最弱の俺が、ハッタリと他力本願で異世界を生き抜きます!

水咲 蓮

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神界!

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勇人が目を開けると、そこには一人の老人が椅子に腰かけて居た。
赤い起毛の光沢が、高価そうな印象を受けるアンティークな椅子。
真っ白な衣に身を包む老人は、そこからじっとこちらを見ていた。
辺りを見回すと、周囲は雲に包まれ、ただ真っ白な空間が広がっている。
「え?コレって…」
視線を落として自分の手足の感覚を確認した。
「勇人よ、よく来た」
目の前の老人が、長い白髪眉毛の隙間から、鋭い視線を勇人に向ける。
「いや、自分から来た覚えは無いんだがな」
得体の知れない老人に、少なからず警戒心を含んで皮肉を言ってやった。
「まあ、ほれ。これは、あれじゃ。勇者を迎える王様のお決まりの文句ってヤツじゃよ」
ホッホッホッと顎髭を撫でながら、老人は悪戯な笑みを浮かべる。
笑顔等で目を細めると、すぐに長い眉毛に目が隠れた。
「王様だって言うなら王冠とか被ってるだろ、普通は」
長い髪に長い顎髭をスラリと伸ばした、ありきたりな仙人風の孤高な姿とは裏腹に、どこかふざけたジジイだ。
そんな警戒心を抱きながら、勇人は続けた。
「まあ、そーゆーのいいから。んで、これは夢なのか?」
勇人は愛想を尽かせた様に右手をシッシッと振って、老人をあしらう。
「つれんのう。…今時の若者は、ジョークってもんが分かっとらん。」
ちょっとガッカリした様子を見せた老人は、気を取り直して続けた。
「ここは天界じゃ。死後に魂が集まる場所と言えば解りやすいかのう?」
長い眉を再び押し上げて、キラリと射る様な瞳で勇人を見る老人の言葉に、勇人も少し驚く。
「まさか、俺、死んじまったのか?」
半信半疑な思考をそのまま口に出していた。
「左様…。しかし勇人よ、お主の人生は余りにも惨めで不幸で、最早お涙頂戴感バリバリなドラマの様な人生であった」
再び長眉毛に目を隠した老人は、悲しんでいるのか、重い空気を漂わせる。
「そう、か…。でも、死んだ時の記憶が無いんだけど、俺、何で死んだの?」
勇人は1人暗くなった老人を意に介さず、怪訝な顔で老人を見た。
「溺死じゃ」
「ふ~ん…」
老人が端的に言うが、まあ、それだけじゃ納得できるわけないから、勇人も気の抜けた反応だけして、先を促す。
「…詳しく聞きたいのか?」
「そりゃあ、一応ねぇ…」
「知らん方が良い事もあるかもしれんと思うて、ワシが事前の記憶を消したんじゃが…」
沈痛な面持ちで渋る老人に、勇人は尚も食い下がった。
「勝手に決めんなよ、俺の人生だ。それは俺が決める」
怒りはしない。
老人も良かれと思ってした事らしいから。
勇人もそれを理解しつつ、ただ、勝手に記憶を消された事だけを否定した。
「そ、そうまで、言うなら…」
心なしか、老人の口元が弛んだ様に見えたが、老人は髭を整える様に口元に手を添えて続ける。
「…お前の記憶を戻して、や、やろう…ププ…」
「…?」
必死に笑いを堪えた老人は、最早吹き出した声が漏れているが、俯いて表情を隠し、手にした杖を勇人へ向けた。
すると、杖の先が光り始める。
その光が縦横に広がり、円形の鏡のように何かを映し出した。
勇人はそれに視線を移した。


皇 勇人(すめらぎ ゆうと)、28歳。
社会に出て、それなりに出世した勇人は、部下達との忘年会で楽しく飲んでいた。
楽しすぎて、いつになく酒が進んだ。
そして、酔った勢いで、以前から気になっていた部下の女性に告白した。
が、見事に撃沈。
勇人は自棄やけを起こし、コンビニでさらに酒を買い、道端に座り込んで飲み続けた。
そして、そのまま路上で意識が無くなる程に深い眠りについたのだった。
そして。
泥酔による昏睡状態で、仰向けのまま自ら戻した寝ゲロが口の中に溜まり、気道を塞いだ形となった。
息ができない事さえ気付けずに眠り続けてしまい、肺にアルコールや胃液等の混合液が入って溺死した。


一連の映像を見た勇人。
「いやだ、恥ずかしい…」
堪らず顔を両手で覆う。
「プププ…。フラれた挙げ句、自分の寝ゲロで溺死って!」
「おお、おい!笑うな、ジジイ!」
老人が堪えきれずに吹き出すと、勇人は恥ずかしさが頂点を超えて老人に当たった。
「ジジイじゃと?ワシはこう見えても神じゃぞ?」
「うるせー!こっちだって、いや!まて!今、あんた、神って言ったのか!?」
老人の言葉に耳を疑い、キレた勢いそのままに言質確認まで怒り顔のまま吐露した。
「お主、聞く内容と態度が一致せんのう?」
相変わらずの長い毛だらけで表情がハッキリ掴めないが、神と名乗った老人は真っ直ぐに勇人を見る。
「い、いや、すみません。…いや、そうじゃない。このジジイは俺の死に様を笑いやがったんだ。だが、神と言うなら、敬わなければならないんじゃないか?いやいや、神と言えど、俺は散々な人生を苦労して送ってきたんだから、まずは労いと情けの言葉一つくらいあるべきだろ…?あ、そー言えばさっきあったか…?」
自問自答を繰り返す勇人。
神と名乗る老人はしばしの間、1人の時間を強いられたのだった。                                                                                       
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