最弱の俺が、ハッタリと他力本願で異世界を生き抜きます!

水咲 蓮

文字の大きさ
3 / 6

転生!

しおりを挟む
勇人が1人、自問自答の堂々巡りにハマっていた。
神と名乗った老人が、それを観ながら、口元を弛ませる。
神の目には、勇人が滑稽だった。
「くぉら、そこ!また笑ってんじゃねーよ!」
神の微笑みに気付いた勇人は、それを見逃さなかった。
「まぁ、そう腹を立てるな。これからお主は…」
「転生か!?」
「ぬ!?」
神が言いかけた所へ勇人が割り込んだ言葉に、今度は神が少し驚かされた。
「だって、こういうのって、ラノベでよくあるアレだろ?」
「ふ、ふむ。話は早い様じゃの…」
正直、神としては驚く勇人を見て更に楽しみたかったが、残念ながら、それは叶わなかった。
神なのに。
「現世で死んじまったから、転生なのは間違い無いんだろーけど、赤ちゃんからやり直しか?それとも、既に現存していた人が死んで、その空いた肉体に入れ代わる系?それか、新たに生成した肉体に魂を宿らせる系?」
転生を確信した勇人は、まさか自分にそれが起こると思うと、テンション爆上がりしてきた。
神の受け答えも追い付かない程に、勇人の質問が老人を畳み掛ける。
「いや、勇人よ、ちょいと待て…」
「それとも、最近流行りの人外転生系か?それなら、ドラゴンみたいな最強種族とか、リッチみたいに不老不死で骨じゃないヤツみたいな、チート能力とかある種族が良いなぁ!?」
「これ、話を聞かんか…」
「チート能力って言えば、別に種族関係なく、チート能力は神の力で付与してくれんだろ?だったらリッチとかじゃなくても不老不死の力を貰えば良いのか!そうだよな!?」
「待てと言うとろうが!?」
仏の顔も三度までと言うが、神は三度も待ってくれないらしい。
「ッ!?そんな怒んなよ。血圧上がるぞ?異世界転生って聞いて、ちょっと浮かれただけじゃんかよ」
勇人も神の怒りに少し驚きつつ、なだめる。
「…まあ、良いじゃろう…」
神の怒りが収まったところで、勇人がツッコんだ。
「てか、どーせなら『ちょ、待てよ!』ってキム○ク風に言うとか、面白く止めろよな」
ちょっとキレた神に、頭を掻きながらも逆に諭す勇人の絵図。
謝りもしない辺りは、胆力があるというべきか、はたまた単なる阿呆か。
何れにせよ、神を何だと思っているのやら。
「…ぐぬぬ…」
神はこの『人間の子供に負けた感』のある雰囲気に唇を噛む。
しかし、それを悟られぬ様、すぐに気を取り直して、続けた。
「…して、転生についてじゃが、お前はお前のまま、肉体だけ少し若返らせてあっちの世界に生成する」
「そうなのか。じゃ、不老不死とか必須じゃね?」
「歳は17歳程度。お前の言うチート能力とやらは、思い付く限り付与してやろう。じゃがな、勇人。強いからと言って油断していると…」
「ハッ!この俺を誰だと思っている!?」
厨二現象が現実となる時、元引きニートだった勇人はその病を再び呼び起こすのだった。
顔の前に手を翳し、無駄なポーズを極め込む勇人。
「いや、マジでそーゆーの要らんから」
「なに!?俺が中学の頃はこーゆーのが格好良かったのに!?」
神の冷たい対応に、勇人はショックを受けていた。
「もうよい。ホレ。サッサと転生させるぞ」
「な、なんか急に感じが変わってません?」
どこか、神の虫の居所が悪いらしく、勇人はビビりながら探りを要れる。
「人の子は五月蝿くて敵わん。ワシは今、一刻も早くのんびりしたいんじゃあ!!」
神も神で、自分から呼んでおいて凄く雑な扱い。
要するに、勇人の相手をする事に飽きたのだ。
「ふざけんなよ!?ジイさんが呼んだんだろ!?」
流石にちょっとキレる勇人。
「…でも、まあ良いや!行くならサッサと行くぜ!一刻も早くってのには俺も賛成だ!」
気を取り直して意気揚々としていた。
「先にも言うたが、お前はワシの使徒として、勇者になる為に送り込まれる…」
「うおお!神の使徒か!!なんかカッコいいじゃん!」
神が話を始め、同時に右手を空に掲げると、何やら頭上に光の玉が現れた。
「そして、行く先の世界には既に使徒を送ることを伝えてある…」
「贈るって、俺は御歳暮か!?」
「ああ!五月蝿い!イチイチ余計な一言を相槌に入れるな!今はツッコミも要らんし、そもそも『オクル』の字を間違えていることをこっちがツッコまにゃならんのもややこしいわ!」
神がイラッとしながらも、やり取りを続けるうちに、光の玉は大きくなる。
「良いねぇ、ノッて来たねぇ、ジイさん?」
クククと悪戯な笑みを浮かべる勇人だが、もう神はそんな勇人をスルーした。
「出でよ、種への扉…」
神が左手を勇人の後ろへ向けると、そこには、4原色がマーブル模様に輝く扉が現れた。
「うお!もしかして、この扉の先が異世界か!?」
「左様。その先に、お前を待ちかねている人々が暮らす、以前のものとは別の世界が広がっておる。そして…」
「やった!マジか!!」
神の説明に、途中で割り込む。
なぜなら、既に勇人の気持ちも最高潮に達していたのだ。
そんな勇人の悪いクセ。
「んじゃ、待たせるのも悪いし、ちょっくら行って来るわ!」
「バカもん!まだ説明が…!」
「んなもん、チートなら何とでもなるって!」
そう言って扉へ向かって駆け出す勇人。
「そのチート能力を、今集めとるんじゃろが!?」
右手上空の光を見て、神が再び勇人を見る。
つまり、その光が能力なのだが、まだ勇人に受け渡していないのだ。
普段から椅子に座ってばかりの神は、咄嗟に足が出なかった。
だから、左手を伸ばすばかりで駆け出すことができない。
「はあ?ちょっと何言ってるかわかんないっス!」
忠犬じゃあるまいし、楽しそうな物を目の当たりにして、『待て』など聞けるか!
とばかりに、勇人は扉を開けた。
本当に、人の話をよく聞かない子だった。
そして。
左手を伸ばして呼び止める神の姿も、上空の光の玉諸とも、扉から放たれる光に飲まれ、姿形が消えていく。
勇人はその光に吸い込まれる様に、扉の向こうへと消えていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...