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降臨!
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相変わらず、薄暗く蒸した様な空気が充満する石造りの部屋。
無駄に広く、奥には後光が射した神々しい老人の像が、杖を掲げた巨大な姿で佇む。
中央には大きな魔法陣が敷かれ、像の置かれた壇上と、壇上に昇降するための階段が部屋の奥側を陣の円に沿う。
窓も天井にしか無く、その天窓も、空が曇っていては光が入らない。
壁に開いた、床から膝くらいまでの細長いスリットが、辛うじて僅かな通気役を担っていた。
だがそれも、疎らに幾つかあるだけで、部屋全体を換気する事もできない。
お陰で、足元だけは冷えるくせに、熱は上に溜まるから暑さは除けず、膝から下と腰から上の、上下の気温差を感じ取れる。
温感神経にストレスかけまくりな部屋だった。
町では祭りの真っ最中。
民衆の楽しそうな声が騒がしい秋真っ只中の夜。
寒暑い部屋で、念願の降臨の儀式が執り行われていた。
「さあ!我が主よ!彼の者をこの地へ遣わせたまえ!」
教祖スールヤが両手を空に向けて広げると、魔法陣を囲う御言役達も続けていた呪文を唱える声に一層の熱が入る。
その時だった。
天窓の彼方上空にある雲に、光の亀裂が走ったのだ。
町では祭りのピークを迎え、人々は空を眺めて騒ぎ立てる。
「おお!空が光ったぞ!!」
「マジか!?すげーッ!!」
「うおお!とうとう使徒様が降臨されるのか!?」
聖都の大通りを埋め尽くす人々が、思い思いの期待を込めて発する声は、大きな唸りとなって夜の空へ響いた。
いつしかそれらは一つに纏まり、『使徒様』コールで町の隅々から発せられた。
そして。
皇宮聖殿の真上。
光に掻き分けられる様に、雲が少しずつ隙間を開け、そこから青白い一筋の光が降りてくる。
最初は細い線状の光だった。
それが空から地上へ突き刺さるように伸びると、聖堂の天窓を透けて通り抜けた。
信託の間の中央にある魔方陣に光が達した時、空と魔法陣が1本の光で繋がる。
「お、おお!眩い光よ!」
「なんと神々しい!!」
「正に神の光!」
青白い光は次第に太く広がり、魔法陣一杯まで及ぶと、次第にキラキラと輝く光の粒がチラホラと、やがて無数の雪の様に降り注ぐ。
それらは魔方陣のすぐ上で、青白い光柱の中心に集まり、足の爪先から人の形を形成していった。
「こ、これが神の御業か!」
信託の間に居る御言役達も、驚きで口が開きっぱなしだった。
「皆、阿呆面並べてやがる…」
御言役達を見渡す者が、そう溢しながら、誰にも気付かれずにクスクスと笑う。
何人か集まると、1人ぐらいこういうヤツが居るものだ。
町でも人々は光の降り注ぐ光景に見惚れていた。
そして、光柱は青白い光から赤い光に変わっていく。
「おお!?光が!?」
「青から赤に変わっていく…!」
「燃えるような赤だ!」
天の方からやがて魔法陣まで赤く切り替わると、今度は光柱の中心を大きめな光の玉が降りてきた。
玉は地上に近づくにつれて、降下と共に円周運動を始め、螺旋を描きながら降りてくる。
その光が先程の人形まで辿り着くと、ゆっくりとその心臓部に吸収されていく。
そして、光が全て人形に収まると、最後に心臓部から強い光を発した。
一呼吸程の束の間、人形が1度大きく揺れる。
同時にドクンという音が部屋中に響き、人形の心臓が鼓動を開始した事を告げたのだった。
「おお!使徒様!」
「使徒様!使徒様が!」
「ご降臨召された!」
「使徒様!万歳!!」
「チッ、男かよ…」
御言役達が万歳を連唱していると、光の柱は魔法陣側から空へと引き始めた。
それを見たスールヤは、壇上ですぐに神の像へ振り返り、教団特有の作法で感謝の意を表す。
まず、自らの胸の前で『人』の字の『ノ』から先に書いてそのまま真ん中より上に持ち上げ、繋げて横棒を書き、さらに繋げて下に下げ、最後に『人』の右側を下から反りあげる様に繋げて、頂点を結ぶ。
最終的に『大』の字に似た字となる。
『大』の字の左右の、横棒と下の払いが共に曲線で繋がった字だ。
この世界では、これが人を表す文字で、一筆書きで書く。
そして、胸の前で親指を上にした逆さ中に先程の『大』の字を入れて胸に丸を作ったままの手を付け、頭を下げる。
ここまでが略式の礼作法で、信徒達が挨拶代わりに行うのもここまでだが、今回は深く感謝の意を示す為、ここからさらに片膝をつき、腰も折って丸を胸と片膝で挟むまでお辞儀する。
スールヤがこれを始めると、他の御言役達も続いた。
「我が主。確かに、使徒様をお預かり致しました。此れで、予てよりの望みは叶えられましょう。されば使徒様の御力をお借りし、永らくのさばらせてきた魔をようやく滅ぼす時が出来ました…」
「おお、我が主よ…」
「感謝致します…」
「どうせなら、可愛い女の子の裸が見たかったな…」
光が退いた後も、名残りを惜しむように人形はぼんやりと発光を続け、床から5センチ程度中空に浮いていた。
それも、着るものも無く、誰かが呟いた通りに裸の姿だった。
そして、人形の瞼がゆっくりと開く。
「…ん…?」
「お、お目覚めになられた!!」
「なにッ!?」
「し、使徒様!?」
信託の間に集まる全ての神官達がワッとどよめく。
「こ、ここ…は…?」
使徒として、彼が開口1番に口にしたのは、そんな気の抜けた言葉だった。
無駄に広く、奥には後光が射した神々しい老人の像が、杖を掲げた巨大な姿で佇む。
中央には大きな魔法陣が敷かれ、像の置かれた壇上と、壇上に昇降するための階段が部屋の奥側を陣の円に沿う。
窓も天井にしか無く、その天窓も、空が曇っていては光が入らない。
壁に開いた、床から膝くらいまでの細長いスリットが、辛うじて僅かな通気役を担っていた。
だがそれも、疎らに幾つかあるだけで、部屋全体を換気する事もできない。
お陰で、足元だけは冷えるくせに、熱は上に溜まるから暑さは除けず、膝から下と腰から上の、上下の気温差を感じ取れる。
温感神経にストレスかけまくりな部屋だった。
町では祭りの真っ最中。
民衆の楽しそうな声が騒がしい秋真っ只中の夜。
寒暑い部屋で、念願の降臨の儀式が執り行われていた。
「さあ!我が主よ!彼の者をこの地へ遣わせたまえ!」
教祖スールヤが両手を空に向けて広げると、魔法陣を囲う御言役達も続けていた呪文を唱える声に一層の熱が入る。
その時だった。
天窓の彼方上空にある雲に、光の亀裂が走ったのだ。
町では祭りのピークを迎え、人々は空を眺めて騒ぎ立てる。
「おお!空が光ったぞ!!」
「マジか!?すげーッ!!」
「うおお!とうとう使徒様が降臨されるのか!?」
聖都の大通りを埋め尽くす人々が、思い思いの期待を込めて発する声は、大きな唸りとなって夜の空へ響いた。
いつしかそれらは一つに纏まり、『使徒様』コールで町の隅々から発せられた。
そして。
皇宮聖殿の真上。
光に掻き分けられる様に、雲が少しずつ隙間を開け、そこから青白い一筋の光が降りてくる。
最初は細い線状の光だった。
それが空から地上へ突き刺さるように伸びると、聖堂の天窓を透けて通り抜けた。
信託の間の中央にある魔方陣に光が達した時、空と魔法陣が1本の光で繋がる。
「お、おお!眩い光よ!」
「なんと神々しい!!」
「正に神の光!」
青白い光は次第に太く広がり、魔法陣一杯まで及ぶと、次第にキラキラと輝く光の粒がチラホラと、やがて無数の雪の様に降り注ぐ。
それらは魔方陣のすぐ上で、青白い光柱の中心に集まり、足の爪先から人の形を形成していった。
「こ、これが神の御業か!」
信託の間に居る御言役達も、驚きで口が開きっぱなしだった。
「皆、阿呆面並べてやがる…」
御言役達を見渡す者が、そう溢しながら、誰にも気付かれずにクスクスと笑う。
何人か集まると、1人ぐらいこういうヤツが居るものだ。
町でも人々は光の降り注ぐ光景に見惚れていた。
そして、光柱は青白い光から赤い光に変わっていく。
「おお!?光が!?」
「青から赤に変わっていく…!」
「燃えるような赤だ!」
天の方からやがて魔法陣まで赤く切り替わると、今度は光柱の中心を大きめな光の玉が降りてきた。
玉は地上に近づくにつれて、降下と共に円周運動を始め、螺旋を描きながら降りてくる。
その光が先程の人形まで辿り着くと、ゆっくりとその心臓部に吸収されていく。
そして、光が全て人形に収まると、最後に心臓部から強い光を発した。
一呼吸程の束の間、人形が1度大きく揺れる。
同時にドクンという音が部屋中に響き、人形の心臓が鼓動を開始した事を告げたのだった。
「おお!使徒様!」
「使徒様!使徒様が!」
「ご降臨召された!」
「使徒様!万歳!!」
「チッ、男かよ…」
御言役達が万歳を連唱していると、光の柱は魔法陣側から空へと引き始めた。
それを見たスールヤは、壇上ですぐに神の像へ振り返り、教団特有の作法で感謝の意を表す。
まず、自らの胸の前で『人』の字の『ノ』から先に書いてそのまま真ん中より上に持ち上げ、繋げて横棒を書き、さらに繋げて下に下げ、最後に『人』の右側を下から反りあげる様に繋げて、頂点を結ぶ。
最終的に『大』の字に似た字となる。
『大』の字の左右の、横棒と下の払いが共に曲線で繋がった字だ。
この世界では、これが人を表す文字で、一筆書きで書く。
そして、胸の前で親指を上にした逆さ中に先程の『大』の字を入れて胸に丸を作ったままの手を付け、頭を下げる。
ここまでが略式の礼作法で、信徒達が挨拶代わりに行うのもここまでだが、今回は深く感謝の意を示す為、ここからさらに片膝をつき、腰も折って丸を胸と片膝で挟むまでお辞儀する。
スールヤがこれを始めると、他の御言役達も続いた。
「我が主。確かに、使徒様をお預かり致しました。此れで、予てよりの望みは叶えられましょう。されば使徒様の御力をお借りし、永らくのさばらせてきた魔をようやく滅ぼす時が出来ました…」
「おお、我が主よ…」
「感謝致します…」
「どうせなら、可愛い女の子の裸が見たかったな…」
光が退いた後も、名残りを惜しむように人形はぼんやりと発光を続け、床から5センチ程度中空に浮いていた。
それも、着るものも無く、誰かが呟いた通りに裸の姿だった。
そして、人形の瞼がゆっくりと開く。
「…ん…?」
「お、お目覚めになられた!!」
「なにッ!?」
「し、使徒様!?」
信託の間に集まる全ての神官達がワッとどよめく。
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使徒として、彼が開口1番に口にしたのは、そんな気の抜けた言葉だった。
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