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バディ
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遡ること3週間前。8件目の事件があった翌日。
捜査本部での会議中、1人の老齢の刑事が入ってくる。
「遅いぞ、加納!捜査会議に遅刻するなんて!」
「すんません。」
加納と呼ばれた老齢の刑事は、いちばん後ろの若い刑事の隣に腰掛けた。
「で、何かわかったのか?」
「いえ、まだやっと身元とおおよその死亡推定時刻がわかっだけで、まだ何もわかっていないのと同じです。」
若い刑事は、加納にそっと1枚のメモを差し出す。
そこには被害者の名前と、おおよその死亡推定時刻が記されていた。
被害者の名前は須藤聖子。死亡推定時刻は昨夜の21:00~24:00とのことだった。
会議では、その後の捜査方針として、現場付近の聴き込み、一連の水曜日の切り裂きジャックとの関連性、念のため被害者の身辺調査を並行して行うことを確認した。
そして、加納は隣に座っている河辺とバディを組むことになった。
「あらら、河辺ちゃん、また加納さんと組まされることになったんだ、可哀想に。」
「いや、河辺自らが加納さんと組みたがっているらしいぞ。」
「河辺も変わり者だよな、あんな爺さんを慕っているなんて。」
しかし当の河辺はと言うと、そんな陰口などどこ吹く風だった。
そして、加納と河辺ら所轄の刑事達は、現場付近の聴き込みを担当することとなった。
聴き込みは捜査の基本だが、要はいちばん地味な労力のかかる仕事を、所轄に押し付けているのも変わらないものだった。
「お前も変わり者だな、こんな爺さんと組みたがるなんてな。」
加納はいつも不思議に思う。河辺のようなやる気のある若い青年が、どうして自分のような退職間近の刑事と組みたがるのかと。
「それはいつも言ってるじゃないですか、僕は加納さんから刑事としてのノウハウを学びたいからですと。」
「ノウハウも何も、俺みたいな手段を選ばないやり方は上から睨まれるだけだし、何よりやりづらいだろ?」
「ま、それは否めないですけど。それで、この後どうします?素直に現場付近の聴き込みに行きますか?」
河辺は若者らしい爽やかな微笑みを浮かべると、その瞳には子犬のような飼い主に何かを期待しているような輝きが浮かんで見えた。
「そうだな…まずは実際の現場を見てみるか。会議だけじゃ、いまいちイメージが湧かない。」
現場は既に規制線が解かれていて、本当にそこで若い女性の遺体が見つかったとは思えないほど静かだった。
「捜査資料によりますと、遺体はこの花壇の中に、まるで花に取り囲まれて眠っているかのように横にされていたそうです。」
「ふざけた奴だな。自分で殺しておいて、自分で弔ってやったとでもいうのか?それで、いつもの刻印はどこに印されていたんだっけ?」
「今回は左脚の甲でした。この刻印、何の意味があるんでしょうか?」
「さぁなぁ。気の触れている奴の思考回路は、いつまで経っても理解できないな。慰留品は何も見つかって無いんだよな?」
「はい、今回も何も残ってません。唯一あるとすれば足跡だけで、それも体重65から70キロくらい、サイズは26センチの首都圏だけでも2万足流通しているやつで、そこから犯人に結びつく何かを見つけるのは難しそうです。」
「だろうな、いつものことだ。」
加納は一つ、大きくため息をついた。
「残念だが、現場にはもうたいしたものは無さそうだな。鑑識の連中が徹底的に探しただろうし、細かいことは奴らの報告待ちだな。」
「それじゃあ、我々も近隣の聴き込みに行きましょうか?」
「そうだな。いつものことだが、虱潰しにいくしか無さそうだな。」
加納は立ち上がると、痛む膝を摩った。
「痛みますか?」
「まあな、寄る年波には抗えないな。」
加納は膝を摩りながら河辺に微笑んだ。河辺には、その加納の微笑みが慈しみに溢れた神仏のように映った。
捜査本部での会議中、1人の老齢の刑事が入ってくる。
「遅いぞ、加納!捜査会議に遅刻するなんて!」
「すんません。」
加納と呼ばれた老齢の刑事は、いちばん後ろの若い刑事の隣に腰掛けた。
「で、何かわかったのか?」
「いえ、まだやっと身元とおおよその死亡推定時刻がわかっだけで、まだ何もわかっていないのと同じです。」
若い刑事は、加納にそっと1枚のメモを差し出す。
そこには被害者の名前と、おおよその死亡推定時刻が記されていた。
被害者の名前は須藤聖子。死亡推定時刻は昨夜の21:00~24:00とのことだった。
会議では、その後の捜査方針として、現場付近の聴き込み、一連の水曜日の切り裂きジャックとの関連性、念のため被害者の身辺調査を並行して行うことを確認した。
そして、加納は隣に座っている河辺とバディを組むことになった。
「あらら、河辺ちゃん、また加納さんと組まされることになったんだ、可哀想に。」
「いや、河辺自らが加納さんと組みたがっているらしいぞ。」
「河辺も変わり者だよな、あんな爺さんを慕っているなんて。」
しかし当の河辺はと言うと、そんな陰口などどこ吹く風だった。
そして、加納と河辺ら所轄の刑事達は、現場付近の聴き込みを担当することとなった。
聴き込みは捜査の基本だが、要はいちばん地味な労力のかかる仕事を、所轄に押し付けているのも変わらないものだった。
「お前も変わり者だな、こんな爺さんと組みたがるなんてな。」
加納はいつも不思議に思う。河辺のようなやる気のある若い青年が、どうして自分のような退職間近の刑事と組みたがるのかと。
「それはいつも言ってるじゃないですか、僕は加納さんから刑事としてのノウハウを学びたいからですと。」
「ノウハウも何も、俺みたいな手段を選ばないやり方は上から睨まれるだけだし、何よりやりづらいだろ?」
「ま、それは否めないですけど。それで、この後どうします?素直に現場付近の聴き込みに行きますか?」
河辺は若者らしい爽やかな微笑みを浮かべると、その瞳には子犬のような飼い主に何かを期待しているような輝きが浮かんで見えた。
「そうだな…まずは実際の現場を見てみるか。会議だけじゃ、いまいちイメージが湧かない。」
現場は既に規制線が解かれていて、本当にそこで若い女性の遺体が見つかったとは思えないほど静かだった。
「捜査資料によりますと、遺体はこの花壇の中に、まるで花に取り囲まれて眠っているかのように横にされていたそうです。」
「ふざけた奴だな。自分で殺しておいて、自分で弔ってやったとでもいうのか?それで、いつもの刻印はどこに印されていたんだっけ?」
「今回は左脚の甲でした。この刻印、何の意味があるんでしょうか?」
「さぁなぁ。気の触れている奴の思考回路は、いつまで経っても理解できないな。慰留品は何も見つかって無いんだよな?」
「はい、今回も何も残ってません。唯一あるとすれば足跡だけで、それも体重65から70キロくらい、サイズは26センチの首都圏だけでも2万足流通しているやつで、そこから犯人に結びつく何かを見つけるのは難しそうです。」
「だろうな、いつものことだ。」
加納は一つ、大きくため息をついた。
「残念だが、現場にはもうたいしたものは無さそうだな。鑑識の連中が徹底的に探しただろうし、細かいことは奴らの報告待ちだな。」
「それじゃあ、我々も近隣の聴き込みに行きましょうか?」
「そうだな。いつものことだが、虱潰しにいくしか無さそうだな。」
加納は立ち上がると、痛む膝を摩った。
「痛みますか?」
「まあな、寄る年波には抗えないな。」
加納は膝を摩りながら河辺に微笑んだ。河辺には、その加納の微笑みが慈しみに溢れた神仏のように映った。
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