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72話 男は冒険者
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「オークリー公爵家の小僧は、婚約者を切り捨てて逃げた卑怯な男だからな。あれから全然モテなくなったのだ」
父はモテる男の自信に満ちた態度で、ルピナス様を批判しました。
「あの小僧は評判が落ちまくって、誰からも招待状が来なくなっているのだ。あまりにモテなさすぎて、あの小僧が当主になったら一族の者たちも社交界で居場所がなくなると、オークリー公爵家の連中は揉めているらしい」
モテるモテないという問題に焦点を当てて父は語りました。
ルピナス様が廃嫡されるとしたら、モテないことが理由ではないと思いますけれど。
ドラセナ侯爵たちの恨みを買って官職を追われたオークリー公爵家の者たちが、ドラセナ侯爵たちと和解するために、恨みを買った元凶のルピナス様を排除しようとしているのです。
官職を取り戻すためであって、モテないことは関係ないです。
「あの小僧、廃嫡されたら修道院行きになるかもな。モテなくて結婚できないからな。はっはっは!」
父は軽快に笑いました。
「オークリー公爵家の小僧は、デイジーに粉をかけておきながら、池に飛び込む気概はなかったのだ。卑怯な手しか使えない小者だ。モテないのも当然だな」
「そうですね……」
私の婚約者ウィロウはどんよりした表情で、父に相槌を打ちました。
ウィロウの表情が暗いのは、令息たちが池を荒らしてピンク色の水蓮を傷つけたからです。
ウィロウは草が好きなので、草に心を寄せているのです。
「池を荒らしたことは……無情ですが……。本当に欲しいもののためなら犠牲も厭わないという、その気持ちは解ります……。そのくらいの事が出来ないようでは、その気持ちは本物ではない」
「おお、ウィロウ君にもデイジーの可愛さが解るか!」
「あ、いえ、ああ……デイジーは可愛いです。そうではなく、目的のために池に飛び込む気持ちが解るという意味です」
ウィロウはふっと遠い眼差しをしました。
「私も、幻のニムファエア・クイーン・アマゾニカの採集のためなら密林の川にだって飛び込めます。たとえ食人魚の群れがいたとしても」
食人魚とは、海の向こうの魔大陸の密林の大河に生息しているという獰猛な肉食の魚です。
ちなみにニムファエア・クイーン・アマゾニカというのは、密林に生えているという幻の巨大水蓮、らしいです。
一部の植物学者たちや、冒険家たちには知られている話のようです。
「食人魚の群れがいる川に飛び込んだら、水蓮を採取する前に食人魚に食べられて死んでしまうのではなくて?」
私がそう疑問を呈すると、ウィロウはしかつめらしい顔で言いました。
「男には、時には、命をかけなければならない時がある」
「格好良いことのように聞こえますけれど。草のために、食人魚のいる川に飛び込むのはどうかと思います」
「この気持ちは女性には解らないだろうなぁ」
「そうですね。食人魚がいる危険な川に飛び込むなんて。私には解りません」
「男は冒険者なのさ」
「そう、そのとおり!」
ウィロウの冒険者発言に、父が相槌を打ちました。
「男は常に冒険を求めているのだ」
常に愛人の家に入り浸ってのらくらしている父が、どの口で言うのでしょう。
「バジル様たちにとっては、デイジーがニムファエア・クイーン・アマゾニカなんだと思うよ」
ウィロウがそう自論を語ると、まだウィロウの本質を理解していないデイジーが不用意に禁断の扉に触れました。
「その、ニムファ何とかって水蓮なのですか?」
デイジーの質問に、待ってましたとばかりにウィロウは答えました。
目を爛々と輝かせて。
「世界一の巨大水蓮だよ。大人が寝転がれるくらい巨大な葉だという。二年前に冒険家タイム・レモンバームが魔大陸の密林で発見したという報告があって、それから多くの植物収集家たちが……」
ウィロウは幻の巨大水蓮について、そして密林の珍しい草たちについて滔々と語り始めました。
地獄の門の扉を開けてしまったデイジーは、荒れ地のスナギツネのような虚無の表情で、ウィロウに相槌を打ち続けました。
父はモテる男の自信に満ちた態度で、ルピナス様を批判しました。
「あの小僧は評判が落ちまくって、誰からも招待状が来なくなっているのだ。あまりにモテなさすぎて、あの小僧が当主になったら一族の者たちも社交界で居場所がなくなると、オークリー公爵家の連中は揉めているらしい」
モテるモテないという問題に焦点を当てて父は語りました。
ルピナス様が廃嫡されるとしたら、モテないことが理由ではないと思いますけれど。
ドラセナ侯爵たちの恨みを買って官職を追われたオークリー公爵家の者たちが、ドラセナ侯爵たちと和解するために、恨みを買った元凶のルピナス様を排除しようとしているのです。
官職を取り戻すためであって、モテないことは関係ないです。
「あの小僧、廃嫡されたら修道院行きになるかもな。モテなくて結婚できないからな。はっはっは!」
父は軽快に笑いました。
「オークリー公爵家の小僧は、デイジーに粉をかけておきながら、池に飛び込む気概はなかったのだ。卑怯な手しか使えない小者だ。モテないのも当然だな」
「そうですね……」
私の婚約者ウィロウはどんよりした表情で、父に相槌を打ちました。
ウィロウの表情が暗いのは、令息たちが池を荒らしてピンク色の水蓮を傷つけたからです。
ウィロウは草が好きなので、草に心を寄せているのです。
「池を荒らしたことは……無情ですが……。本当に欲しいもののためなら犠牲も厭わないという、その気持ちは解ります……。そのくらいの事が出来ないようでは、その気持ちは本物ではない」
「おお、ウィロウ君にもデイジーの可愛さが解るか!」
「あ、いえ、ああ……デイジーは可愛いです。そうではなく、目的のために池に飛び込む気持ちが解るという意味です」
ウィロウはふっと遠い眼差しをしました。
「私も、幻のニムファエア・クイーン・アマゾニカの採集のためなら密林の川にだって飛び込めます。たとえ食人魚の群れがいたとしても」
食人魚とは、海の向こうの魔大陸の密林の大河に生息しているという獰猛な肉食の魚です。
ちなみにニムファエア・クイーン・アマゾニカというのは、密林に生えているという幻の巨大水蓮、らしいです。
一部の植物学者たちや、冒険家たちには知られている話のようです。
「食人魚の群れがいる川に飛び込んだら、水蓮を採取する前に食人魚に食べられて死んでしまうのではなくて?」
私がそう疑問を呈すると、ウィロウはしかつめらしい顔で言いました。
「男には、時には、命をかけなければならない時がある」
「格好良いことのように聞こえますけれど。草のために、食人魚のいる川に飛び込むのはどうかと思います」
「この気持ちは女性には解らないだろうなぁ」
「そうですね。食人魚がいる危険な川に飛び込むなんて。私には解りません」
「男は冒険者なのさ」
「そう、そのとおり!」
ウィロウの冒険者発言に、父が相槌を打ちました。
「男は常に冒険を求めているのだ」
常に愛人の家に入り浸ってのらくらしている父が、どの口で言うのでしょう。
「バジル様たちにとっては、デイジーがニムファエア・クイーン・アマゾニカなんだと思うよ」
ウィロウがそう自論を語ると、まだウィロウの本質を理解していないデイジーが不用意に禁断の扉に触れました。
「その、ニムファ何とかって水蓮なのですか?」
デイジーの質問に、待ってましたとばかりにウィロウは答えました。
目を爛々と輝かせて。
「世界一の巨大水蓮だよ。大人が寝転がれるくらい巨大な葉だという。二年前に冒険家タイム・レモンバームが魔大陸の密林で発見したという報告があって、それから多くの植物収集家たちが……」
ウィロウは幻の巨大水蓮について、そして密林の珍しい草たちについて滔々と語り始めました。
地獄の門の扉を開けてしまったデイジーは、荒れ地のスナギツネのような虚無の表情で、ウィロウに相槌を打ち続けました。
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