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再会
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パタパタパタ
警察署内で行き交う人の流れを掻い潜りながら走る、月島佳子の足音だが、誰もそのことを気にもとめない。
(私が足で稼ぐと言った手前、何としても北島さんの役に立たないと)
北島と組んでからの月島は好調であった。
編集長の三上からも評価される記事を書けるようになっていたし、北島と行動するようになってから、自分の弱みであった情報収集能力で学ぶことも多かった。
だが、いつまでも北島に助けてもらうわけにもいかない。いずれは自立しないといけない。
その時までに、この件からもっと多くのことを会得しなければ。
その時、月島は角から出てきた人影とぶつかってしまい転倒する。
「キャッ!」
転倒した時に、月島のバックから中身が散乱して床にばら撒かれてしまう。
「すいません、大丈夫ですか?」
ぶつかった相手の男が、月島に手を差し出して引っ張り起こしてくれ、さらに床にばら撒かれたバックの中身を拾ってくれた。
「すいません、私、急いでてよく見てなくて・・・」
「いいんですよ。おや?」
男が月島の社員証を拾い上げ、月島と社員証を見比べる。
「月島さん、ってもしかして古谷中の月島さん?」
「古谷中。はい、そうですけど。」
「僕のこと、覚えて無いかな?2年の時、放送委員会で一緒だった河辺正志。」
月島は河辺と名乗る男の顔を見ながら、記憶の糸を手繰り寄せてみた。
「あぁ!副委員長の河辺君!?」
月島の脳裏に当時の記憶が鮮明に思い起こされた。
「ごめん、お待たせ。」
署の近くのカフェで待っていた月島に、河辺が少し遅れてやって来て隣の席に腰を下ろした。
「上司がなかなか離してくれなくて、遅くなっちゃったよ。」
そう言いながら河辺は手を挙げて店員を呼び、アイスコーヒーを注文した。
「まさか、河辺君が刑事になっていたなんてね。それもこんな所で再会だなんて、ビックリしたわ。」
「月島さんは、あの頃から報道の仕事に就きたいって言ってたよね。有言実行なんだね。」
河辺は注文したアイスコーヒーを飲みながら、嬉しそうに微笑んだ。
「うん、でもなかなか難しいよね、現実は。」
月島は伏し目がちに呟く。
「この事件を担当しているの?」
「うん、初めての大きな仕事だから頑張っているんだけどね。毎日、怒られてばかり。」
「ごめんなぁー。俺達がいつまでも犯人を捕まえられないせいで。」
2人は一緒に笑った。昔話に花が咲く。
「あの犯行声明のあとも、まだ進展は無いの?」
「うん、今のところ。だけど、ちょっと気になる人がいるんだよね。」
河辺はそこまで口にしたが、それ以上は言い淀んで黙り込んでしまう。
「何?気になる人って。怪しい人物が既に特定されているの?」
月島が河辺の一言に食いついて、河辺は自分が発した言葉を後悔しているようだった。
「あのさ、これは月島さんにだから言うことで、決して口外しないで欲しいんだ。」
「何?」
「まだ決定的な証拠を掴んだわけでもないし、自分もどうしてその人に目をつけたのかは教えてもらっていない。だけど、自分の上司が目をつけている人物がいるんだ。」
河辺は一段と声を潜めて、月島に耳打ちするように口にした。
「わかったわ。私は不確かな情報で憶測記事を書いたりなんてしない。倫理に従って正しい報道をするわ。」
月島は、河辺を安心させるように優しく説く。
「この人だ。」
河辺は一枚の名刺を取り出してテーブルの上に置いた。
そこには北島が以前、河辺に渡した少し皺になった名刺が置かれていた。
月島の表情から、一瞬で光が消える。
「どうして・・・そんなことって。」
「加納さん・・・僕の上司なんだけど、何らかの理由があってこの人に目をつけたらしい。まだその理由というのは教えてもらってないけど。」
月島は、テーブルの上に置かれた北島の名刺から目が離せなかった。
なぜ?常に行動を共にしていたのに、自分には全くそれらしい事を気づかなかった。
「私、今、この人と行動してるわ。」
「そうなの!?月島さんから見て、何か気づいたことは無い?」
月島は首を横に振ることしか出来なかった。
「・・・どうだろう?これは提案なんだけど、月島さんに彼を監視してもらえないだろうか?代わりに僕が知っている情報を提供する。全てを、というわけにはいかないかもしれないけど、どうかな?」
「わかったわ・・・気をつけて見てみるわ。」
月島は、気もそぞろに返事をした。
警察署内で行き交う人の流れを掻い潜りながら走る、月島佳子の足音だが、誰もそのことを気にもとめない。
(私が足で稼ぐと言った手前、何としても北島さんの役に立たないと)
北島と組んでからの月島は好調であった。
編集長の三上からも評価される記事を書けるようになっていたし、北島と行動するようになってから、自分の弱みであった情報収集能力で学ぶことも多かった。
だが、いつまでも北島に助けてもらうわけにもいかない。いずれは自立しないといけない。
その時までに、この件からもっと多くのことを会得しなければ。
その時、月島は角から出てきた人影とぶつかってしまい転倒する。
「キャッ!」
転倒した時に、月島のバックから中身が散乱して床にばら撒かれてしまう。
「すいません、大丈夫ですか?」
ぶつかった相手の男が、月島に手を差し出して引っ張り起こしてくれ、さらに床にばら撒かれたバックの中身を拾ってくれた。
「すいません、私、急いでてよく見てなくて・・・」
「いいんですよ。おや?」
男が月島の社員証を拾い上げ、月島と社員証を見比べる。
「月島さん、ってもしかして古谷中の月島さん?」
「古谷中。はい、そうですけど。」
「僕のこと、覚えて無いかな?2年の時、放送委員会で一緒だった河辺正志。」
月島は河辺と名乗る男の顔を見ながら、記憶の糸を手繰り寄せてみた。
「あぁ!副委員長の河辺君!?」
月島の脳裏に当時の記憶が鮮明に思い起こされた。
「ごめん、お待たせ。」
署の近くのカフェで待っていた月島に、河辺が少し遅れてやって来て隣の席に腰を下ろした。
「上司がなかなか離してくれなくて、遅くなっちゃったよ。」
そう言いながら河辺は手を挙げて店員を呼び、アイスコーヒーを注文した。
「まさか、河辺君が刑事になっていたなんてね。それもこんな所で再会だなんて、ビックリしたわ。」
「月島さんは、あの頃から報道の仕事に就きたいって言ってたよね。有言実行なんだね。」
河辺は注文したアイスコーヒーを飲みながら、嬉しそうに微笑んだ。
「うん、でもなかなか難しいよね、現実は。」
月島は伏し目がちに呟く。
「この事件を担当しているの?」
「うん、初めての大きな仕事だから頑張っているんだけどね。毎日、怒られてばかり。」
「ごめんなぁー。俺達がいつまでも犯人を捕まえられないせいで。」
2人は一緒に笑った。昔話に花が咲く。
「あの犯行声明のあとも、まだ進展は無いの?」
「うん、今のところ。だけど、ちょっと気になる人がいるんだよね。」
河辺はそこまで口にしたが、それ以上は言い淀んで黙り込んでしまう。
「何?気になる人って。怪しい人物が既に特定されているの?」
月島が河辺の一言に食いついて、河辺は自分が発した言葉を後悔しているようだった。
「あのさ、これは月島さんにだから言うことで、決して口外しないで欲しいんだ。」
「何?」
「まだ決定的な証拠を掴んだわけでもないし、自分もどうしてその人に目をつけたのかは教えてもらっていない。だけど、自分の上司が目をつけている人物がいるんだ。」
河辺は一段と声を潜めて、月島に耳打ちするように口にした。
「わかったわ。私は不確かな情報で憶測記事を書いたりなんてしない。倫理に従って正しい報道をするわ。」
月島は、河辺を安心させるように優しく説く。
「この人だ。」
河辺は一枚の名刺を取り出してテーブルの上に置いた。
そこには北島が以前、河辺に渡した少し皺になった名刺が置かれていた。
月島の表情から、一瞬で光が消える。
「どうして・・・そんなことって。」
「加納さん・・・僕の上司なんだけど、何らかの理由があってこの人に目をつけたらしい。まだその理由というのは教えてもらってないけど。」
月島は、テーブルの上に置かれた北島の名刺から目が離せなかった。
なぜ?常に行動を共にしていたのに、自分には全くそれらしい事を気づかなかった。
「私、今、この人と行動してるわ。」
「そうなの!?月島さんから見て、何か気づいたことは無い?」
月島は首を横に振ることしか出来なかった。
「・・・どうだろう?これは提案なんだけど、月島さんに彼を監視してもらえないだろうか?代わりに僕が知っている情報を提供する。全てを、というわけにはいかないかもしれないけど、どうかな?」
「わかったわ・・・気をつけて見てみるわ。」
月島は、気もそぞろに返事をした。
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