it's a beautiful world.

あらんすみし

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さっきの会見は良い余興だった。面白すぎて食が進む。
「北島さん、こんな時によく蕎麦なんて食べていられますね。」
私の向かいに座る月島は、さっきから少しも蕎麦に口をつけていない。
「腹が減っては戦は出来ぬ、と言うだろ?食べらる時に食べておいた方がいいですよ。」
内心、こんな面白い展開なんだから、食欲が湧いて当たり前だろ、と思いながら私は蕎麦を啜った。
「死刑、執行するんでしょうか?」
月島がポツリと誰に対してでもなく呟いた。
「それは無理だと思いますよ。」
「なぜ、ですか?」
月島が私の顔を覗き込む。
「執行の権限は法務大臣が持っているのは知ってますよね?しかし、いくら権限があってもそう易々と印を押すとは思えない。ましてや今回は連続殺人鬼からの要求だ。そんな要求を呑んだとあっては、この先の選挙にも影響を及ぼしかねない。そんな弱腰でどうする、ってね。」
「次の犠牲者のことは考えないのでしょうか。」
月島は納得できないようだった。恐らく、同じ女性ということで被害者の心情に共鳴しているのであろう。
「月島さんは、死刑囚とこれから犠牲になる女性と、どちらに死んでほしいですか?」
私はわざと月島に意地悪な言い方で質問してみた。
「死んで欲しいなんて・・・どちらも大切な命です。両方守らないと。」
やれやれ、やはりこの女は救いようが無い。人の死に際に臨んだことのない奴は、甘ったれたことしか言わない。世の中、そんな優しくはないのに。

私は蕎麦屋の前で月島と別れ、ホテルへと戻ることにした。
その時、背後から声がした。
「北島さん。」
最初、私は自分のことを呼ばれていることに気づかず、そのままスルーしてしまいそうになった。
「北島さん、少しお話しを伺えないでしょうか?」
そこには老齢の男と、20代くらいの男が立っていた。親子くらい年が離れているようだが、親子では無さそうだ。なんとも不釣り合いな2人組だった。
「北島康介さんですね。」
そう言うと加納と河辺という2人は警察手帳をかざして名乗った。
刑事が私に何の用だというのだろうか?
「今日、会見場にいらっしゃいましたよね。今回の事件と犯行声明について、お話しを伺えないでしょうか?」
刑事がなぜ、私にわざわざそんなことを聞きに来たのだろう?
「なぜ、そんなことを私に?」
「いえ、皆さんに伺っているので、気を悪くなさらないで下さい。参考までに、ご意見を伺えないでしょうか。」
ここで拒むのは、心象が悪いだろう。素直に従うとしようか。
「挑戦状についてでしょうか?驚きました。まさかあんなことになろうとは。」
それからあとは、2人は大したことは聞いてこなかった。
当たり障りのないことを聞かれただけで、少しでも警戒した自分がバカを見た感じであった。
いったい、あの2人は何をしに来たのだろう?
私は怪訝に思いながら、2人の背中を見送った。
ふん、どうせ無能な警察なんかに捕まえられなんかしないさ。
「おかえりなさいませ。」
ホテルの受付でマネジャーから鍵を貰い、私はエレベーターへと向かう。
「北島様、お手紙をお預かりしております。」
「手紙?誰からだろう?」
「中学生くらいの子が802号室の人に渡して下さい、と言って持って来られました。差し支えなければ、中身を確認されてみてはいかがでしょうか?」
マネジャーが、ペーパーナイフを差し出してきたので、それを受け取り私は手紙を開封してみた。
中には写真が何枚かと便箋が入っていた。
"藤井さん、私は全て知っている"と便箋には書かれていて、私が胡桃沢美香子を殺害している様子がおさめられていた。
私は驚きのあまり、思わず手紙を落としそうになった。
「どうされましたか?顔色が悪いようですが。お薬でもお持ちしますか?」
マネジャーが狼狽している私を見て気遣ってくれている。
「い、いえ・・・大丈夫です。ありがとうございます。」
私はそれだけ言うのが精一杯で、そそくさと写真をしまうと、急いでエレベーターに乗り込んで自室へと駆け込んだ。
どうして?どうしてこんな写真が!?
それに、どうして私がここに宿泊していると分かった?どうして私の本名を知っている?
刑事達の動きも気になるが、いったい誰が何の目的で?
クソッ!こうなったら、やられる前に殺るしかない。
こいつの正体を暴いて血祭りにあげてやる。
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