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8、一度は覚悟をしたけれど
しおりを挟む辿り着いた森は静かだった。風が木々を揺らし、サワサワと音がする。リシェリアが目を覚ますと、陽が高く、お昼頃だと思われた。
「眠ってしまったわ・・・」
ガサッ。
草木を踏み、何かが近づく気配がした。
ガルルッ。
大きな狼がこちらを見ていた。
(あぁ、私、ここで死ぬのね・・・やっと死ねる・・・痛くないといいなぁ・・・)
そんな事を考えながら、リシェリアは静かに目を閉じた。気配が段々と近くなってくる。だいぶ近くなったと思った時。
ギャンッ!!!
リシェリアは驚いて目を開けると、狼が勢いよく逃げて行くところが見えた。
「大丈夫か?」
声がしたほうを見ると、熊がいた。いや、熊ではなく、熊のような大きな男だった。
「助けて頂いたのですね・・・ありがとうございます」
「立てるか?」
「あ、はい・・・っ!!!」
「どうした?・・・あぁ、足を捻ったみたいだな」
男は騎士服を着ていた。辺境の騎士であろう。
「一旦詰所に行って手当てするか・・・カイル!」
男は後ろを向くと他の騎士を呼ぶ。リシェリアがその方向を見ると、他に5人の騎士がいて、目の前の大きな熊のような男よりは若い騎士達だった。
「怪我をしているようだ、運んでやれ」
「はい」
返事をした一人の騎士が近寄ってきて、抱えようと手を伸ばして来た。リシェリアは触れる寸前、恐怖で体の強張りを感じた。
「いやぁぁぁっ!!」
小さくなって悲鳴をあげ、震えるリシェリアに騎士達は驚いた。
「ん?カイルじゃだめか・・・マルク!」
男は他の騎士を呼びつけた。呼ばれて近寄って来たのは、髪を肩より長く伸ばし、銀の髪を後ろで一つに束ね、体の線も細く顔立ちも中性的な騎士だった。
「カイルでダメだったんですか?ご令嬢、すみません、失礼しますね」
マルクと呼ばれた騎士が、抱えようとリシェリアの体の下に腕を差し込もうとする。
必死に声は押し殺したが、ガタガタと震えが止まらず、少しだけ後退りしてしまった。
「団長、僕でもダメみたいです」
「困ったな・・・女性騎士を呼ん・・・ん?」
男はある一点に目がいくと固まってしまった。白く小さな手が自身の服を掴んでいたのだ。
「団長どうかしました?」
「あっ、いや・・・んん・・・」
団長と呼ばれた男の視線の先を、他の騎士達が覗き込む。
「うわっ、団長がいいんですか!?」
「え!?団長選ぶご令嬢初めて見た!」
「団長怖くないって女の子中々いないのに!」
騎士達は口々にあり得ないと言葉を発する。リシェリアは、この団長と呼ばれる、アリエル・モーガンを選んだのだ。この大きな鍛えられた体の厳つい男は、つい先程まで鋭い目付きでリシェリアを見ていたはずなのに、目の前にいるこの生き物はなんだろうかと言う程に、態度を様変わりさせていた。
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