不忘探偵4 〜純粋悪〜

あらんすみし

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小悪魔

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「ところで、俺はまだこの屋敷の構造について完全に把握できていないんだが、少し案内してもらえないかな?」
「いいですよ、おじさん。小林さんもご一緒にいかがですか?一度説明しただけでは覚えられないと思いますし」
小川の要望に修二は快く返し、一緒に俺のことも誘ってくれた。
「いや、俺は大丈夫だから2人で行ってくれ。それより少し体を動かしたいから、俺はジムを使わさせてもらうことにするよ」
「わかりました、ジムは東棟の一階です。また後で時間を設けて、これからのことを話しましょう」
そうして俺は、小川と修二達と部屋の前で別れジムへと向かった。
階段を降りてちょうど2階に差し掛かった時、俺は2人の男女に出会した。
「あっ、こんばんは」
2人の男女の男の方が、鉢合わせしそうになった俺に向かって、咄嗟に小さな声で挨拶をしてきた。そして、それと同時に2人は繋いでいた手を離し、何事もないかの如く振る舞った。
「どうも」
俺も突然目の前に現れた2人を前にして、それだけ小さく返すだけだった。
「こんばんは、はじめまして」
男の陰から、世間一般でいうところの美少女が歩み出てきて、屈託の無い笑顔を浮かべて明るく挨拶してきた。
この少女は何だろう?一見すると清純そうだが、どこか男好きするというような、悪い言い方になるが擦れている雰囲気も漂わせている。
少女のようにも見えるが、そこはかとなく醸し出す雰囲気は、もう十分に成熟した大人の女という感じか。まだ10代だろうが、大人びて見える。
男の方は、色白で細身な優男で、とてもおとなしそうな感じがする。その雰囲気が、少女とは陰と陽のようにコントラストを感じさせる。
「私、烏丸美智といいます」
「あっ。僕は今市と申します」
なるほど、この2人が先ほどの食事の時に話題に上っていた女子高生と、その家庭教師なのだな。
「どうも、烏丸修二さんと一緒に仕事をしております、小林と申します。本日は誕生のお祝いのためにご挨拶に伺いました」
「そうなんですね!もうお食事は済んだんですか?これからどちらへ?」
美智はまるで違う人種でも見るかのように、興味津々といった様子で、目を輝かせながら尋ねてくる。
「ちょっと体を動かしたくて、ジムに行こうと思って」
「それでしたら、私がご案内します!」
「いや、それでしたら・・・」
俺は屋敷の構造なら既に頭に入っているので、特に案内してもらう必要も無かったので丁重に断ろうとした。
「みっちゃん、僕の部屋にDVDを取りに行くんじゃないの?」
今市青年が、俺と距離を詰める美智との間に割って入ってきた。大人しそうで自己主張が苦手なように見えるが、彼の目には明らかに不快感が滲んでいる。
「そんなのあとでいいわ。小林さんをご案内したら取りに行くから、先に先生の部屋に戻っていて」
それだけ言うと、美智は今市青年の返事も待たず、顧みることもなく、俺の手首を掴んで引っ張っていく。
俺が振り返ると、今市青年の困惑した表情が印象に残った。
「すいません、私は大丈夫なので彼氏さんと一緒に行ってあげてください」
「いいんですよ、あの人とは毎日四六時中一緒にいるし。それより、やっぱり彼が私の彼氏だってわかっちゃいました?」
「えぇ、まぁ」
「全く・・・不用意に人前で、みっちゃんなんて呼ぶから」
そう言うと、美智は唇を尖らせた。どうやら2人は自分達の関係を、上手く隠せていると思っているようだ。
「こちらにはいつまでいらっしゃる予定なんですか?」
「会長のお子さまの誕生祝いが済んだら、すぐに帰るつもりです。あの、ジムまでの行き方なら本当に大丈夫ですから、もう行ってあげてください。彼も待ってると思いますよ」
「いいの、毎日一緒だと飽きちゃうのよね」
「失礼ですけど、彼とは付き合って長いんですか?」
「いいえ、まだ3週間くらいかな。夏休みの間だけの付き合いだから、もうすぐお別れね」
美智は何の影も窺わせることなく微笑む。
「それは寂しいね」
俺は当たり障りのない返事をする。
「別に。もう、毎日ずっと一緒にいると、退屈なのよね。彼、大人しいし、恋愛や女の子についての免疫も無いし、休みの間だけの関係がちょうどいいと思うわ」
「そんなもの?」
「私、女子校に通っているんですけど、それはそれはもう退屈で、男の子はいないから出会いも無いし、バイトも部活も禁止されてるし、夏休みとか冬休みもこの屋敷から出られないし、ほんとに退屈なんですよね。夏休みとかに家庭教師をつけてもらう以外に、出会いなんて期待できなくて。ぶっちゃけ、彼とはただの暇つぶしみたいなものですから。それよりも、私は小林さんみたいな大人な男の人の方が好きかも」
そう言って、美智が俺を艶めかしい目で舐めるように見る。
「君は面白い子だね」
「そうですか?私はけっこう本気かもしれませんけどね」
なるほど。彼女のその年齢とは似つかわない大人びた雰囲気は、自分の魅力を熟知した女の成せる術なのかもしれないな。
「ちなみに、小林さんはどんな感じの女の人がタイプなんですか?」
美智の瞳の中に、何かを期待して待っている光が宿って見える。
「そうだな。大人の女性かな」
「あっ、それって私にも可能性ありますか?」
「いや、申し訳ないが、君とは正反対だと思うよ」
「えー、意地悪ね。でも、その方が面白いかもしれないわ。すぐに落ちるなんてつまらないもの」
俺の意地悪な言葉にも、美智は怒りを感じたようだが、すぐに気持ちを切り替えて、かえって彼女の闘志に火をつけてしまったかもしれないようだった。
「ここがジムです。他に何かわからないことはありますか?」
「いえ、特に無いので大丈夫です」
そう返すと、美智はいきなり俺に抱きついてきた。
「何かあったら、なんでも私に聞いて下さいね」
美智はそう俺の耳元で囁いた。
「じゃあ、ついでだから一つ聞いてもいいかな?」
「えっ?何?」
美智の表情から嬉しさが溢れる。
「君は、お母さんのことが好き?」
俺の問いかけに、美智はキョトンとしている。
「君のお母さんとは、まだちゃんとお話ししたことがないから、ちょっと知りたかったんだよ」
「あの人のことなんか知りたかったの?ぶっちゃけ嫌いよ」
美智は俺から体を離した。その表情には、あからさまな嫌悪感が浮かんでいる。
「それはどうして?」
「あの人、私のこと嫌いなのよ。子供が嫌いなの。だから私を生まれてすぐに、烏丸の家に養子に出したのよ」
そう答える美智の顔は、怒りだけでなく、いろいろな感情が見え隠れしているようだった。
もしかしたら、親から受けるべき愛情を受けられなかったことが、今の美智の人格を形成しているのかもしれない。
そう考えると、俺は少しだけ美智のことが不憫に思えた。











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