春とともに君は去りゆく

あらんすみし

文字の大きさ
8 / 13

Distance

しおりを挟む
順調だった交際の潮目が変わってきたのは、5月も半分過ぎようかという頃だっただろうか。
自分の方は、相変わらず彼一筋だったが、彼は仕事が忙しいのか、それまで毎日のようにしていたメールも、1日1回とか、来ない時もあったりした。
彼が仕事が忙しいので仕方ない。自分は、彼の仕事の邪魔をしてはいけないと思って、自分からもメールは控えようと考えて、毎日送っていたメールも2日に1回とかにした。
会えない週もあった。一週くらいは仕方ないと思えた。
でも、その次の週も会えなかった。
どうして?と理由を聞くと、県人会があるから、と言われた。
3週目。
遂に我慢の限界を迎えて、駅前のマックで待ってるね、と彼にメールをしてマックでお茶をしながら返事を待った。
彼に合鍵を貰っていなかった自分は、ただひたすら待った。
でも、彼からは一向に返事が無い。
自分は、彼にメールをして、最終電車に乗って帰ることにした。
寂しくて泣きそうになって電車に揺られていると、彼からメールが届いた。
『ごめん、車の中に携帯忘れてて、今メールに気づいた』
という返事だった。
彼の住んでいる所に向かう方の電車なら、最終に乗れる。
自分は次の駅で慌てて乗り換えて、来た道を引き返した。
彼は部屋にいた。
自分は、どうにも解せなかった。どうして車の中に携帯を忘れたのなら、仕事が終わって車に戻った時にメールを確認しなかったのか?
どうして部屋に帰って来てからメールの返信をしたのか?
そんな疑問が口から溢れそうになったが、なんとかそれらの疑問は飲み込んだ。
口にした途端、良くないことになりそうな予感がしたから。
彼は、疲れていたけど、自分を抱きしめてくれた。
でも、以前とは何か違う。彼が、仕方なくやっているような気がした。
自分は、そんな空気に気づかないフリをして彼に抱かれていた。本当は、こんなことを望んでいたのではないのに。
翌日曜日、彼は朝早くからデスクに向かって仕事をしていた。
自分は、ベッドの上に腰掛けて、ただただ彼の仕事をしている背中を見ていた。
一言も言葉を発しなかった。
途中、彼がお昼ご飯を作ってくれた時くらいしか、話さなかったと思う。
何と無く、この頃から嫌な予感がしていた。
自分は、夕方になったので帰ることにした。
彼が駅まで送るよ、と言ってくれたけど、自分は断った。
今、自分にできる、精一杯の強がりだった。ほんのちょっとだけど、ほんのちょっとだけでも、彼の負担になりたくなかった。
帰りの電車に揺られながら、自分さえ頑張れば、自分さえ我慢すれば、もうすぐ彼の仕事も落ち着いて以前のように戻れると、自分に言い聞かせた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

処理中です...