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お馴染みの光景
しおりを挟む「はぁ、毎日砂糖が降ってきているようですよ」
そう言いながら近衛の団長執務室でコービー片手に語るのは宰相だ。普段は甘い物に目がない宰相がブラックのしかも、苦いコーヒーが手放せないのだと言う。
「その姿はすっかりお馴染みだね」
向かいで笑うのは第二王子であるアルバートだ。このところ、宰相はコーヒー片手に、アルバートは書類片手に団長執務室に訪れる。すっかりお馴染みの光景となっていた。
「殿下、笑い事ではないのですよ。確かに一緒に住むことの提案に賛同し、許可はしましたが・・・あそこまで二人のイチャイチャを大っぴらに見せられるとは思いませんでしたよ。まぁ、イチャイチャというよりも、アイオロス君が娘を愛で翻弄しているだけにすぎませんが・・・」
「いい事じゃないか。いい婿殿も見つかった、ミリア嬢は長年の片想いが叶った。アイオロスだって、好きな相手と一緒にいれてこの上ない幸せだと言っているそうじゃないか」
「でも、まさか、アイオロス君があんなに積極的な性格だとは知りませんでしたし、人前でしかも、娘の親である私の前でイチャイチャするのですよ?」
「宰相、それは娘が幸せになれるんだと目を瞑るしかないね」
ククっと喉を鳴らすように笑うアルバート。その二人の様子を横で見ていたウィルフレッドも、自身も同じ事をしていて、両親も居た堪れない気持ちになっているのだろうかなどと考えていた。だが、違うだろうなと思う。アバンス家は家族総出でレティシアの取り合いなのだから、イチャイチャするのは通常運転だ。なんなら、両親が今だに子の前でイチャイチャするのだから。うちにはない悩みだなと結論づけた。
「失礼します」
そこへ午前の騎士達への稽古をつけ終えたアイオロスが執務室にやってきた。
「稽古はつけ終えたのか?」
「はい、合同の稽古は一旦終了としました。午後からは各自鍛錬に励むよう言い付けております」
「そうか」
簡単な申し送りを済ませると、これまであーでもないこーでもないと言っていた宰相と、それをおもしろがって聞いていたアルバートが立ち上がる。
「ウィルフレッド、アイオロス。これからまた引き継ぎと教育の時間だろう?僕達はお暇するよ」
「失礼します」
二人は執務室から出て行った。
「団長、最近、あのお二人は毎日のようにここに来られていますね」
「そうだな」
「何か陛下やヴィンセント殿下に聞かれるとまずいお話でも?」
「そうではないんだが・・・」
ウィルフレッドは苦笑いしていた。二人が毎日のように同じ時間にやってきては、騎士達に稽古をつけ終わったアイオロスが来ると二人揃って執務室を後にする。その原因が他でもない、目の前のアイオロスとは言えずに苦笑するしかなかった。アイオロスにとっては、望んではいけない相手と、鼻から諦めていた相手と婚約者になり、あまつさえ一緒に住み始めたのだ。毎日愛しい相手の顔を見れるなど、この上ない幸せだというアイオロスの言葉は、ウィルフレッドも同感できる。だからこそ、やめろとは言えず、宰相も気の毒にと思うにとどめていた。
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