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32、手の震えが意味するもの

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リシェリアが着替えを済ませ応接室に入ると、アリエルとアイスフォードが向き合って座っていた。アリエルに殴られたであろう頬が赤く腫れている。


「アル様・・・」

「リシェ、こっちにこい」


アリエルは手招きし、リシェリアを横に座らせると腰に手をあてて自身に寄せた。


「アイスフォード、なぜこんな事をした」

「・・・リシェリアを取り戻すためです」

「取り戻す?」

「リシェリアは私の婚約者でした」

「そうか・・・リシェ、本当か?」

「はい」

「でしたという事は、過去形で解消されているという事ではないのか?」

「・・・はい、しかし、私にはリシェリアしかいないのです!だから王都に戻ってもう一度婚約を結び直したいのです」

「殿下、さっきも申しました通り、私はもう殿下との未来は考える事はできません」

「リシェリア!愛しているんだ!君じゃないとダメなんだ!」

「無理だと何度言ったらわかるのです・・・」

「アイスフォード、諦めろ」

「叔父上!」

「叔父上?」

「あぁ、言ってなかったな。俺は今の国王の弟、いわゆる王弟殿下ってやつだ。だからアイスフォードとフラムウェルは俺の甥にあたる」


どうりでさっきから、王子であるアイスフォードに強い態度で接しているのかと納得した。


「アイスフォード、なんで婚約がなくなったのかは知らんが、どう見たってリシェはお前を必要としていない」

「叔父上、さっきから聞いていれば・・・リシェリアの事を愛称で呼ばないでください。私さえ呼んでいないのに!」

「そんなの知るか。俺達は互いに許可を得てる。なんの問題もない」

「とにかく私はリシェリアを王都に連れ帰ります。リシェリアのご両親も心配しているんです」

「ご両親が心配しているのはわかっている。だが、リシェ自身が王都に戻ることを望んでいない」

「それは、きちんと片付いたから大丈夫なのです。何も心配はいりません」

「何が片付いたのか知らんが、お前がいる限り安心などできん」

「くっ・・・しかし、私は、未来の王妃はリシェリアしかいないと思っています
。リシェリアでなくてはいけないのです」

「・・・あぁ、確かにリシェリアには王妃になる素質がある」

「アル様・・・」


リシェリアはアリエルがそんな事を言うとは思わず、途端に不安が顔に現れる。


「リシェが王妃になれる女なのは間違いない。しかし、それはお前の隣ではないのだ。お前は国王に向かん。だからお前にはリシェは渡さん。別の男が国王になってその隣にリシェがいる。リシェにふさわしい男が国王になるならくれてやろう」


リシェリアにはアリエルの真意がわからず困惑したが、リシェリアの事を拒んでいるわけでもなく、簡単に手放すはずがないのもわかった。なぜなら、こんなにも威厳があるのにもかかわらず、リシェリアの腰に添えられている手が震えていたのだ。くれてやろうなどの言葉や他の男にという言葉と逆に、アリエルの手からは不安の震えが感じ取れた。





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次回

【アリエルside】

なんだ、お前愛称で呼ばせてもらえてなかったのか?
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