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03話 優しい虐待
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「家庭教師くらいいたわよ。ちゃんと字も書けるし計算だって出来るんだから!」
デイジーは強気にそう言い放ちましたが、私は首を傾げました。
「そうなの? 貴女の言葉遣いは家庭教師がいたようには思えないのだけれど」
「言葉遣いがなんだっていうのよ」
「貴女の言葉遣いも、変な声を出したりするところも、貴族の家庭教師がついていたらとっくに指摘されて矯正されているはずよ」
「へ?」
「ほら、また、変な声を出した」
「……!」
私が指摘すると、デイジーははっとした顔をして両手で口を押えました。
「貴女の家庭教師は平民なのではなくて?」
「……」
「やっぱりそうなのね。可哀想に……」
世にも哀れな話に、私は身につまされる思いでした。
「デイジーが貴族社会で恥をかくことが解っているのに世話もせず放置しているなんて。酷い話ね」
私がそう言うと、デイジーは暗い表情で俯いたまま告白しました。
「……このお屋敷に来て、とっても厳しい家庭教師をつけられたの。厳しい先生だったから『あんな先生は嫌だ』ってお父様に言ったら、お父様が先生をクビにしてくれて……」
「まあ、酷い!」
「……ごめんなさい……」
「今のはデイジーに言ったんじゃないわ。お父様のデイジーに対する仕打ちが酷いって言ったのよ」
私は父に憤慨しました。
父はデイジーに良い顔をするために、デイジーの人生を潰すことを選んだのです。
なんて無責任で無情なのでしょう。
「甘いからって毒を欲しがるデイジーに、お父様は毒だということを教えずに、優しい顔して与え続けているんですもの。お父様がなさっていることは優しい虐待よ」
「……私……虐待されているの……?」
「そうよ。貴族は笑顔で毒を盛るわ。優しい笑顔を信用しては駄目よ」
「……」
「上流階級の言葉と作法を身に付けずに人前に出ることは、丈の合わない古着のドレスで人前に出ることと同じくらい恥ずかしいことなのよ。どれだけ着飾ったところで、平民の言葉をしゃべっていたらただの道化だわ。平民が貴族の仮装をしていると嘲笑されるだけよ。もちろん皆は、デイジーには笑顔で『お似合いです』って言うけれどね」
「……」
デイジーの可憐な美貌がどんよりと曇り、紫水晶のような瞳は死んだ魚の目になりました。
どうやら状況を理解してもらえたようで、私はほっとしました。
デイジーは無知なだけで、地頭は悪くないようです。
「貴族出身の家庭教師をつけてあげるわ」
「はい……。お願いします……」
「大丈夫よ、私に任せておきなさい」
可哀想なデイジーのために、私は彼女に必要なものを手配してあげることにしました。
施しは貴族の義務ですものね。
デイジーは強気にそう言い放ちましたが、私は首を傾げました。
「そうなの? 貴女の言葉遣いは家庭教師がいたようには思えないのだけれど」
「言葉遣いがなんだっていうのよ」
「貴女の言葉遣いも、変な声を出したりするところも、貴族の家庭教師がついていたらとっくに指摘されて矯正されているはずよ」
「へ?」
「ほら、また、変な声を出した」
「……!」
私が指摘すると、デイジーははっとした顔をして両手で口を押えました。
「貴女の家庭教師は平民なのではなくて?」
「……」
「やっぱりそうなのね。可哀想に……」
世にも哀れな話に、私は身につまされる思いでした。
「デイジーが貴族社会で恥をかくことが解っているのに世話もせず放置しているなんて。酷い話ね」
私がそう言うと、デイジーは暗い表情で俯いたまま告白しました。
「……このお屋敷に来て、とっても厳しい家庭教師をつけられたの。厳しい先生だったから『あんな先生は嫌だ』ってお父様に言ったら、お父様が先生をクビにしてくれて……」
「まあ、酷い!」
「……ごめんなさい……」
「今のはデイジーに言ったんじゃないわ。お父様のデイジーに対する仕打ちが酷いって言ったのよ」
私は父に憤慨しました。
父はデイジーに良い顔をするために、デイジーの人生を潰すことを選んだのです。
なんて無責任で無情なのでしょう。
「甘いからって毒を欲しがるデイジーに、お父様は毒だということを教えずに、優しい顔して与え続けているんですもの。お父様がなさっていることは優しい虐待よ」
「……私……虐待されているの……?」
「そうよ。貴族は笑顔で毒を盛るわ。優しい笑顔を信用しては駄目よ」
「……」
「上流階級の言葉と作法を身に付けずに人前に出ることは、丈の合わない古着のドレスで人前に出ることと同じくらい恥ずかしいことなのよ。どれだけ着飾ったところで、平民の言葉をしゃべっていたらただの道化だわ。平民が貴族の仮装をしていると嘲笑されるだけよ。もちろん皆は、デイジーには笑顔で『お似合いです』って言うけれどね」
「……」
デイジーの可憐な美貌がどんよりと曇り、紫水晶のような瞳は死んだ魚の目になりました。
どうやら状況を理解してもらえたようで、私はほっとしました。
デイジーは無知なだけで、地頭は悪くないようです。
「貴族出身の家庭教師をつけてあげるわ」
「はい……。お願いします……」
「大丈夫よ、私に任せておきなさい」
可哀想なデイジーのために、私は彼女に必要なものを手配してあげることにしました。
施しは貴族の義務ですものね。
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