2 / 20
バディ
しおりを挟む
遡ること3週間前。8件目の事件があった翌日。
捜査本部での会議中、1人の老齢の刑事が入ってくる。
「遅いぞ、加納!捜査会議に遅刻するなんて!」
「すんません。」
加納と呼ばれた老齢の刑事は、いちばん後ろの若い刑事の隣に腰掛けた。
「で、何かわかったのか?」
「いえ、まだやっと身元とおおよその死亡推定時刻がわかっだけで、まだ何もわかっていないのと同じです。」
若い刑事は、加納にそっと1枚のメモを差し出す。
そこには被害者の名前と、おおよその死亡推定時刻が記されていた。
被害者の名前は須藤聖子。死亡推定時刻は昨夜の21:00~24:00とのことだった。
会議では、その後の捜査方針として、現場付近の聴き込み、一連の水曜日の切り裂きジャックとの関連性、念のため被害者の身辺調査を並行して行うことを確認した。
そして、加納は隣に座っている河辺とバディを組むことになった。
「あらら、河辺ちゃん、また加納さんと組まされることになったんだ、可哀想に。」
「いや、河辺自らが加納さんと組みたがっているらしいぞ。」
「河辺も変わり者だよな、あんな爺さんを慕っているなんて。」
しかし当の河辺はと言うと、そんな陰口などどこ吹く風だった。
そして、加納と河辺ら所轄の刑事達は、現場付近の聴き込みを担当することとなった。
聴き込みは捜査の基本だが、要はいちばん地味な労力のかかる仕事を、所轄に押し付けているのも変わらないものだった。
「お前も変わり者だな、こんな爺さんと組みたがるなんてな。」
加納はいつも不思議に思う。河辺のようなやる気のある若い青年が、どうして自分のような退職間近の刑事と組みたがるのかと。
「それはいつも言ってるじゃないですか、僕は加納さんから刑事としてのノウハウを学びたいからですと。」
「ノウハウも何も、俺みたいな手段を選ばないやり方は上から睨まれるだけだし、何よりやりづらいだろ?」
「ま、それは否めないですけど。それで、この後どうします?素直に現場付近の聴き込みに行きますか?」
河辺は若者らしい爽やかな微笑みを浮かべると、その瞳には子犬のような飼い主に何かを期待しているような輝きが浮かんで見えた。
「そうだな…まずは実際の現場を見てみるか。会議だけじゃ、いまいちイメージが湧かない。」
現場は既に規制線が解かれていて、本当にそこで若い女性の遺体が見つかったとは思えないほど静かだった。
「捜査資料によりますと、遺体はこの花壇の中に、まるで花に取り囲まれて眠っているかのように横にされていたそうです。」
「ふざけた奴だな。自分で殺しておいて、自分で弔ってやったとでもいうのか?それで、いつもの刻印はどこに印されていたんだっけ?」
「今回は左脚の甲でした。この刻印、何の意味があるんでしょうか?」
「さぁなぁ。気の触れている奴の思考回路は、いつまで経っても理解できないな。慰留品は何も見つかって無いんだよな?」
「はい、今回も何も残ってません。唯一あるとすれば足跡だけで、それも体重65から70キロくらい、サイズは26センチの首都圏だけでも2万足流通しているやつで、そこから犯人に結びつく何かを見つけるのは難しそうです。」
「だろうな、いつものことだ。」
加納は一つ、大きくため息をついた。
「残念だが、現場にはもうたいしたものは無さそうだな。鑑識の連中が徹底的に探しただろうし、細かいことは奴らの報告待ちだな。」
「それじゃあ、我々も近隣の聴き込みに行きましょうか?」
「そうだな。いつものことだが、虱潰しにいくしか無さそうだな。」
加納は立ち上がると、痛む膝を摩った。
「痛みますか?」
「まあな、寄る年波には抗えないな。」
加納は膝を摩りながら河辺に微笑んだ。河辺には、その加納の微笑みが慈しみに溢れた神仏のように映った。
捜査本部での会議中、1人の老齢の刑事が入ってくる。
「遅いぞ、加納!捜査会議に遅刻するなんて!」
「すんません。」
加納と呼ばれた老齢の刑事は、いちばん後ろの若い刑事の隣に腰掛けた。
「で、何かわかったのか?」
「いえ、まだやっと身元とおおよその死亡推定時刻がわかっだけで、まだ何もわかっていないのと同じです。」
若い刑事は、加納にそっと1枚のメモを差し出す。
そこには被害者の名前と、おおよその死亡推定時刻が記されていた。
被害者の名前は須藤聖子。死亡推定時刻は昨夜の21:00~24:00とのことだった。
会議では、その後の捜査方針として、現場付近の聴き込み、一連の水曜日の切り裂きジャックとの関連性、念のため被害者の身辺調査を並行して行うことを確認した。
そして、加納は隣に座っている河辺とバディを組むことになった。
「あらら、河辺ちゃん、また加納さんと組まされることになったんだ、可哀想に。」
「いや、河辺自らが加納さんと組みたがっているらしいぞ。」
「河辺も変わり者だよな、あんな爺さんを慕っているなんて。」
しかし当の河辺はと言うと、そんな陰口などどこ吹く風だった。
そして、加納と河辺ら所轄の刑事達は、現場付近の聴き込みを担当することとなった。
聴き込みは捜査の基本だが、要はいちばん地味な労力のかかる仕事を、所轄に押し付けているのも変わらないものだった。
「お前も変わり者だな、こんな爺さんと組みたがるなんてな。」
加納はいつも不思議に思う。河辺のようなやる気のある若い青年が、どうして自分のような退職間近の刑事と組みたがるのかと。
「それはいつも言ってるじゃないですか、僕は加納さんから刑事としてのノウハウを学びたいからですと。」
「ノウハウも何も、俺みたいな手段を選ばないやり方は上から睨まれるだけだし、何よりやりづらいだろ?」
「ま、それは否めないですけど。それで、この後どうします?素直に現場付近の聴き込みに行きますか?」
河辺は若者らしい爽やかな微笑みを浮かべると、その瞳には子犬のような飼い主に何かを期待しているような輝きが浮かんで見えた。
「そうだな…まずは実際の現場を見てみるか。会議だけじゃ、いまいちイメージが湧かない。」
現場は既に規制線が解かれていて、本当にそこで若い女性の遺体が見つかったとは思えないほど静かだった。
「捜査資料によりますと、遺体はこの花壇の中に、まるで花に取り囲まれて眠っているかのように横にされていたそうです。」
「ふざけた奴だな。自分で殺しておいて、自分で弔ってやったとでもいうのか?それで、いつもの刻印はどこに印されていたんだっけ?」
「今回は左脚の甲でした。この刻印、何の意味があるんでしょうか?」
「さぁなぁ。気の触れている奴の思考回路は、いつまで経っても理解できないな。慰留品は何も見つかって無いんだよな?」
「はい、今回も何も残ってません。唯一あるとすれば足跡だけで、それも体重65から70キロくらい、サイズは26センチの首都圏だけでも2万足流通しているやつで、そこから犯人に結びつく何かを見つけるのは難しそうです。」
「だろうな、いつものことだ。」
加納は一つ、大きくため息をついた。
「残念だが、現場にはもうたいしたものは無さそうだな。鑑識の連中が徹底的に探しただろうし、細かいことは奴らの報告待ちだな。」
「それじゃあ、我々も近隣の聴き込みに行きましょうか?」
「そうだな。いつものことだが、虱潰しにいくしか無さそうだな。」
加納は立ち上がると、痛む膝を摩った。
「痛みますか?」
「まあな、寄る年波には抗えないな。」
加納は膝を摩りながら河辺に微笑んだ。河辺には、その加納の微笑みが慈しみに溢れた神仏のように映った。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
【完結】真実の愛はおいしいですか?
ゆうぎり
恋愛
とある国では初代王が妖精の女王と作り上げたのが国の成り立ちだと言い伝えられてきました。
稀に幼い貴族の娘は妖精を見ることができるといいます。
王族の婚約者には妖精たちが見えている者がなる決まりがありました。
お姉様は幼い頃妖精たちが見えていたので王子様の婚約者でした。
でも、今は大きくなったので見えません。
―――そんな国の妖精たちと貴族の女の子と家族の物語
※童話として書いています。
※「婚約破棄」の内容が入るとカテゴリーエラーになってしまう為童話→恋愛に変更しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる