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First contact
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さて、私の模倣犯がなぜか十字の刻印のことを知っているかとなれば、最も可能性が高いのは模倣犯が警察関係者である場合だ。
どうにかして警察関係者と接触できないだろうか?
そう考えた私は、フリーライターと身分を偽って関係者に接近することを思いついた。
事件ことを取材している者なら、事件について聞き取りをすることにも何ら疑問を抱かれることは無いだろう。
そのためには、今の仕事を続けながらやることは難しい。
私は、その日のうちに会社に一カ月の休職願いを出し、家族には札幌への長期出張でしばらく家を空ける、ということにした。
9件目の事件が起きた新宿中央署の近くのビジネスホテルに部屋を取り、そこを拠点に調査を開始することにした。
準備を整えると、私はさっそく新宿中央署へと向かった。入り口の受付で、水曜日の切り裂きジャックの取材をしたい、と申し出て名刺を見せると、受付の女性警察官はあからさまに渋い顔をして、記者会見がその日の夜に開かれる事を教えてくれた。
ところで、フリーライターとは実際にどのような活動をすればいいのだろうか?
闇雲に警察関係者に聞き込みをして、かえって変な印象を持たれるのも後々面倒なことになりそうだ。
と、いうことで、私は警察署の周りをウロウロしている取材関係者にくっついて、一定の距離を保ちながらおこぼれを貰うことにした。
なるべく目立たないように、しかし、確実に情報を聞き逃さないように、慎重かつ大胆に行動しなければならない。
その時、私の横を通り過ぎた老齢の刑事が、手帳を落とした。私はその手帳を拾って、その老齢の刑事と若い刑事に声をかけた。
「あの、手帳を落としましたよ。」
すると、その手帳から一枚の写真がするりと舞い落ちた。
その写真を拾い目を落とすと、被害者の名前や聞き込みで得たと思われることが書かれた、ニュースで見た9人目の被害者の顔写真だった。
そうなれば、この二人の刑事は明らかに捜査関係者だ。ならば話しは早い。私は老齢の刑事に話しかけた。
「わたくし、フリーライターをしております北島と申します。」
私は、今朝、急ごしらえで作った偽名の名刺を刑事に差し出した。
「実はわたくし、今朝発生した水曜日の切り裂きジャックの事件を取材しておりまして…先程の写真、今回の被害者の方の写真ですよね?少しお話を伺えないでしょうか?」
「すいません、我々急いでいるもので。」
老齢の刑事と一緒にいる若い刑事が話しを遮る。
「ライターさん、あなたもこの世界に長いこといらっしゃるなら、少しは礼儀をわきまえた方がよろしいと思いますよ。私は、あんたらみたいな仕事をしている人間が嫌いでね、だから何もあんたらに話すことは無い。」
イヤなジジイだ。
「すいません、実はわたくし、今回のことが初めての仕事で、右も左も分からず踏み込んでしまい、申し訳ありません。」
「そうでしたか。それならば仕方ない部分もありますね。では、お気をつけて取材をして下さい。我々はこれで失礼いたします。手帳を拾っていただき、ありがとうございます。」
それだけ言うと、二人の刑事は警察署の建物の中に入って行った。
気に喰わない。この私に向かって説教するなんて、私を捕まえることすらできない無能な連中に何故、私が遜らないといけない?
「あのフリーライターさん、けっこう年齢がいってそうですよね。40半ばくらいかな?あの歳でフリーライターを始めるなんて、変わった人ですよね。」
河辺が振り返ると、そこにはまださっきのフリーライターが立っていて、よくは見えなかったがこちらを睨みつけているように感じた。
「まぁ、人にはそれぞれ事情があるんだろう。何にしろ、それと我々の捜査は関係無いことだ。」
加納は、吐き捨てるように呟いた。
河辺はさっきもらった名刺に目を落とした。
フリーライター、北島康介。あの金メダリストと同じ名前。へぇー、そうなんだ。だが、特段珍しい名前とも言えない。こういうこともあるだろう。
そんなことを考えながら、河辺はポケットにその名刺をねじ込んだ。
どうにかして警察関係者と接触できないだろうか?
そう考えた私は、フリーライターと身分を偽って関係者に接近することを思いついた。
事件ことを取材している者なら、事件について聞き取りをすることにも何ら疑問を抱かれることは無いだろう。
そのためには、今の仕事を続けながらやることは難しい。
私は、その日のうちに会社に一カ月の休職願いを出し、家族には札幌への長期出張でしばらく家を空ける、ということにした。
9件目の事件が起きた新宿中央署の近くのビジネスホテルに部屋を取り、そこを拠点に調査を開始することにした。
準備を整えると、私はさっそく新宿中央署へと向かった。入り口の受付で、水曜日の切り裂きジャックの取材をしたい、と申し出て名刺を見せると、受付の女性警察官はあからさまに渋い顔をして、記者会見がその日の夜に開かれる事を教えてくれた。
ところで、フリーライターとは実際にどのような活動をすればいいのだろうか?
闇雲に警察関係者に聞き込みをして、かえって変な印象を持たれるのも後々面倒なことになりそうだ。
と、いうことで、私は警察署の周りをウロウロしている取材関係者にくっついて、一定の距離を保ちながらおこぼれを貰うことにした。
なるべく目立たないように、しかし、確実に情報を聞き逃さないように、慎重かつ大胆に行動しなければならない。
その時、私の横を通り過ぎた老齢の刑事が、手帳を落とした。私はその手帳を拾って、その老齢の刑事と若い刑事に声をかけた。
「あの、手帳を落としましたよ。」
すると、その手帳から一枚の写真がするりと舞い落ちた。
その写真を拾い目を落とすと、被害者の名前や聞き込みで得たと思われることが書かれた、ニュースで見た9人目の被害者の顔写真だった。
そうなれば、この二人の刑事は明らかに捜査関係者だ。ならば話しは早い。私は老齢の刑事に話しかけた。
「わたくし、フリーライターをしております北島と申します。」
私は、今朝、急ごしらえで作った偽名の名刺を刑事に差し出した。
「実はわたくし、今朝発生した水曜日の切り裂きジャックの事件を取材しておりまして…先程の写真、今回の被害者の方の写真ですよね?少しお話を伺えないでしょうか?」
「すいません、我々急いでいるもので。」
老齢の刑事と一緒にいる若い刑事が話しを遮る。
「ライターさん、あなたもこの世界に長いこといらっしゃるなら、少しは礼儀をわきまえた方がよろしいと思いますよ。私は、あんたらみたいな仕事をしている人間が嫌いでね、だから何もあんたらに話すことは無い。」
イヤなジジイだ。
「すいません、実はわたくし、今回のことが初めての仕事で、右も左も分からず踏み込んでしまい、申し訳ありません。」
「そうでしたか。それならば仕方ない部分もありますね。では、お気をつけて取材をして下さい。我々はこれで失礼いたします。手帳を拾っていただき、ありがとうございます。」
それだけ言うと、二人の刑事は警察署の建物の中に入って行った。
気に喰わない。この私に向かって説教するなんて、私を捕まえることすらできない無能な連中に何故、私が遜らないといけない?
「あのフリーライターさん、けっこう年齢がいってそうですよね。40半ばくらいかな?あの歳でフリーライターを始めるなんて、変わった人ですよね。」
河辺が振り返ると、そこにはまださっきのフリーライターが立っていて、よくは見えなかったがこちらを睨みつけているように感じた。
「まぁ、人にはそれぞれ事情があるんだろう。何にしろ、それと我々の捜査は関係無いことだ。」
加納は、吐き捨てるように呟いた。
河辺はさっきもらった名刺に目を落とした。
フリーライター、北島康介。あの金メダリストと同じ名前。へぇー、そうなんだ。だが、特段珍しい名前とも言えない。こういうこともあるだろう。
そんなことを考えながら、河辺はポケットにその名刺をねじ込んだ。
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