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予言された国難
冬の夜は長い
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よろけるようにして、私は用意されていたリア公爵邸のゲストルームへ入っていった。用意されていた一人がけソファに座り込み、少しのあいだ目を閉じて気持ちを落ち着ける。
取り敢えず、誰か呼んで着替えをした方が良いだろうか?と、肩の辺りを嗅いでいると、控えめなノックの音がきこえた。誰、と尋ねると
「クインタ家ご息女、コルネリア様がいらっしゃいます」
とリア邸の従者の声が答えた。
コルネリア・クインタ嬢。エリーゼと寮のフロアを分けあっている女生徒で、大商人の娘。ロビンが親しくつきあっているらしい。
そのコルネリアがなぜ、リア公爵の夜会で、しかも控え室にまでやってくる?
「通してください」
着替えはあきらめ、簡単に身なりを整えて椅子に座り直した。
「具合を悪くなさったのかしら?お話してもよろしくて?」
入ってきたコルネリアは、入口に立って挨拶したあと、そう尋ねた。赤いドレスに、黒繻子と黒檀の扇子を持った姿は、棘のある薔薇の様相だ。
「構いませんが、どうぞ扉は開けたままに」
あら、とコルネリアは笑った。
「紳士ですのね。それとも臆病なのかしら」
臆病ですが、なにか。とは無論言えず、相変わらず我ながら薄っぺらい笑顔をうかべて椅子を勧めた(私の家ではないが、一応形式上)。
優雅に座ったコルネリアは、にこやかに話をきりだした。
「お友達のロビンさまから伝言ですわ『死にたくなければ逃げろ』ですって」
意味がわからず目を円くしていると、コルネリアは持っていた扇を私の方へ渡した。柄の部分に、なにか彫ってある。
「竜騎士?」
声にだしてから、ゾッとした。そういえばエリーゼやユーリは、この国に戦がおきると言ってなかったか?それは、いつ?
「ロビンさまは王命によりメイン公爵様と共に南端の国境騎士団へ派兵されるそうですわ…今はまだ調査のためだとおっしゃっていましたけど…」
そういって、眉をさげた。
竜騎士とは、隣国にあたるセレアザードに棲むという魔物の王だ。セレアザードには人間を寄せ付けぬ深い森と広大な砂漠があり、あらゆる魔獣がそこからやってくる。南端の国境はそのセレアザードの森との境にあたり、戦がなくとも危険な地域に違いはなかった。
「しかし、セブロウ王の時代に竜騎士軍との間に不可侵の誓約を交わしたはずでは?なぜ、今になって……」
そこまで話してから、あることを思い出した。皇太子の執務室へ行ったとき、私の他に誰が皇太子に会った?
「まさか」
いくら皇太子が私やユーリを警戒していたとしても、不可侵の誓約を破って戦をおこしてまで?そう考えていると、ふと控え室の入り口のあたりに人影がみえた。
「ユーリ、入っていいよ。君も何か用かな」
声をかけると、そろり、といった風にユーリが入ってきた。
「女性といるとは思わなくて…そろそろお暇しようかなと。驚いた、随分な美人ですね」
幾分か含みをもった言い方だが、私がそうかい、と特に反応しないでいると、コルネリアは立ち上がり
「コルネリア・クインタと申します、貴族ではありませんので、どうぞ気楽にコルネリアとお呼びくださいませ、聖騎士様」
そう言ってユーリに深々と淑女の礼をする。
ユーリは、両手をもちあげて
「いやだな、まだ見習いに入ると決まっただけで、聖騎士ではないですよ。それに僕も貴族じゃないですから、頭をあげて?」
慌ててコルネリアの頭をあげさせた。
聖騎士の見習いになる、か。今までのところ、細部の違いはあれエリーゼが言ったことが起きている。私は悪寒にさいなまれながらコルネリアへ扇子を返した。
「あれ、その扇子、かわった意匠だね」
ユーリは首を傾げて其を見る。
「ユーリ・ヤスハラ様の運が悪ければ本物をご覧になれるでしょうね……では、わたくしはここまでで。お帰りになるなら、わたくしが宰相令嬢にそうとお伝えいたしましてよ」
お願いします、と伝えてユーリを見ると、なにか思うところがあるのか顎に手を当てて考え込んでいる最中だった。
「ユーリ、申し訳ないがエリーゼがくるまえに着替えをしたいんだけれど?」
暗にでていってもらえるようにほのめかすと、ユーリはああ、ハイ。と扉をしめ、私の従者がクローゼットにいれていたシャツをもってきた。
「会長。着替えながらでいいので話をきいて頂けますか?」
んんん?なぜだろう、イヤな予感しかしないんだが?
取り敢えず、誰か呼んで着替えをした方が良いだろうか?と、肩の辺りを嗅いでいると、控えめなノックの音がきこえた。誰、と尋ねると
「クインタ家ご息女、コルネリア様がいらっしゃいます」
とリア邸の従者の声が答えた。
コルネリア・クインタ嬢。エリーゼと寮のフロアを分けあっている女生徒で、大商人の娘。ロビンが親しくつきあっているらしい。
そのコルネリアがなぜ、リア公爵の夜会で、しかも控え室にまでやってくる?
「通してください」
着替えはあきらめ、簡単に身なりを整えて椅子に座り直した。
「具合を悪くなさったのかしら?お話してもよろしくて?」
入ってきたコルネリアは、入口に立って挨拶したあと、そう尋ねた。赤いドレスに、黒繻子と黒檀の扇子を持った姿は、棘のある薔薇の様相だ。
「構いませんが、どうぞ扉は開けたままに」
あら、とコルネリアは笑った。
「紳士ですのね。それとも臆病なのかしら」
臆病ですが、なにか。とは無論言えず、相変わらず我ながら薄っぺらい笑顔をうかべて椅子を勧めた(私の家ではないが、一応形式上)。
優雅に座ったコルネリアは、にこやかに話をきりだした。
「お友達のロビンさまから伝言ですわ『死にたくなければ逃げろ』ですって」
意味がわからず目を円くしていると、コルネリアは持っていた扇を私の方へ渡した。柄の部分に、なにか彫ってある。
「竜騎士?」
声にだしてから、ゾッとした。そういえばエリーゼやユーリは、この国に戦がおきると言ってなかったか?それは、いつ?
「ロビンさまは王命によりメイン公爵様と共に南端の国境騎士団へ派兵されるそうですわ…今はまだ調査のためだとおっしゃっていましたけど…」
そういって、眉をさげた。
竜騎士とは、隣国にあたるセレアザードに棲むという魔物の王だ。セレアザードには人間を寄せ付けぬ深い森と広大な砂漠があり、あらゆる魔獣がそこからやってくる。南端の国境はそのセレアザードの森との境にあたり、戦がなくとも危険な地域に違いはなかった。
「しかし、セブロウ王の時代に竜騎士軍との間に不可侵の誓約を交わしたはずでは?なぜ、今になって……」
そこまで話してから、あることを思い出した。皇太子の執務室へ行ったとき、私の他に誰が皇太子に会った?
「まさか」
いくら皇太子が私やユーリを警戒していたとしても、不可侵の誓約を破って戦をおこしてまで?そう考えていると、ふと控え室の入り口のあたりに人影がみえた。
「ユーリ、入っていいよ。君も何か用かな」
声をかけると、そろり、といった風にユーリが入ってきた。
「女性といるとは思わなくて…そろそろお暇しようかなと。驚いた、随分な美人ですね」
幾分か含みをもった言い方だが、私がそうかい、と特に反応しないでいると、コルネリアは立ち上がり
「コルネリア・クインタと申します、貴族ではありませんので、どうぞ気楽にコルネリアとお呼びくださいませ、聖騎士様」
そう言ってユーリに深々と淑女の礼をする。
ユーリは、両手をもちあげて
「いやだな、まだ見習いに入ると決まっただけで、聖騎士ではないですよ。それに僕も貴族じゃないですから、頭をあげて?」
慌ててコルネリアの頭をあげさせた。
聖騎士の見習いになる、か。今までのところ、細部の違いはあれエリーゼが言ったことが起きている。私は悪寒にさいなまれながらコルネリアへ扇子を返した。
「あれ、その扇子、かわった意匠だね」
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「ユーリ・ヤスハラ様の運が悪ければ本物をご覧になれるでしょうね……では、わたくしはここまでで。お帰りになるなら、わたくしが宰相令嬢にそうとお伝えいたしましてよ」
お願いします、と伝えてユーリを見ると、なにか思うところがあるのか顎に手を当てて考え込んでいる最中だった。
「ユーリ、申し訳ないがエリーゼがくるまえに着替えをしたいんだけれど?」
暗にでていってもらえるようにほのめかすと、ユーリはああ、ハイ。と扉をしめ、私の従者がクローゼットにいれていたシャツをもってきた。
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