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甘い、そして弱い
しおりを挟む「それはないんじゃないか?」
必死にレティシアを食い止めようとするウィルフレッドだったが、声をかけられて後ろを振り向いた。
「コルテオ、レイバン・・・」
振り向くとそこには、出立準備を終え、馬車に乗るために向かってきていた二人がいた。
「こんな所で何やってるんだ?夫人とイチャついているのをわざわざ見せに来たのかい?」
「コルテオ様、初めましてですわね」
「えぇ、夫人、初めまして・・・って、顔ぐらい見せてくれてもいいんじゃないか、ウィルフレッド?」
レティシアがコルテオに挨拶を始めた事で、ウィルフレッドはさらに抱き込んでしまい、後ろから来た二人にはレティシアの姿が見えない状況だ。レティシアにも後ろの二人の表情は伺えない。見えているのは目に涙を溜めて、お腹を抱えて笑いを堪えているマクシミリオンと、困った人だなと苦笑いする宰相だけ。
「別にシアの顔は見なくていいだろう」
「ウィル、それはないわ。挨拶ぐらいきちんとさせてくれないかしら?」
「そうだよ、ウィルフレッド、レイバンも困ってるじゃないか」
コルテオの横に並び立っていたレイバンはどうしたらいいものかと固まって動けずにいた。
「レイバンはシアに何度も会ったことがある。今更顔など見なくていい。コルテオはシアの顔は見ない方がいい」
「見ない方がいいってどういう事だよ・・・」
「惚れてしまうからだ」
このやり取りを横で見ていたレイバンは、しょうがない人だなと微かに笑いをこぼした。いつもなら不安や弱さなど全く見せることがなかったウィルフレッド。不安に思うことや弱さなど、この人には無関係な感情なのだろうと思っていた。だが、今、大事そうに抱き込んでいるレティシアにだけは甘く、そして弱い。
「ウィル、挨拶させてって言ってるでしょう?」
「もうしただろう?」
「・・・これじゃ挨拶だなんて言えないわ」
「必要ない」
「そう・・・わかったわ。今夜から別々の寝台で、いや、別の部屋で寝ましょうね」
「どうしてだ!?それは嫌だ!」
「あら、私はそれでも構わないわ」
「嫌だ!一緒でないと眠れない!どうして別々に寝ないといけないんだ・・・一緒じゃダメなのか?」
ウィルフレッドの目には涙が滲んできた。本当にレティシアには弱い。
「だって怒ってるのよ?なんで怒らせた相手と一緒に寝ないといけないの?無理よ」
「そ、んな・・・いや!怒らせたのはすまなかった!許して・・・くれ」
ウィルフレッドはレティシアの正面にまわると地面に片膝をついた。レティシアの左手をとり、結婚指輪のはまる薬指にちゅっとキスをおとした。
「じゃあ、きちんと話をさせてくれるわね?」
「あぁ、わかった」
ウィルフレッドは不安そうな顔ではあったが頷くしかできなかった。
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