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総括
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都内の居酒屋。
店内奥の個室で、月島と河辺が事件について総括している。
「加納さんが、藤井亮一を誘き出すために、手口を模倣して1人の女性を殺害していたのは意外だったわ。」
月島は、白子のポン酢和えを突きながら呟く。
「結果、藤井を誘き出すのには成功したけど、それは許されざることだよね。」
河辺は顔を顰める。
「河辺さんは、加納さんの計画をどこまで知らされていたの?」
月島は河辺に疑問にしていたことを問いただした。
「僕が知っていたのは、加納さんが実は生きているということを隠して、君に誤情報を流すようにお願いしたところまでだよ。」
月島にそう返事をして、河辺は手元のグラスのビールを一気に飲み干した。
「もうちょっと詳細を教えて欲しかったわ。速報を流すのに、クソデスクに頭を下げたり、けっこうな根回しが必要だったんだから。」
月島はその屈辱を思い出したのか、口を尖らせる。
「あはは、そんなに膨れないでよ。」
「まぁ、結果として私はスクープを手にしたわけなんだけど。それで、結局被疑者死亡ということで処理されたのよね。」
「あぁ、それは加納さんが予め上に根回ししていたからね。加納さん也の、藤井に対する最大限の温情だろうね。」
河辺は手を上げて店員を呼び、もう一本ビールを注文する。
「そのおかげで、何の罪も無い藤井の家族が晒されることなかったのは、唯一の救いだわ。」
月島も、河辺の言葉に小さく何度も首を縦に振って頷いた。
「そのおかげで警察には今も猛烈なお叱りの電話が殺到しているし、マスコミの警察批判も過熱しているけど。」
「それはそうでしょ。でも、今回のこと、警察は大丈夫なの?」
月島は心配というよりは怪訝な表情で警察の内情に関心を持って尋ねた。
「こんな言い方は悪いけど、新しいネタがあれば人々の関心はすぐにそっちに向いて、直に今度の事件のことは忘れられてしまうのではないかと思う。」
河辺の分析はこうだった。
「たしかに、喉元過ぎれば熱さを忘れる、と言うものね。ところで、その後の加納さんはどうなるの?事件解決のために尽力したとは言え、人を殺したのだから、ただでは済まないわよね?」
月島は運ばれて来たビールを河辺のグラスに注ぐ。
「もちろん。今、加納さんは収監されて取り調べを受けている。ただ、今回の事件とは関係の無い単独の事件の被疑者としてね。」
「うーん、なんか納得いかないというか、腑に落ちないのよね。事件解決のためとは言え、こんな結末で良かったのかしら?」
月島の表情は、相変わらず晴れることは無かった。
「良くは無いだろうけど、決定的な物証も無く藤井に辿り着くのは困難だったと思うよ。警察としては、今回の事件と加納さんの事件は、全く別の案件として処理したかったんだろう。世間の耳目が事件の方に集中している間に、一刑事の犯した犯罪など霞んでしまうかもね。」
河辺はそんな警察の思惑を、一警察組織の歯車の一員として淡々と言葉に出した。
「なんかそれって気に食わないわ。本音を言えば、ここでのやり取りも全部記事にしたいくらいだけど、それは約束だからやめておくわ。」
「ありがとう、やはり月島さんに頼んで正解だったよ。」
河辺は柔和な笑顔を月島に見せた。
「藤井の家族はどこまで知っていたのかしら?」
「奥さんは大河原から調査結果を受け取っていて、そこには藤井亮一が犯人だという決定的な証拠があったということだ。娘の美華ちゃんも、加納さんから言われて知っていたそうだ。」
「だから美華ちゃんは加納さんに協力したのね。」
月島も、美華が加納に協力して自ら監禁されていた事情に合点がいった。
「最後まで自分の父親が連続殺人犯で無いことを願っていたみたいだね。目の前で最愛の父親が自殺してしまったという、悲しい結末でもあったけど。」
「藤井亮一の家族はこれからどうするのかしら?」
「この間、美華ちゃんが署に訪ねて来たんだ。加納さんや我々のおかげで、無事に父親の犯罪を止めることにもなったし、連続殺人犯の家族になることも無かったと、安堵していたよ。」
その時、河辺の携帯が鳴って「ちょっとごめん」と言って河辺は席を外した。
残酷で悲しい事件だったけど、唯一、何の罪も無い加害者家族が救われたのは幸いだった。
それと同時に、改めて藤井亮一の犯した罪の大きさに怒りも込み上げてくる。
月島は、そんなことを考えながら、少し焦げたカルビを頬張った。
「ごめん、もう行かないと。」
外へ電話しに行っていた河辺は、戻って来て開口一番そう言った。
「また事件?」
「あぁ、新しい事件。それじゃあ、急ぐからこれで。いろいろとありがとう。」
「ううん。それはお互いさま。私もおかげでデスクを喜ばせられるスクープを手にできたし、また別の機会に協力できることがあれば組みましょ。」
河辺と月島は、お互いに手を差し出して自然と握手をした。
「それじゃあ、それまで、元気で。」
「立派な刑事になってね。さようなら。」
互いに挨拶を交わした後、河辺は店から出て行った。
月島は、少しの間ぼんやりと何かに想いを馳せていたが、1つ息を吐くと手を上げて店員を呼んだ。
「すいません、生一つください。」
店内奥の個室で、月島と河辺が事件について総括している。
「加納さんが、藤井亮一を誘き出すために、手口を模倣して1人の女性を殺害していたのは意外だったわ。」
月島は、白子のポン酢和えを突きながら呟く。
「結果、藤井を誘き出すのには成功したけど、それは許されざることだよね。」
河辺は顔を顰める。
「河辺さんは、加納さんの計画をどこまで知らされていたの?」
月島は河辺に疑問にしていたことを問いただした。
「僕が知っていたのは、加納さんが実は生きているということを隠して、君に誤情報を流すようにお願いしたところまでだよ。」
月島にそう返事をして、河辺は手元のグラスのビールを一気に飲み干した。
「もうちょっと詳細を教えて欲しかったわ。速報を流すのに、クソデスクに頭を下げたり、けっこうな根回しが必要だったんだから。」
月島はその屈辱を思い出したのか、口を尖らせる。
「あはは、そんなに膨れないでよ。」
「まぁ、結果として私はスクープを手にしたわけなんだけど。それで、結局被疑者死亡ということで処理されたのよね。」
「あぁ、それは加納さんが予め上に根回ししていたからね。加納さん也の、藤井に対する最大限の温情だろうね。」
河辺は手を上げて店員を呼び、もう一本ビールを注文する。
「そのおかげで、何の罪も無い藤井の家族が晒されることなかったのは、唯一の救いだわ。」
月島も、河辺の言葉に小さく何度も首を縦に振って頷いた。
「そのおかげで警察には今も猛烈なお叱りの電話が殺到しているし、マスコミの警察批判も過熱しているけど。」
「それはそうでしょ。でも、今回のこと、警察は大丈夫なの?」
月島は心配というよりは怪訝な表情で警察の内情に関心を持って尋ねた。
「こんな言い方は悪いけど、新しいネタがあれば人々の関心はすぐにそっちに向いて、直に今度の事件のことは忘れられてしまうのではないかと思う。」
河辺の分析はこうだった。
「たしかに、喉元過ぎれば熱さを忘れる、と言うものね。ところで、その後の加納さんはどうなるの?事件解決のために尽力したとは言え、人を殺したのだから、ただでは済まないわよね?」
月島は運ばれて来たビールを河辺のグラスに注ぐ。
「もちろん。今、加納さんは収監されて取り調べを受けている。ただ、今回の事件とは関係の無い単独の事件の被疑者としてね。」
「うーん、なんか納得いかないというか、腑に落ちないのよね。事件解決のためとは言え、こんな結末で良かったのかしら?」
月島の表情は、相変わらず晴れることは無かった。
「良くは無いだろうけど、決定的な物証も無く藤井に辿り着くのは困難だったと思うよ。警察としては、今回の事件と加納さんの事件は、全く別の案件として処理したかったんだろう。世間の耳目が事件の方に集中している間に、一刑事の犯した犯罪など霞んでしまうかもね。」
河辺はそんな警察の思惑を、一警察組織の歯車の一員として淡々と言葉に出した。
「なんかそれって気に食わないわ。本音を言えば、ここでのやり取りも全部記事にしたいくらいだけど、それは約束だからやめておくわ。」
「ありがとう、やはり月島さんに頼んで正解だったよ。」
河辺は柔和な笑顔を月島に見せた。
「藤井の家族はどこまで知っていたのかしら?」
「奥さんは大河原から調査結果を受け取っていて、そこには藤井亮一が犯人だという決定的な証拠があったということだ。娘の美華ちゃんも、加納さんから言われて知っていたそうだ。」
「だから美華ちゃんは加納さんに協力したのね。」
月島も、美華が加納に協力して自ら監禁されていた事情に合点がいった。
「最後まで自分の父親が連続殺人犯で無いことを願っていたみたいだね。目の前で最愛の父親が自殺してしまったという、悲しい結末でもあったけど。」
「藤井亮一の家族はこれからどうするのかしら?」
「この間、美華ちゃんが署に訪ねて来たんだ。加納さんや我々のおかげで、無事に父親の犯罪を止めることにもなったし、連続殺人犯の家族になることも無かったと、安堵していたよ。」
その時、河辺の携帯が鳴って「ちょっとごめん」と言って河辺は席を外した。
残酷で悲しい事件だったけど、唯一、何の罪も無い加害者家族が救われたのは幸いだった。
それと同時に、改めて藤井亮一の犯した罪の大きさに怒りも込み上げてくる。
月島は、そんなことを考えながら、少し焦げたカルビを頬張った。
「ごめん、もう行かないと。」
外へ電話しに行っていた河辺は、戻って来て開口一番そう言った。
「また事件?」
「あぁ、新しい事件。それじゃあ、急ぐからこれで。いろいろとありがとう。」
「ううん。それはお互いさま。私もおかげでデスクを喜ばせられるスクープを手にできたし、また別の機会に協力できることがあれば組みましょ。」
河辺と月島は、お互いに手を差し出して自然と握手をした。
「それじゃあ、それまで、元気で。」
「立派な刑事になってね。さようなら。」
互いに挨拶を交わした後、河辺は店から出て行った。
月島は、少しの間ぼんやりと何かに想いを馳せていたが、1つ息を吐くと手を上げて店員を呼んだ。
「すいません、生一つください。」
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