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挑発
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早朝の公園は、多くの報道陣と野次馬で騒然としていた。
無数のパトランプの明滅と、黄色と黒の規制線の向こうにある青いビニールシートには、多くの警察関係者が出入りをしている。
そんな中、規制線のテープをくぐって加納がビニールシートの方へと向かう。
加納の姿に気づいて、河辺が加納に挨拶をする。
「遂に10人目ですね。」
河辺は、犯人に対する怒りや憎しみで興奮している。
「被害者は?」
加納は遺体に向かって拝みながら河辺に聞いた。
「被害者は、胡桃沢美香子、24歳。中野居住で無店舗型の風俗嬢をしています。死因は失血死。第一発見者は、犬の散歩をしていた近くの住人で、発見時間は朝の5時過ぎです。」
「それで、例の印は?」
河辺は、遺体の頭の前髪をどかした。その下には、額の真ん中に十字の印が刻まれていた。
「ふざけた奴です。まるで、我々を挑発しているみたいです。」
「額の刻印。被害者の職業。どうやら奴で間違いなさそうだな。」
加納は、立ちあがろうとして膝の痛みに顔を歪めた。
「大丈夫ですか?ところで、今回の件で一つ新しい証拠が残されていました。」
「何だ、それは?」
「犯行声明です。遺体の服のポケットに入っていました。」
新たな事件の発生を受けて、会見場も色めき立っていた。それもそのはず、今回は警察から事前にこれまでに公表されていなかった、新事実の報告があると告知されていたからだった。
その新事実が何なのか、様々な憶測が飛び交っていた。
北島と月島も会見場の一角に陣取り、会見が始まるのを今か今かと待っていた。
そこへ、警察関係者が姿を現し、居並ぶカメラがいっせいにシャッターを切り、フラッシュの光が会見場を夏の陽射しのように照らした。
会見が始まり、警察関係者から事件の概要が説明された。
そして、遂に警察トップが重い口を開いた。
「事前にお知らせしていたとおり、今回の事件の発生を受けて、これまで公表しておりませんでした新事実を公表させていただきます。」
その重々しい口調から、何が発表されるのか報道陣は息を呑んで見守り、会見場はカメラのシャッターを切る音だけが響く。
「今回公表することは2点。まず、これまで全ての件で被害者の体に、十字の刻印が刻まれていたこと。そして、今回の事件で犯行声明が発見されましたことを、ご報告いたします。」
報道陣達の驚きの声で、会見場が騒然となる。
と、同時に会見場のあちこちから記者達の質問の声が巻き起こり、それはさながら次々と押し寄せる波のようであった。
他の記者に負けじと、月島と北島も挙手をする。すると、警察の司会が北島を指名した。
「フリーの北島です。今回ですが、前回からかなり短い間隔で犯行が発生しましたが、それについての見解を伺いたいことと、犯人から届いた挑戦状の内容について伺えないでしょうか。」
北島の問いに対して、わかりました、と警察関係者から答えが返ってきて、報道陣に資料が配られ、壇上のモニターには犯行声明の写真が映し出された。
「皆様のお手元には、犯行声明の全文を載せました。モニターに映っております、犯行声明の写真については後ほど別データで配らさせていただきます。」
挑戦状
愚かな警察関係者諸君。
いったい君たちは何をしてきたのだ?
9人目がわたしのやったことではないということに
どうして気づかない?
そのせいでこの女は死んだ。
おまえたちが殺したんだ。
そこで挑戦だ。
1ヶ月後までに
連続幼女暴行殺人魔の
桑原正芳死刑囚の死刑を執行しろ。
死刑囚と罪の無い女
どちらの命を選ぶ?
一瞬の静寂の後、会見場は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
本当に9人目は別の犯人なのか?
執行しなければ、本当に次の犠牲者が出るのか?
その様子に月島は、ただおろおろとしているばかり。
北島は、ただ笑いを堪えるのに必死だった。
ネットでは侃侃諤諤の議論が白熱していた。
そもそも死刑執行は法務大臣の仕事で、警察の仕事では無い。
死刑囚なんてさっさと死刑執行しろ。
国に圧力をかけろ。
こんなことで悪しき前例を作ってはいけない。テロに屈するのと同じだ。
切り裂きジャックを捕まえられない警察は責任を取れ。
反対する政治家は次の選挙で落とせ。
世間は真っ二つに割れた。
無数のパトランプの明滅と、黄色と黒の規制線の向こうにある青いビニールシートには、多くの警察関係者が出入りをしている。
そんな中、規制線のテープをくぐって加納がビニールシートの方へと向かう。
加納の姿に気づいて、河辺が加納に挨拶をする。
「遂に10人目ですね。」
河辺は、犯人に対する怒りや憎しみで興奮している。
「被害者は?」
加納は遺体に向かって拝みながら河辺に聞いた。
「被害者は、胡桃沢美香子、24歳。中野居住で無店舗型の風俗嬢をしています。死因は失血死。第一発見者は、犬の散歩をしていた近くの住人で、発見時間は朝の5時過ぎです。」
「それで、例の印は?」
河辺は、遺体の頭の前髪をどかした。その下には、額の真ん中に十字の印が刻まれていた。
「ふざけた奴です。まるで、我々を挑発しているみたいです。」
「額の刻印。被害者の職業。どうやら奴で間違いなさそうだな。」
加納は、立ちあがろうとして膝の痛みに顔を歪めた。
「大丈夫ですか?ところで、今回の件で一つ新しい証拠が残されていました。」
「何だ、それは?」
「犯行声明です。遺体の服のポケットに入っていました。」
新たな事件の発生を受けて、会見場も色めき立っていた。それもそのはず、今回は警察から事前にこれまでに公表されていなかった、新事実の報告があると告知されていたからだった。
その新事実が何なのか、様々な憶測が飛び交っていた。
北島と月島も会見場の一角に陣取り、会見が始まるのを今か今かと待っていた。
そこへ、警察関係者が姿を現し、居並ぶカメラがいっせいにシャッターを切り、フラッシュの光が会見場を夏の陽射しのように照らした。
会見が始まり、警察関係者から事件の概要が説明された。
そして、遂に警察トップが重い口を開いた。
「事前にお知らせしていたとおり、今回の事件の発生を受けて、これまで公表しておりませんでした新事実を公表させていただきます。」
その重々しい口調から、何が発表されるのか報道陣は息を呑んで見守り、会見場はカメラのシャッターを切る音だけが響く。
「今回公表することは2点。まず、これまで全ての件で被害者の体に、十字の刻印が刻まれていたこと。そして、今回の事件で犯行声明が発見されましたことを、ご報告いたします。」
報道陣達の驚きの声で、会見場が騒然となる。
と、同時に会見場のあちこちから記者達の質問の声が巻き起こり、それはさながら次々と押し寄せる波のようであった。
他の記者に負けじと、月島と北島も挙手をする。すると、警察の司会が北島を指名した。
「フリーの北島です。今回ですが、前回からかなり短い間隔で犯行が発生しましたが、それについての見解を伺いたいことと、犯人から届いた挑戦状の内容について伺えないでしょうか。」
北島の問いに対して、わかりました、と警察関係者から答えが返ってきて、報道陣に資料が配られ、壇上のモニターには犯行声明の写真が映し出された。
「皆様のお手元には、犯行声明の全文を載せました。モニターに映っております、犯行声明の写真については後ほど別データで配らさせていただきます。」
挑戦状
愚かな警察関係者諸君。
いったい君たちは何をしてきたのだ?
9人目がわたしのやったことではないということに
どうして気づかない?
そのせいでこの女は死んだ。
おまえたちが殺したんだ。
そこで挑戦だ。
1ヶ月後までに
連続幼女暴行殺人魔の
桑原正芳死刑囚の死刑を執行しろ。
死刑囚と罪の無い女
どちらの命を選ぶ?
一瞬の静寂の後、会見場は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
本当に9人目は別の犯人なのか?
執行しなければ、本当に次の犠牲者が出るのか?
その様子に月島は、ただおろおろとしているばかり。
北島は、ただ笑いを堪えるのに必死だった。
ネットでは侃侃諤諤の議論が白熱していた。
そもそも死刑執行は法務大臣の仕事で、警察の仕事では無い。
死刑囚なんてさっさと死刑執行しろ。
国に圧力をかけろ。
こんなことで悪しき前例を作ってはいけない。テロに屈するのと同じだ。
切り裂きジャックを捕まえられない警察は責任を取れ。
反対する政治家は次の選挙で落とせ。
世間は真っ二つに割れた。
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