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予言された国難
いずれゲームか小説か
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4日後、連休があけた週のはじめ。
ほら見ろ、としか言いようのない表情で、私はじっとりとユーリを睨んだまま執務机に両肘をついていた。
「すみません、あんなに彼女がその、喜ぶとは」
印鑑を手に、ユーリは困った様子で背後を振り返る。扉のむこう、生徒会の会議室でせわしなく書類を手に他の役員と作業をしているエリーゼが見えた。いつもと同じ単調な仕事であるはずのそれを、エリーゼはキラキラした笑顔でこなしている。
可愛い。掛け値なしに可愛すぎて、涙がでそうだ。
あの笑顔がただ私に向けられたものであるならば、といつでも願ってやまないが、今日の彼女の笑顔の理由は、余りにも理不尽だ。
「何で君はあの時、私の着替えを手伝おうなどと考えついたのかなあ」
恨み言のひとつも言いたくなる。
「だから、誰にもきかれずにこれから起こることについて話したかったからで…それなのに会長が矢鱈抵抗するから、エリーゼが来るまでに話し終わらなかったんでしょう」
そう、終わらなかった。ユーリが嫌がる私のシャツを無理やり脱がせ、それどころか下着までアンダーから引き出そうとして来たとき、従者でもそこまではしないと抵抗したのは認めよう。誰にでも肌を晒すような、節操のない男だと思われては困る。
そう、ユーリに半裸にされかかっているところに、エリーゼがやって来たのだ。そして、従者が止めるより早くエリーゼは扉を開いて……それはもう、にっこりと笑ったあと、
「お邪魔しました」
と、扉をしめてしまった。私は慌ててシャツを着込み、エリーゼを追いかけたが、時既に遅く、エリーゼは有頂天、私は煉獄へ…というわけだ。
しかし、とユーリは表情をひきしめた。
「副会長から何か連絡は?」
私は首をふり、顔を覆った。おそらくは皇太子によってロビンは我々と連絡の取れない場所へ送られた。戦地とまで言えずとも、かなり危険な場所にいるに違いない。
「一人で行くべきだったって思ってますね」
ぽん、と肩をたたかれ、ユーリを見上げた。
「皇太子殿下は遅かれ早かれ僕や貴方の戦力になりそうな貴族の勢力を削るつもりだった。メイン公爵家は騎士階級としては異例の高位ですし、マルセル王朝時代から続く家柄ですからね。貴方が何をどうしたって避けられない事態だったでしょう」
静かに、ユーリは続けた。
「僕の後見をしてくれている神殿派は市民からの支持がありますからすぐ叩けませんが、なんらか用意しているとみていいはず」
にこ、と笑いかけてはきているが、この男は何故ここで愉しそうにしているのか?ぞわぞわと背中に悪寒が走った。
「ユーリ・ヤスハラ。君はなぜそんなに嬉しげなのかな」
手が震えているのを押さえるため、なるたけ不機嫌を装ってユーリを睨んだ。
「怒らないで下さいよ。そもそもこのゲームは貴族が自分たちの領土と勢力を拡大する、いわば国取り合戦じゃないですか。だけど今の僕は貴族でもなきゃ自分の領土もない。一番いいのは国王についで領土がひろいマルセル侯爵家の臣下になることですよ。貴方がマルセルの名前と領土を得た暁には、セレートニアを譲ってはもらえないかな?と」
困ったような照れたような表情で、ユーリは頬をかいた。まるでそれが、ボードのうえのチェスの話をするように。
「セレートニア子爵領を獲て、そのあとは?」
声が震えてしまう。
「どうでしょうか。僕の代ではおそらくそこまでだけれど、できればもう少しいい位置につけられると良いですよね…神殿はせっかく王位へバックアップしてくれた訳だし」
さわやかな、優しげな言い方でユーリはそれを言う。
「君は思った以上に野心家だな」
私はなるたけ動揺していない、というふりでペンを探した。
「男なんて皆そうですよ。今頃ロビン副会長もチャンスだと考えてるんじゃないでしょうか」
そう言われて、取り出したペンを握る手につい力が入る。立ち上がり、ユーリを見下ろした。
「ユーリ、私はね、命がかかったやり取りを、チャンスだなんておもわないんだ。臆病者だからね」
まだインクをつけていないペンの先を、ユーリの首もとへ突きつけた。
多分頭に血がのぼっていた。それだけだとおもう、怒りにまかせて、文房具の先なんて突きつけたところでたいした脅しにもならないだろう。引っ込みがつかぬまま、突きつけていると突然
「クローディアスさま」
と優しげな声がきこえて、エリーゼだ、と思ったとたん、どういうわけか体から力がぬけ、椅子に座りこんだ。
「すまないユーリ、取り乱した」
顔を覆って、立ち去るよう手で合図すると、ユーリはいいえ、と首をふり、執務室をでていった。
「ごめんなさい、お邪魔かとおもったのですけれど、昨日の書類に不備があったみたいで、みていただけないかと」
エリーゼに声をかけられて書類をうけとった。エリーゼはいくつか不備について確認をしたのち、立ち去ろうとしてふりかえった。
「大丈夫ですわ、クローディアス様。ユーリは今はまだ相容れない部分もありますが、じきにそれが愛にかわります!」
なんという、間の悪さ。多分他の誰からみても、私はかなり取り乱していただろう。
「エリーゼ、しばらくその話はしないでくれないか…ゲームも、小説も、うんざりだ」
私は椅子を蹴倒すような勢いで立ち上がり、執務室を出た。エリーゼがなにか言っていたし、生徒会室を横切るときにもユーリが一瞬私の腕を掴もうとしたが、それを振り払って廊下にでた。
激昂してはならない。嫉妬してはならない。恨んではならない。そして、全て諦めるつもりで生きろと、父と母に育てられた。
今はそれだけのことが、とても、難しい。
ほら見ろ、としか言いようのない表情で、私はじっとりとユーリを睨んだまま執務机に両肘をついていた。
「すみません、あんなに彼女がその、喜ぶとは」
印鑑を手に、ユーリは困った様子で背後を振り返る。扉のむこう、生徒会の会議室でせわしなく書類を手に他の役員と作業をしているエリーゼが見えた。いつもと同じ単調な仕事であるはずのそれを、エリーゼはキラキラした笑顔でこなしている。
可愛い。掛け値なしに可愛すぎて、涙がでそうだ。
あの笑顔がただ私に向けられたものであるならば、といつでも願ってやまないが、今日の彼女の笑顔の理由は、余りにも理不尽だ。
「何で君はあの時、私の着替えを手伝おうなどと考えついたのかなあ」
恨み言のひとつも言いたくなる。
「だから、誰にもきかれずにこれから起こることについて話したかったからで…それなのに会長が矢鱈抵抗するから、エリーゼが来るまでに話し終わらなかったんでしょう」
そう、終わらなかった。ユーリが嫌がる私のシャツを無理やり脱がせ、それどころか下着までアンダーから引き出そうとして来たとき、従者でもそこまではしないと抵抗したのは認めよう。誰にでも肌を晒すような、節操のない男だと思われては困る。
そう、ユーリに半裸にされかかっているところに、エリーゼがやって来たのだ。そして、従者が止めるより早くエリーゼは扉を開いて……それはもう、にっこりと笑ったあと、
「お邪魔しました」
と、扉をしめてしまった。私は慌ててシャツを着込み、エリーゼを追いかけたが、時既に遅く、エリーゼは有頂天、私は煉獄へ…というわけだ。
しかし、とユーリは表情をひきしめた。
「副会長から何か連絡は?」
私は首をふり、顔を覆った。おそらくは皇太子によってロビンは我々と連絡の取れない場所へ送られた。戦地とまで言えずとも、かなり危険な場所にいるに違いない。
「一人で行くべきだったって思ってますね」
ぽん、と肩をたたかれ、ユーリを見上げた。
「皇太子殿下は遅かれ早かれ僕や貴方の戦力になりそうな貴族の勢力を削るつもりだった。メイン公爵家は騎士階級としては異例の高位ですし、マルセル王朝時代から続く家柄ですからね。貴方が何をどうしたって避けられない事態だったでしょう」
静かに、ユーリは続けた。
「僕の後見をしてくれている神殿派は市民からの支持がありますからすぐ叩けませんが、なんらか用意しているとみていいはず」
にこ、と笑いかけてはきているが、この男は何故ここで愉しそうにしているのか?ぞわぞわと背中に悪寒が走った。
「ユーリ・ヤスハラ。君はなぜそんなに嬉しげなのかな」
手が震えているのを押さえるため、なるたけ不機嫌を装ってユーリを睨んだ。
「怒らないで下さいよ。そもそもこのゲームは貴族が自分たちの領土と勢力を拡大する、いわば国取り合戦じゃないですか。だけど今の僕は貴族でもなきゃ自分の領土もない。一番いいのは国王についで領土がひろいマルセル侯爵家の臣下になることですよ。貴方がマルセルの名前と領土を得た暁には、セレートニアを譲ってはもらえないかな?と」
困ったような照れたような表情で、ユーリは頬をかいた。まるでそれが、ボードのうえのチェスの話をするように。
「セレートニア子爵領を獲て、そのあとは?」
声が震えてしまう。
「どうでしょうか。僕の代ではおそらくそこまでだけれど、できればもう少しいい位置につけられると良いですよね…神殿はせっかく王位へバックアップしてくれた訳だし」
さわやかな、優しげな言い方でユーリはそれを言う。
「君は思った以上に野心家だな」
私はなるたけ動揺していない、というふりでペンを探した。
「男なんて皆そうですよ。今頃ロビン副会長もチャンスだと考えてるんじゃないでしょうか」
そう言われて、取り出したペンを握る手につい力が入る。立ち上がり、ユーリを見下ろした。
「ユーリ、私はね、命がかかったやり取りを、チャンスだなんておもわないんだ。臆病者だからね」
まだインクをつけていないペンの先を、ユーリの首もとへ突きつけた。
多分頭に血がのぼっていた。それだけだとおもう、怒りにまかせて、文房具の先なんて突きつけたところでたいした脅しにもならないだろう。引っ込みがつかぬまま、突きつけていると突然
「クローディアスさま」
と優しげな声がきこえて、エリーゼだ、と思ったとたん、どういうわけか体から力がぬけ、椅子に座りこんだ。
「すまないユーリ、取り乱した」
顔を覆って、立ち去るよう手で合図すると、ユーリはいいえ、と首をふり、執務室をでていった。
「ごめんなさい、お邪魔かとおもったのですけれど、昨日の書類に不備があったみたいで、みていただけないかと」
エリーゼに声をかけられて書類をうけとった。エリーゼはいくつか不備について確認をしたのち、立ち去ろうとしてふりかえった。
「大丈夫ですわ、クローディアス様。ユーリは今はまだ相容れない部分もありますが、じきにそれが愛にかわります!」
なんという、間の悪さ。多分他の誰からみても、私はかなり取り乱していただろう。
「エリーゼ、しばらくその話はしないでくれないか…ゲームも、小説も、うんざりだ」
私は椅子を蹴倒すような勢いで立ち上がり、執務室を出た。エリーゼがなにか言っていたし、生徒会室を横切るときにもユーリが一瞬私の腕を掴もうとしたが、それを振り払って廊下にでた。
激昂してはならない。嫉妬してはならない。恨んではならない。そして、全て諦めるつもりで生きろと、父と母に育てられた。
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