない。

「エリーゼ、君は私の潔白を信じてくれる?」
甲斐甲斐しく私の側で濡れたハンカチを差し出してくれているエリーゼに問うと、
「勿論ですわ!クローディアスさまはいつかユーリとともに手をたず…!」
エリーゼ唇をてのひらで塞ぎ、できる限りエリーゼの耳へ口を近づけて、それ以上言わないで、とささやいた。エリーゼは目を円くひらいて頷いてから、そっと私の手を外させて
「クローディアス様は、サンダルウッドのかおりがしますわね!」
と言った。

私は臭いんだろうか!?そういえば、さっき随分冷や汗をかいたと椅子の背の辺りを掴んでエリーゼから体を離した。耳の先まで朱くなるのを感じる。
不味い、エリーゼに臭いといわれたら生きてはいけない。とりあえず、ここから逃げよう、エリーゼが私の匂いにこれ以上言及しないうちに…


私は席を立ち、
「少し外の空気を吸ってくるよ」
とエリーゼに言い残して、できるだけ素早く会場から外へ出た。

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