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あらんすみし

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悪い知らせ

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私は走る。地面を打ちつける雨の中を走る。
どうして?どうしてお前があんなことを?
私は路地裏の朽ちた廃ビルに駆け込み、階段を一段飛ばしで駆け上がる。
いちばん上のフロアにたどり着くと、そこに人影があった。
その人影は、こちらに背を向けて、窓から雨に煙る街並みを眺めていた。
私は、その人影にゆっくりと歩み寄る。
足音に気づいて、その人影がこちらを振り向く。
「どうして…どうしてお前が?」

朝。
私の名前は、藤井亮一。
一仕事終えた翌日の朝ほど気持ちのいい朝は無い。
私はベッドの上で大きく伸びをして、布団から出て、階段を降りてリビングの扉を開いた。
「おはよう、あなた。」
「パパ、おはよう。」
私の愛する妻の美咲と、自慢の娘の美華が私を出迎える。
「あなた、はい、コーヒー。」
美咲が私のために入れてくれたコーヒーを一口含み飲み込むと、鼻腔いっぱいにコーヒーの香りが広がる。
「やだなぁ、朝からあんなニュース。」
そう言って美華が、テレビの情報番組が報じているニュースを観てぼやいた。
ニュースでは、昨夜殺害された女性の事件を取り上げている。
ここ一年くらいの間に、これで8件目になる。おおよそ1ヶ月くらいの間隔を空けて起きる、"水曜日の切り裂きジャック"のことだ。
いつも決まって水曜日の遅い夜に、暗い夜道を歩いて帰宅している女性、風俗嬢が、翌朝、胸を切り裂かれた状態で死体となって発見されるという事件だ。
犯行の手口や、必ず水曜日の夜に発生することから、世間ではすっかり"水曜日の切り裂きジャック"として定着してしまっていた。
私がなぜ、この事件について精通しているのかと言うと、私がこの事件の犯人だからだ。
そう、私が今朝、気持ち良く起きられたのも、全ては昨夜の一仕事がうまくいったからだ。
「いったい、どこの誰がこんなことをしているんだろうな。かわいそうに、皆んなまだ若いのに。」
私はトーストを頬張りながら、それっぽい感想を口にした。
「きっと、弱い女の人しか殺せない卑怯者よ!許せないわ!」
美華が、そのかわいい顔に怒りを滲ませながらスムージーを一息に飲む。
「水曜日の夜は、皆んな怖がって早く帰るようになったらしいわね。美華も気をつけなさい。水曜日は塾や部活をしないで、学校が終わったら真っ直ぐ帰ってくるのよ。」
「あたしは大丈夫!絶対にそんな目に遭うことはないから。」
美華が何の根拠があって、その自信がどこから湧いて来るのかは謎だが、確かに私が美華を殺すことは絶対に無い。
いくら私が人を殺すことで快楽を得るサイコパスだからと言っても、それだけは確信を持って言える。
「それじゃあパパ、あたし、先に行くね!」
美華は私にそう言って、朝食を済ませると登校して行った。
「あなたも早く済ませてね。私も今朝は早めに出勤しないといけないから、食器は水に浸けておいてね。」

昨夜の事件は、職場でもその話題で持ちきりだった。
職場の人間たちも、口々に考察をしたり、残酷な犯行に対する憤りを口にしたり、恐怖に怯えたりしていた。
犯人である私には、それらは最大の賛辞であり、悦びでもあった。
これでまた、1ヶ月くらいは気持ちよく生活できる。
この充実感、もうやめられない。

そんなことがあった3週間後のことだった。
そろそろ次の獲物を物色し始めるか、と思った翌日の朝だった。
私は戦慄した。
なぜなら、ついに9件目の事件が起きたからだった。
どうして?
私はやってないのに、どうして新たな被害者が出るんだ?
警察はなぜ、今回の件を一連の事件と結論づけたんだ?
犯行の手口だけなら誰でも真似はできるだろう。
しかし、まだ報道はされていないが、犯行には犯人である私にしか知り得ないことがある。
それは、毎回体の一部に十字の印を刻むことだ。
これだけは犯人である私か、警察関係者しか知らないはず。
どうやって今回の犯人は、その刻印のことを知り得たのだろうか?
「パパ、さっきからどうしたの?顔色が悪いよ。」
私は美華の声で我に帰った。
「あ…いや、何でも無いよ。」
くそ!どこのどいつだ?完璧な私の総合芸術に泥を塗る奴は!?
許せない。
決めた。この事件を起こした、薄汚い模倣犯を私自身で見つけてやる。そして、必ずその償いをさせてやる。私はそう決意して、口に含んだトーストを引きちぎって食べた。
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