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ダンテ爺ちゃん

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レスタに案内され、屋敷の裏にある畑の一角にやって来た。帽子をかぶり、鍬を手にした老人が畝をつくっているようであった。


「ダンテ様、ご令嬢をお連れしました」


ダンテと呼ばれた壮年の男性は、声をかけたレスタにゆっくりと振り返る。ただ振り向いただけなのに、何か威圧のようなものを感じた。だがそれも一瞬の事で、気のせいと言われればそのようにも思えるわずかな変化だった。


「そなたが坊の奥方候補か」


ダンテは努めて優しく声をかける。坊。まるで坊やとでも言っているよう。スティファニアを奥方候補と言うなら、坊と言うのは男爵のリオネルの事であろう。まだ見ぬ旦那様。しかし歳は30を越えていると聞く。一体この男は何者なのか。探るような表情が顔にでも出ていたのだろうか。


「お初にお目にかかります、スティファニア・スペシオールと申します」

「そう緊張なさるな・・・と言っても、知らない爺さんに会えばそうなるだろうな。儂は、畑の番をしているだけのただの老人だ。ダンテ爺ちゃんとでも呼んでくれ」

「ダンテ、爺、ちゃん・・・」

「レスタ、聞いたか!?可愛い孫娘ができた気分じゃわい!」

「えぇ、確かにお聞きしました、ダンテ様!」

「うんうん、儂は機嫌がいい。それで、貴族のご令嬢がこんなところにどんな用事なんだね?」

「あのっ!、私に野菜を育てる事をご教授頂けないでしょうか!」

「野菜を?なんでまた」

「花でもよいのでしょうが、実っていく様子を見守りたいのです。駄目、でしょうか?」

「いや、別に構わんが、野菜は毎日世話がいる」

「はい、毎日畑に足を運んでお世話しますわ!」

「汚れるぞ?」

「構いません!子どもの頃から泥だらけになってみたいと思っていたんです!」

「陽にも焼けるかもしれん」

「陽に焼けたご令嬢が嫌だというのなら、男爵様とは離縁します」

「・・・っ、くっ、くくっ・・・面白い娘が来たもんだな」


ダンテは笑いをこらえながらレスタに視線を戻した。



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