不忘探偵4 〜純粋悪〜

あらんすみし

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白鳥御殿

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「それではおじさん、小林さん、早速ですがこの屋敷の中を案内しますね」
俺たちは修二の後について部屋を出る、そこで一つ、俺は兼ねてから疑問に思っていたことを小川に尋ねてみた。
「なんで、いつも俺を紹介する時は『小林』と紹介するんだ?」
俺は修二に聞こえないように、こっそりと聞いてみた。
「そりゃあ、明智小五郎の助手ときたら小林少年だからじゃないか」
小川は何を今更、という言い草で言う。
「何だって!俺がいつお前の助手になったんだって!?」
俺は驚きのあまり、思わず声を大きくしてしまった。
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもないよ、修二君」
小川はそう言いながら、肘で俺の脇腹を突いた。
「だから、細かいことはいちいち気にするなって。それに今さら、実は小林じゃありませんなんて訂正する必要も無いだろ。」
それだけ言うと、小川は足早に俺から離れて修二君の後に歩み寄った。
なんというか・・・まさか自分が名探偵気取りだったとは。いつも俺のお陰で事件を解決してきたくせに、いい気なものだ。

「このお屋敷は、地元の人達からは『白鳥御殿』と呼ばれています。中央の棟から左右に伸びる東棟と西棟が、まるで白鳥が羽を広げているようだからだそうです。とにかく広いので、誰がどこに住んでいるのか覚えるのも大変だと思います。実際、僕も覚えるまでに一週間かかりました。
まず、中央棟から説明しますね。中央棟は一階に大広間と食堂とキッチン。2階に娯楽室とミニシアター。3階が当主の昇仁様と艶子様のお部屋になります。同じ一族であっても、3階に出入りできるのは極限られた人のみです。
具体的には、昇仁様と艶子様以外には、陽美おばさま、月代お義母さま、星子おばさまと、松崎加奈さん、そして龍昇君の母である麻谷麗さん、執事の田所さん、家政婦長の市原さんくらいですね。
でも、最近はもっぱら麗さんが入り浸っていて、それが嫌で艶子様は東棟の客用の部屋を使っています。
そして東西やそれぞれの棟ですが、基本的に左右対称の作りになっていて、東西ともに2階、3階は客室になっていて、ワンフロアに5部屋あります。東、西共に中央棟に近い部屋が1号室となり、最も離れている部屋が5号室となります。全ての部屋に、ラグジュアリーとトイレが完備していて、ご家族の方はそれぞれ好きな部屋に居住しています。
今、東棟には305に艶子様、304に陽美おばさま、そして2階の203に陽美おばさまのお子さんである愛梨あいりさんと海斗かいとさん御夫妻、205に星子おばさまと礼司れいじさんご夫妻、201にそのお子さんのあかねさんとあきらさん一家が住んでいます。
そして西棟には3階の301に月代さん敏樹としきさんご夫妻と、304にその子にあたる僕の妻の静香しずかで住んでいます。
2階にはお二人の愛人、201が加奈さんで205麗さんのお部屋があります。あと、加奈さんの一人娘の美智ちゃんが202、それと今、204には星子さんのお嬢さんのたまきさんが先週から帰省して滞在しています。
東棟の一階にはジムと大浴場とサウナと屋内プールがあり、西棟の一階は使用人たちの居住スペースになっています」
「聞いてはみたものの、あとで地図にでもまとめないとイメージが掴めないな」
「そうですね。とにかくだだっ広くて部屋数も多いし、誰がどこの部屋にいるのか覚えるまで大変でした。小林さんも、わからない時はいつでも僕に聞いてくださいね」
「はい、わかりました」
修二君の説明で全て頭に入った俺は、生返事を返した。
「まぁ、こいつは大丈夫。記憶力がいいからな」
その時、廊下の向こうに2人の女の子が佇んでいるのが見えた。歳の頃はお姉ちゃんと思われる女の子が6才かそのくらい、妹らしい女の子はその2つ下くらいか、可愛らしい兎のぬいぐるみを大事そうに抱えている。お姉ちゃんは泣きじゃくっている妹を一生懸命にあやしている。
「凛ちゃん、舞ちゃん、どうかしたの?」
修二君がその2人の姉妹に優しく声をかける。
「舞、妹が欲しかったの」
妹の舞の方が、涙と鼻水まみれで泣いていた。
「そうかぁ、舞ちゃんは妹が欲しかったんだね」
「舞、もう泣かないの。もうお部屋に戻ろう」
姉の凛が舞の頭を撫でて慰める。
そう言って2人の姉妹は部屋へ戻って行った。
「あの姉妹は、茜さんと暁さん夫妻のお嬢さんの凛ちゃんと舞ちゃんで、凛ちゃんはたしか7才だったかな?とてもしっかりした子で、舞ちゃんはまだ甘えたがりの4才です」
そこへ、姉妹とすれ違いで1人の派手な光沢のあるモスグリーンのガウンを着た女性が、俺たちの方へ向かって歩いてきた。
「嫌ぁね、子供って残酷よね」
「あっ、加奈さん、こんにちは。風邪の具合はどうですか?」
「えぇ、まだ咳が残ってはいるけど、だいぶ落ち着いたわ」
そう言うと、松崎加奈は口に手を当てて2回咳をした。
「どうぞご無理をなさらないで下さいね」
「ありがとう。わたくしも部屋に戻って安静にするわ」
そう言い残すと松崎加奈は、さっさと行ってしまった。
「気の強そうな女だなぁ」
小川が松崎加奈の姿を見えなくなるまで見送ってから呟く。
「えぇ、まぁ、そうですね。艶子様をはじめ、女性陣は皆さん気が強いから、緊張感が半端じゃないですね。少数派の男は肩身が狭いですよ」
修二は笑いながら言ったその時、修二の携帯電話が激しく震えた。
「はい。あぁ、もうそんな時間か。ありがとう、今からお客さんと一緒に行くよ」
「どうした?」
「あっ、妻からです。夕食ができたので、よろしければお二人もご一緒にどうぞ。一族の皆んなに紹介しますよ」
「いいのか?部外者が一緒して」
小川が珍しく遠慮している。
「気になさらないで下さい。それに、いずれ関わる事になるのですから、皆さんにお披露目するにはちょうどいいですよ」
「それで、俺たちはどういう関係だということにするんだ?」
俺は、正直に皆んなの前で探偵だと明かすべきなのか、それとも身分を偽った方がいいのか考えあぐねた。
「そうですね。まだ何か起きたわけでもないので、仕事上の関係者としておきましょう」
「わかった、それならそういうことで」
俺たちは、まだこの時、この案件を気軽に引き受けたことを悔やむことになるのを知らなかった。







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