10 / 18
雀のお喋り
しおりを挟む
ドアをノックする音がする。
「どうぞ」
加藤がノックに返事をすると、ドアが開いて小田切が環と美智に部屋に入るように促した。
環も美智も、物怖じするような雰囲気は無く、かえって互いの顔を見合わせてはクスクスと笑い合ったりしている。
「夜遅くにすいません。捜査への協力に感謝します。さっ、そちらへお掛け下さい」
加藤が2人にソファへ座るように促す。
2人は小さな嬌声を上げながら、状況を楽しんでいるようだった。
「まさか小川さんと小林さんが刑事さんだとは思わなかったわ」
美智が笑うと環もそれに同調して、「ねぇ~」と大きく頷いてみせた。
「こうなることを見越してやって来たんですか?」
美智が俺と小川に向かって、溢れる好奇心を隠しきれずに尋ねる。
「早速ですが時間も遅いので、そろそろ事情聴取にうつらせてもらってもいいかな?」
加藤が大きな咳払いをして、2人の関心を自分に向けさせようとする。
環と美智は、ケタケタと笑いながら「ごめんなさい~い」と言って、ようやく事情聴取がスタートした。
「まず、お二人が龍昇ちゃんの部屋に行った時間を教えて下さい」
「えっと、たしか9時15分くらいだったと思うわ」
確かに、藤波綾香の証言と同じで、俺と入れ違いにやって来たようだ。
「お二人はいつも一緒に龍昇ちゃんの所へ来るのかな?」
「いいえ、今日はたまたま途中で環ちゃんと会ったから、一緒に行こうってことにしたの。本当は今日は1人で行こうとしていたの」
2人は互いに視線を合わせて、自分たちの記憶に齟齬が無いことを確認しあっているようだった。
「経緯はわかりました。それでは、お二人が部屋に着いてから後のことを詳しく伺いましょうか」
加藤の言葉には、独特の威圧感が感じられ、環と美智もその迫力を前にして、それまでの楽しげな和気あいあいとした様子も消え失せてしまった。
「お二人が部屋の前にも来た時、部屋の中に藤波さんはいらっしゃいましたか?」
「はい、いました」
「他に誰か見たとか、何か気づいたことはありませんか?」
「廊下は直線だから、誰かが部屋の外にいたら必ず目につくと思いますし、他は特に普段と変わったことは無かったように思います」
基本的に加藤の問いかけには美智が答え、環は隣でそれについて頷いている。
「そう言えば」
それまで美智の言葉に頷いているしかなかった環が口を開いた。
「何か思い出しましたか?」
「なんてことないんですけど、藤波さんに龍昇ちゃんの寝顔を見に来た、と言ったら、龍昇ちゃんはもう寝ているからと一度断られたんです」
「いつもはそんな事ない?」
「はい。でも、いつもより遅く行ったから、それが理由かもしれませんけど」
「いつもは何時頃行っているのかな?」
「いつもは8時過ぎくらいよね?」
環が美智に同意を求める。
美智も「遅くとも8時半くらいにはいつも行ってます」と、環の言葉を補強するかのように付け加えた。
俺は、そういう事情もあって、あの時、藤波綾香は凛と舞の姉妹に早く帰るように言っていたのか、と思った。
「それでは、龍昇ちゃんの様子について何か気づいたことはありませんか?」
「特に何も」
それまで饒舌だった2人だったが、加藤の聴取が核心に及んできたことを察知したのか、神妙な面持ちになった。
「龍昇ちゃんの様子はどうでしたか?」
「どうって・・・ぐっすり寝てました」
「そうね、寝てたわ」
2人の様子は、それまでとは打って変わってトーンが下がってしまった。
「本当にいつもと違うことはありませんでしたか?」
加藤の再びの質問に、2人は黙り込んでしまった。
「質問を変えましょう。お二人は、どれくらい部屋に滞在していましたか?」
「10分くらいかしら、ねぇ、環ちゃん?」
「そうね。いつもそれくらいはいるわよね」
「それがですね、藤波さんの証言では、お二人はその時は5分もいなかったとおっしゃってるんですけどね。どちらが正しいのでしょうか?」
「そんなの!藤波さんの思い違いです!」
美智が自分たちに疑いの目が向けられていると過敏に反応したのか、ムキになって反論した。
「そうよ、あの人きっと私たちのことが嫌いで貶めようとしているに違いないわ!」
環も美智に加勢した。
「嫌われている、というのは具体的に何か心当たりがあるのですか?」
俺は2人に尋ねた。
「だって、食事の時だって皆んなとは別に扱われているし、麗さんの我儘に振り回されているし、私たち一族にいい感情なんて持っている筈ないわ」
環には、確固とした確信があるのか、力強く持論を主張した。
果たして、その程度のことで藤波綾香が家族の者たちに嫌悪感を抱くだろうか?確信としては弱い気がするが。
「逆に聞くが、君たちが龍昇ちゃんに会っている時に、藤波綾香は何をしていたが覚えているかな?」
「さぁ?私たち、それどころじゃなかったから分からないわ」
「それどころ?」
「いえ、私たち、いつも龍昇ちゃんのことに夢中になってしまって、それで藤波さんのことなんて関心が無かった、って意味です」
美智の言葉に環も乗っかって、大きな相槌を何度もした。
本当にそういう意味で言ったのだろうか?しかし、これ以上彼女たちからその事について証言は得られそうな気はしなかった。
「それで、お二人は数分滞在して部屋を出て行かれたというわけですね。部屋を出てから何か気づいたことなどはありませんでしたか?誰かに会ったとか、人影を見たとか」
「どうだったかしら?環ちゃん、何か覚えてる?」
美智に尋ねられた環は首を大きく横に振った。
「分かりました、こんな遅い時間まで捜査にご協力いただきましてありがとうございます。また何かありましたお話を伺うこともあるとは思いますが、その時はどうぞよろしくお願いします」
加藤が2人にお礼を述べると、彼女たちは小田切に連れられて客間から出て行った。
「どう思いますか、あの2人の証言。何か気づいたことはありますか?」
加藤は俺たちに尋ねた。
「そうですね。龍昇ちゃんの部屋に入ってからの証言をする前と後で、2人の様子にかなり差を感じましたね。何かボロを出さないように慎重に言葉を選んでいたような気がします」
俺は、そう言って改めて頭の中で彼女たちの言葉を反芻してみた。
2人が何か隠しているような気はするのだが、確たる証拠が無い以上、今の段階で何か有力な情報を得られることは出来なさそうだ。
「どうぞ」
加藤がノックに返事をすると、ドアが開いて小田切が環と美智に部屋に入るように促した。
環も美智も、物怖じするような雰囲気は無く、かえって互いの顔を見合わせてはクスクスと笑い合ったりしている。
「夜遅くにすいません。捜査への協力に感謝します。さっ、そちらへお掛け下さい」
加藤が2人にソファへ座るように促す。
2人は小さな嬌声を上げながら、状況を楽しんでいるようだった。
「まさか小川さんと小林さんが刑事さんだとは思わなかったわ」
美智が笑うと環もそれに同調して、「ねぇ~」と大きく頷いてみせた。
「こうなることを見越してやって来たんですか?」
美智が俺と小川に向かって、溢れる好奇心を隠しきれずに尋ねる。
「早速ですが時間も遅いので、そろそろ事情聴取にうつらせてもらってもいいかな?」
加藤が大きな咳払いをして、2人の関心を自分に向けさせようとする。
環と美智は、ケタケタと笑いながら「ごめんなさい~い」と言って、ようやく事情聴取がスタートした。
「まず、お二人が龍昇ちゃんの部屋に行った時間を教えて下さい」
「えっと、たしか9時15分くらいだったと思うわ」
確かに、藤波綾香の証言と同じで、俺と入れ違いにやって来たようだ。
「お二人はいつも一緒に龍昇ちゃんの所へ来るのかな?」
「いいえ、今日はたまたま途中で環ちゃんと会ったから、一緒に行こうってことにしたの。本当は今日は1人で行こうとしていたの」
2人は互いに視線を合わせて、自分たちの記憶に齟齬が無いことを確認しあっているようだった。
「経緯はわかりました。それでは、お二人が部屋に着いてから後のことを詳しく伺いましょうか」
加藤の言葉には、独特の威圧感が感じられ、環と美智もその迫力を前にして、それまでの楽しげな和気あいあいとした様子も消え失せてしまった。
「お二人が部屋の前にも来た時、部屋の中に藤波さんはいらっしゃいましたか?」
「はい、いました」
「他に誰か見たとか、何か気づいたことはありませんか?」
「廊下は直線だから、誰かが部屋の外にいたら必ず目につくと思いますし、他は特に普段と変わったことは無かったように思います」
基本的に加藤の問いかけには美智が答え、環は隣でそれについて頷いている。
「そう言えば」
それまで美智の言葉に頷いているしかなかった環が口を開いた。
「何か思い出しましたか?」
「なんてことないんですけど、藤波さんに龍昇ちゃんの寝顔を見に来た、と言ったら、龍昇ちゃんはもう寝ているからと一度断られたんです」
「いつもはそんな事ない?」
「はい。でも、いつもより遅く行ったから、それが理由かもしれませんけど」
「いつもは何時頃行っているのかな?」
「いつもは8時過ぎくらいよね?」
環が美智に同意を求める。
美智も「遅くとも8時半くらいにはいつも行ってます」と、環の言葉を補強するかのように付け加えた。
俺は、そういう事情もあって、あの時、藤波綾香は凛と舞の姉妹に早く帰るように言っていたのか、と思った。
「それでは、龍昇ちゃんの様子について何か気づいたことはありませんか?」
「特に何も」
それまで饒舌だった2人だったが、加藤の聴取が核心に及んできたことを察知したのか、神妙な面持ちになった。
「龍昇ちゃんの様子はどうでしたか?」
「どうって・・・ぐっすり寝てました」
「そうね、寝てたわ」
2人の様子は、それまでとは打って変わってトーンが下がってしまった。
「本当にいつもと違うことはありませんでしたか?」
加藤の再びの質問に、2人は黙り込んでしまった。
「質問を変えましょう。お二人は、どれくらい部屋に滞在していましたか?」
「10分くらいかしら、ねぇ、環ちゃん?」
「そうね。いつもそれくらいはいるわよね」
「それがですね、藤波さんの証言では、お二人はその時は5分もいなかったとおっしゃってるんですけどね。どちらが正しいのでしょうか?」
「そんなの!藤波さんの思い違いです!」
美智が自分たちに疑いの目が向けられていると過敏に反応したのか、ムキになって反論した。
「そうよ、あの人きっと私たちのことが嫌いで貶めようとしているに違いないわ!」
環も美智に加勢した。
「嫌われている、というのは具体的に何か心当たりがあるのですか?」
俺は2人に尋ねた。
「だって、食事の時だって皆んなとは別に扱われているし、麗さんの我儘に振り回されているし、私たち一族にいい感情なんて持っている筈ないわ」
環には、確固とした確信があるのか、力強く持論を主張した。
果たして、その程度のことで藤波綾香が家族の者たちに嫌悪感を抱くだろうか?確信としては弱い気がするが。
「逆に聞くが、君たちが龍昇ちゃんに会っている時に、藤波綾香は何をしていたが覚えているかな?」
「さぁ?私たち、それどころじゃなかったから分からないわ」
「それどころ?」
「いえ、私たち、いつも龍昇ちゃんのことに夢中になってしまって、それで藤波さんのことなんて関心が無かった、って意味です」
美智の言葉に環も乗っかって、大きな相槌を何度もした。
本当にそういう意味で言ったのだろうか?しかし、これ以上彼女たちからその事について証言は得られそうな気はしなかった。
「それで、お二人は数分滞在して部屋を出て行かれたというわけですね。部屋を出てから何か気づいたことなどはありませんでしたか?誰かに会ったとか、人影を見たとか」
「どうだったかしら?環ちゃん、何か覚えてる?」
美智に尋ねられた環は首を大きく横に振った。
「分かりました、こんな遅い時間まで捜査にご協力いただきましてありがとうございます。また何かありましたお話を伺うこともあるとは思いますが、その時はどうぞよろしくお願いします」
加藤が2人にお礼を述べると、彼女たちは小田切に連れられて客間から出て行った。
「どう思いますか、あの2人の証言。何か気づいたことはありますか?」
加藤は俺たちに尋ねた。
「そうですね。龍昇ちゃんの部屋に入ってからの証言をする前と後で、2人の様子にかなり差を感じましたね。何かボロを出さないように慎重に言葉を選んでいたような気がします」
俺は、そう言って改めて頭の中で彼女たちの言葉を反芻してみた。
2人が何か隠しているような気はするのだが、確たる証拠が無い以上、今の段階で何か有力な情報を得られることは出来なさそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
沢田くんはおしゃべり
ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!!
【あらすじ】
空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。
友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。
【佐藤さん、マジ天使】(心の声)
無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす!
めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨
エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!)
エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる