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レイノルズの悪魔 南領へ行く
トリスタンの憂鬱
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クロード少年の訪問に、屋敷は大騒ぎになっていた。
「アイリス、あなたは離れに殿下をおつれして?私は急いで牧師館へいってきますからね!」
マリアテレサおばさまがクロード少年の滞在する部屋を用意したり、食べるものを手配する間に、リディアおばさまが近くの偉い人たち(とはいっても、このあたりでは牧師さんや近くの農場主くらいだけど)のところへ皇太子の来訪を知らせにいく。
「そんなことしなくていいのに」
ぼそぼそとクロード少年は文句を言っていたけれど、明日から暫くはクロード少年でなく皇太子として挨拶の日々だろう。
「マジで?わりとすぐばれたよね…ところで、王子様って案外暇なの?」
トリスは自分の夕食だというサンドイッチをもぐもぐしながら、手を振り回した。
「そんで、ぶちかましてやった?」
手の動きから、平手打ちをしたかときいているとわかった。
「できないわよ、それこそ首を跳ねられちゃうでしょう?それよりあなたは?今日は何をしていたの?」
そう聞くと、トリスは鬱陶しそうに眉をしかめて
「そりゃ、当たり前でしょ…朝から晩まで勉強、勉強、練習、勉強よ」
トリスはいま、リディア大伯母さまのお屋敷の侍女教育を受けている。それは私やトリスが想定していたより、かなりハードなもののようだった。
まあ、貴族の娘がうまれてすぐから10年かけて学ぶ淑女教育を、たかだか3ヶ月ほどでそれなりに見えるようにしなくてはならないし、衣装係としての知識や技術も学ばなくてはならないから、そうなってもしかたないのだけど。
それに加えて私の着替えや身の周りの世話までするのだから、トリスはいまレイノルズ公爵邸いち忙しい人物だとおもう。
「…ねえ、どれくらいできるようになったか、知りたいわ?もしうまくいったらクロードさまに会わせてあげられるかもしれないし」
それは単なる、好奇心で、珍しく9歳の子供らしい興味本位からの発言だった。だってトリスは今までのところ、私が書いた台本なしでは、まあまあごまかしながらの食事の給仕しかできてなかったから。
「ちょっと!あんた実はバカにしてんの?」
そう言うと、トリスは勢いよくお茶を飲み、立ち上がって腰に手を当てた。
「いいよ、じゃあ明日、リディアばあさんが司教さんを呼んでお茶会するっていうから、そんときにみせてあげるよ」
ふん、と鼻息を出すと、トリスは使用人用の出入口へ向かう。
「けど、お嬢さんが言い出したんだからね、王子様に絶対会わせてよね」
そう言うと、サッと姿を隠した。いや、実際はただ部屋をでていっただけなんだけど。
翌朝はなんとなく屋敷じゅうがそわそわ
していた。
このあたりでは貴族といっても領主であるリディアおば様とマリアテレサおば様のふたりくらいで、あとは近くの教会兼学校の司祭様を除いて、全て農民かその農民相手のちいさな商店主だ。
それがいきなり皇太子と、その侍従の貴族令息たちをもてなすことになったのだから、もう上を下への大騒動なのだ。
しかしさすがというか、客人であり皇太子の婚約者である私にはそうと感じさせない。まあ、トリスを除いては。
「ああー、もう、ホントにこんなときばっかり決まんないもんなんだよね!」
いらいらとトリスがドレスの紐を結びながら言う。
「トリス?もし難しいなら私が選ぶわよ?」
申し出たところ、
「そうじゃないの、司祭さんの到着時間!すぐくるなら午前中でしょ、髪は緩めでも崩れてこないけど、午後ならきちっと締めとかないとぼさっとしちゃうじゃん、お嬢さんどうせ歩き回るか、ピアノくらい弾くでしょ?」
いらいらしながらも、ちゃんとわかってるようなので笑ってしまう。
「そうね、難しいならきちっと締めてしまって?その方がわたしも遊ぶとき落ちて来なくていいのよ」
自分でも簡単には結い直せるのだから、構わないのにトリスは生真面目だ。
「遊ぶのは構わないけど、余り部屋からはなれないでよね、司祭さんが来たとき知らせようがないから」
ハイハイと適当に頷くと、ため息をついてから
「嫌なこととか、言われたら逃げてくるのよ。王子様でも駄目なもんは駄目って教えてやんなよね?」
そういってトリスは部屋を出て行く。このあと私の食事の用意があるのだ。
雨音が、窓をたたきはじめていた。
「アイリス、あなたは離れに殿下をおつれして?私は急いで牧師館へいってきますからね!」
マリアテレサおばさまがクロード少年の滞在する部屋を用意したり、食べるものを手配する間に、リディアおばさまが近くの偉い人たち(とはいっても、このあたりでは牧師さんや近くの農場主くらいだけど)のところへ皇太子の来訪を知らせにいく。
「そんなことしなくていいのに」
ぼそぼそとクロード少年は文句を言っていたけれど、明日から暫くはクロード少年でなく皇太子として挨拶の日々だろう。
「マジで?わりとすぐばれたよね…ところで、王子様って案外暇なの?」
トリスは自分の夕食だというサンドイッチをもぐもぐしながら、手を振り回した。
「そんで、ぶちかましてやった?」
手の動きから、平手打ちをしたかときいているとわかった。
「できないわよ、それこそ首を跳ねられちゃうでしょう?それよりあなたは?今日は何をしていたの?」
そう聞くと、トリスは鬱陶しそうに眉をしかめて
「そりゃ、当たり前でしょ…朝から晩まで勉強、勉強、練習、勉強よ」
トリスはいま、リディア大伯母さまのお屋敷の侍女教育を受けている。それは私やトリスが想定していたより、かなりハードなもののようだった。
まあ、貴族の娘がうまれてすぐから10年かけて学ぶ淑女教育を、たかだか3ヶ月ほどでそれなりに見えるようにしなくてはならないし、衣装係としての知識や技術も学ばなくてはならないから、そうなってもしかたないのだけど。
それに加えて私の着替えや身の周りの世話までするのだから、トリスはいまレイノルズ公爵邸いち忙しい人物だとおもう。
「…ねえ、どれくらいできるようになったか、知りたいわ?もしうまくいったらクロードさまに会わせてあげられるかもしれないし」
それは単なる、好奇心で、珍しく9歳の子供らしい興味本位からの発言だった。だってトリスは今までのところ、私が書いた台本なしでは、まあまあごまかしながらの食事の給仕しかできてなかったから。
「ちょっと!あんた実はバカにしてんの?」
そう言うと、トリスは勢いよくお茶を飲み、立ち上がって腰に手を当てた。
「いいよ、じゃあ明日、リディアばあさんが司教さんを呼んでお茶会するっていうから、そんときにみせてあげるよ」
ふん、と鼻息を出すと、トリスは使用人用の出入口へ向かう。
「けど、お嬢さんが言い出したんだからね、王子様に絶対会わせてよね」
そう言うと、サッと姿を隠した。いや、実際はただ部屋をでていっただけなんだけど。
翌朝はなんとなく屋敷じゅうがそわそわ
していた。
このあたりでは貴族といっても領主であるリディアおば様とマリアテレサおば様のふたりくらいで、あとは近くの教会兼学校の司祭様を除いて、全て農民かその農民相手のちいさな商店主だ。
それがいきなり皇太子と、その侍従の貴族令息たちをもてなすことになったのだから、もう上を下への大騒動なのだ。
しかしさすがというか、客人であり皇太子の婚約者である私にはそうと感じさせない。まあ、トリスを除いては。
「ああー、もう、ホントにこんなときばっかり決まんないもんなんだよね!」
いらいらとトリスがドレスの紐を結びながら言う。
「トリス?もし難しいなら私が選ぶわよ?」
申し出たところ、
「そうじゃないの、司祭さんの到着時間!すぐくるなら午前中でしょ、髪は緩めでも崩れてこないけど、午後ならきちっと締めとかないとぼさっとしちゃうじゃん、お嬢さんどうせ歩き回るか、ピアノくらい弾くでしょ?」
いらいらしながらも、ちゃんとわかってるようなので笑ってしまう。
「そうね、難しいならきちっと締めてしまって?その方がわたしも遊ぶとき落ちて来なくていいのよ」
自分でも簡単には結い直せるのだから、構わないのにトリスは生真面目だ。
「遊ぶのは構わないけど、余り部屋からはなれないでよね、司祭さんが来たとき知らせようがないから」
ハイハイと適当に頷くと、ため息をついてから
「嫌なこととか、言われたら逃げてくるのよ。王子様でも駄目なもんは駄目って教えてやんなよね?」
そういってトリスは部屋を出て行く。このあと私の食事の用意があるのだ。
雨音が、窓をたたきはじめていた。
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