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あらんすみし

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嘆きの天使

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分厚い灰色の雲が空一面を覆い尽くしている。
いつ雨が降り出してもおかしくなさそうだった。
下校時間となり、駅までの道は学生達の嬌声で溢れている。
しかし、あれからというものの、藤井美華の心はまるで今日の空模様のように、灰色の厚い雲に覆われているかのようだった。
「美華、どうしたの?最近元気ないよ。」
美華の気の置けない友人達が、心ここにあらずという感じの美華に声をかける。
「う、うん。何でもないよ。」
美華は、今できる限りの作り笑顔と明るい声を返す。
「あー、わかった。どうせまた進藤先輩のこと考えてたんでしょう?」
「そんなんじゃないってば!」
「じゃあ、この間の模試で数学が25点だったこととか?」
「も、もう!何でここでそれを暴露するかなー。」
美華の友人達は楽しそうに笑い声をあげて囃し立てる。
美華はふと思う。もし、自分の父親が何かの事件を起こしていたとしたら、皆んなはそれでも友達でいてくれるだろうか、と。
「ねぇ・・・もしさ、自分の父親が何かの事件の犯人とかだったらどうする?」
美華は恐る恐る皆んなに聞いてみる。
美華の問いかけに、皆んなの嬌声が失われた。
「美華、何を言ってるの?本当におかしいよ。」
「そ、そうだよね、ごめんね、変なこと言って。」
そう言って美華はぎこちない笑顔を作った。
「でもさ、もしそんな風になったら、まじで洒落にならなくない?」
「もし、自分の父親が水曜日の切り裂きジャックとかだったら最悪。生きていけないよね。」
友人達の口々から、いろいろな言葉が溢れて盛り上がっている。
「もしそうなら、友だちでいられないかも。」
美華の心に大きな楔が打ち込まれた。
やっぱりそうだよね、それが普通の考えだよね。美華はそんな事が無いことを祈った。
駅前で美華達は解散して、美華は塾へと向かった。
その時だった。美華の名を呼ぶ男の声が聞こえた。
「藤井美華さんだね?」
美華が振り返ると、そこには60代前後の男が立っていた。
男は黒い手帖を美華に見せて言葉を続けた。
「新宿中央署、捜査一課、加納です。お父さんの事で君に聴きたいことがある。」
加納は、美華に警戒心を与えないように、精一杯抑制的な声で名乗った。
「・・・私も、パパのことで警察の人に聞いてみたいことがあります。」

加納と美華は、駅前の静かな喫茶店で向かい合って座った。
「それで、君のお父さんについて聞きたいこととは?」
加納の言葉に数十秒ほど間を置いて、美華は先日撮影したスマホの写真を加納に見せる。
加納は、それらの写真を丹念に見てから口を開いた。
「君が何を恐れているのかは、だいたい想像がつく。怖かっただろう・・・不安で辛かっただろう。よくこの写真を私に見せてくれたね。ありがとう。」
加納は美華に優しく声をかける。
「それで、父は何かの罪に問われたり、逮捕されるのでしょうか?」
「これだけでは、写真の女性達の死に君のお父さんが関わっているかは立証できないよ。」
加納の言葉に、美華からは少しだけ安堵の吐息が漏れた。
「ただ、本題はここからだ。私が来たということは、君のお父さんに何か問題があることだと君も察しているだろうと思う。これから言うことはとても残酷だ。しっかりと覚悟を持って聞いてほしいんだ。」
加納の声のトーンが変わると、美華の表情にも深刻な影がよぎった。
「まだ決定的な証拠は無いが、君のお父さんは、水曜日の切り裂きジャックなんだ。」
加納の発したあまりにも衝撃的な真実に、美華は言葉を失い項垂れた。
「そうですか・・・でも、何となくそれで納得しました。」
「それはどういう・・・。」
「父は、たまにですけど、水曜日にとても遅く帰って来るんです。そして、だいたい翌日に事件が報道されるんです。最初はもしかして浮気でもしているのかな?と思ったんですけど、父の机の引き出しに入っていたその写真や切り抜きを見て、もしかしたらと思ったんです。」
美華が吐露した心情を、加納は図りかねた。美華は、加納が思っていたよりも、ずっと強くて頭のいい女の子だったんだと思った。
「大丈夫。心配しなくていい。私が必ずお父さんのことを止めてみせる。」
加納は、改めて藤井亮一の凶行を止めて見せると決意するのであった。


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