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31、熊さんは白い貝殻のイヤリングをお届け
しおりを挟む「リシェ!!」
「アルさまぁぁ!!」
「貴様、リシェになんて事を!!」
「うぐっ!」
くぐもった声と、何かが鈍くぶつかる音がした。アリエルはアイスフォードの襟首を掴み、勢いよく馬車から引っ張り出した。
「お前達、拘束しておけ!」
「はい」「はい」
アリエルはリシェリアの身体をゆっくり抱き上げると、馬車から降ろす。そのまま地面に崩れるように座り込むと、自身の膝に横抱きにして座らせ、リシェリアの肩に頭を預けると、力強く抱きしめた。
「リシェ・・・遅くなった、すまない」
「アル様・・・怖かったです」
「あぁ・・・」
「アル様」
「なんだ?」
「お顔、見たいです」
「ダメだ・・・」
「どうしてです?お顔見せてください」
「もう少しこのままでいさせろ。お前が無事だと確かめさせろ」
アリエルの身体は小刻みに震えていた。
「アル様震えてます」
「仕方ないだろう、お前を失うかもしれないと思ったら怖かったんだ」
「やっぱりお顔見たいです」
「ダメだと言ってるだろう?情けない顔をしている」
「それでも見たいんです!!」
リシェリアは力いっぱいアリエルの身体を押して離した。
「アル様・・・泣いてますね」
リシェリアはアリエルの瞳から流れる雫を指で拭っていく。
「見るな・・・」
「アル様可愛いです」
「オッサンに可愛いはないだろう」
「アル様・・・好きです」
「・・・リシェ・・・聞き間違いか?好きと聞こえたが?」
「アル様が大好きです!」
「リシェ!!・・・俺もだ、俺も・・・お前が好きだ、大好きだ!!」
もう一度アリエルはリシェリアを力強く抱きしめた。しばらくして腕を緩めると、ポケットからあるものを取り出した。
「リシェ、落とし物だ」
アリエルが取り出したのは、初めてのデートでプレゼントした白い貝殻の形をしたイヤリング。熊さんは、お嬢さんを追って、白い貝殻の小さなイヤリングを届けました。アリエルはリシェリアの手のひらにそっとイヤリングを乗せる。
「よかった、戻ってきた!目印に落としたのを気付いてくださんたんですね!」
「あぁ、見つけてすぐにわかった。こっちに連れ去られたんだと、リシェのメッセージだとすぐわかった」
「さすが私のアル様です!でも、落とすの勇気がいりました。だって、大事な宝物なんですよ?なくすかもしれないと思ったら辛かったです」
「そんなもの、いくらでもプレゼントしてやる」
「ダメです!」
「なぜだ?俺からのプレゼントはもういらないのか・・・」
アリエルは、途端に表情を曇らせた。
「アル様・・・男性から貰った初めてのプレゼントなのです。しかも、アル様からの初デート記念ですよ?代わりなんてありません」
「リシェ・・・なんでお前はいとも簡単に俺を喜ばせるんだ?もう知らないからな・・・」
「ん?」
「ふっ、まぁ、いい、フローラが心配している。屋敷に帰るぞ」
「はい。また馬に乗せてくれますか?」
「いいぞ、俺の前はお前だけの特等席だ」
「ふふっ、嬉しいです」
「ったく、あいつ・・・こんなに乱暴にしやがって・・・」
アリエルは自身の上着を脱ぎ、リシェリアに着せる。アリエルの視界は捉えていた。はだけた先にあったリシェリアの膨らみを見て、顔を赤らめていた。
騎士達に拘束されたアイスフォードを馬車に押し込むと、辺境伯の屋敷に連れ帰る。
帰りは狼から助けられたあの日と同じ、でも、あの日とは違う。後ろからリシェリアを支えていただけの腕は、今では、後ろから包み込むようにしっかりと抱きしめられている。その腕は力強く、どこまでも優しかった。これまでも、二人の距離に少しずつ変化は出ていたものの、今この瞬間、揺るぎないものへと変化した。
「リシェリア様!!」
「フローラさん、心配かけました」
「いえ、私がついていながら・・・大変申し訳ありませんでした」
「ええい、フローラさんはなにも悪くないです」
「リシェリア様・・・なんとおいたわしい・・・まずはお着替えをしましょう」
着替えが済むと、アリエルに応接室に呼ばれた。そこには拘束を解かれたアイスフォードの姿があった。
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次回
リシェリアの事を愛称で呼ばないでください!
応援ありがとうございます!
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