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【エイデン視点】本編24話の後の話
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あのくそじじい……一体何を企んでやがる?
俺のレイナを騙そうったってそうはいかない。素直なレイナはすぐに人を信じちまうんだから、俺が守ってやらないと……
「何だお前か」
部屋を訪れた俺を歓迎する様子もなく、祖父は仕方ないといった様子で中へ通した。
「……それで何の用なんだ?」
炎の力を持つものが俺しかいなかったため、ただ一人の王位継承者として祖父には厳しく躾けられた。そのためだろうか、祖父の前では今でも萎縮してしまう。
でもここで怯んでいては、レイナを守る事なんてできやしない。
「一体何を企んでいるんです?」
「企むとは?」
勧められたままに腰かけると、相変わらず厳しい目をして祖父が尋ね返した。
「あ、あなたがレイナと仲良くするなんて、何か企んでるとしか考えられません」
「……だとしたらどうなんだ? 」
眼光は鋭いが、祖父の口調はとても穏やかだった。
「お前は龍族の力のためにあの娘と結婚したいだけだろう? 力も記憶も封印してあるような娘に、何の価値がある?」
くそっ。この前の火事のせいで、俺がレイナの力を封印してることはバレてしまったか。
レイナを愛しているから嫁として迎えたい。そう伝えたら先代である祖父にも、国の重鎮達にも反対されるのは分かっていた。
王として国益になる結婚を……
幼い頃からそう教えられ、婚約者も用意されていた。
だが俺はレイナに出会ってしまったのだ。レイナ以外の女なんて必要ない。
「……俺は……俺はレイナを愛しています」
小さいけれど、はっきりとした声で祖父へ伝えた。
「レイナを傷つけるつもりなら、たとえあなたが相手でも容赦しませんから」
祖父を睨みつけるようにして自分の思いを伝えた。こうして睨むのが、何を言われてもレイナを諦めるつもりはないという俺の意思表示だ。
しばらく無言のまま見つめ合う、というより睨み合いのような状態が続く。っと、突然祖父の顔がふっと緩んだ。
「そりゃよかった……」
よかった? よかったとはどういう意味だ?
祖父の言葉の意味がすんなりと頭に入ってこない。おそらく罵倒された方がまだ理解できたかもしれない。
「……よかったんですか?」
「ああ。お前がレイナを本気で守るのなら、安心だからな」
これは本当に祖父なのだろうか?
面食らう俺に祖父は一枚の絵を見せた。綺麗な花畑で4人の人物が楽しそうにピクニックをしている絵だ。
これは……俺じゃないよな?
真ん中に描かれている若い赤髪の男は何となくだが俺に似ているような気がする。
「これは若い頃のワシと妻の絵だ」
今はさっぱり似ているとは感じられないが、若い頃の祖父が自分に似ているというのは何だか不思議な気分だ。
「そしてこれが……これがレイナの祖父母」
「えっ!? どうして……?」
どうして祖父母の絵の中にレイナの祖父母がいるんだ?
「レイナの祖父、アルバートはワシの親友だからな」
本当だったのか?
レイナは祖父とそんな話をしたと言っていたが、てっきり祖父がレイナを騙すための作り話かと思っていた。本当なら、何故今まで話してくれなかったんだ?
「これはワシと妻が新婚旅行でガードランドに行った時を描いたものだ。記念にとアルバートがよこしてきおった」
絵を見つめる祖父の目は、普段自分に向けられる厳しいものとは違いとても穏やかだ。
「レイナにはワシらは知り合いだったと知らせたが、親友だとまでは言うつもりはないからお前も言うなよ」
「どうしてですか?」
「ワシらが知り合いだと知った時、レイナは祖父のこと、ガードランドのことを知りたいと言ったんだ」
それはそうだろう。ガードランドはレイナが小さい時に滅んだのだから、覚えていることはほとんどないはずだ。知りたいと思うのも当然だ。
「ワシはガードランドのこともアルバートのことも、あの娘にはあまり教えたくない」
「なぜですか?」
「なぜって……」
祖父はふんっと鼻をならした。
「レイナにとっては辛い話が多いからな……知らない方が幸せかもしれんだろ」
祖父の口からレイナを思いやるようなセリフが出たことが驚きだ。
「ワシはな……ガードランドが滅んだ時アルバートに何もしてやれんかった。だからアルバートの娘と孫のレイナだけは何としても助けてやりたかった……」
「じゃあなぜ俺とレイナの結婚を反対したんです?」
「お前が龍族の力のためにレイナと結婚すると言ったからだ」
「そうでも言わないと、あなたが決めた婚約者との結婚をやめられなかったじゃないですか?」
国益になる花嫁をと言われて決められた婚約者は、確か砂漠の国サンドピークの王女だったはずだ。レイナと結婚するためにかなり強引に婚約破棄してしまったが。
婚約破棄する際、祖父や国の重鎮達に婚約者よりレイナと結婚する方がメリットがあると説得する必要があった。そのために龍族の力の話を出したのだ。
「ワシはずっとレイナ達親子の行方を探させておった。やっと見つけたと思ったら、お前に邪魔されて保護できなかったがな」
あの時森の中でレイナを捕まえようとしていたのは祖父の家臣だったのか?
「ワシも早く保護しなければと焦っておったんだ。レイナは他の者にも狙われていたからの。しっかし、使いに出した者達がお前に燃やされたと言って帰って来た時には驚いたぞ」
「あれじゃ保護してたようには見えませんよ」
どう見ても、レイナを攫おうとしているようにしか見えなかった。
「それからずっと二人の行方は分からんかった。まさか龍の力が封印されておったとはな」
力が封印されていたせいで、レイナ達がずっと見つからなかったのだと祖父は納得したらしい。
「このまま普通の娘として幸せになれればいいと思っていたんだがな。でもあの火事があった事で、お前がレイナのことを本当に想っているのがよく分かった。レイナの記憶がなくなってしまったのは残念だったが……」
祖父が俺に同情するような表情を見せた。
「お前が本気でレイナのことを想っているなら、ワシはお前達の結婚に大賛成だ」
思いがけない話の流れに驚いてしまう。
「なんだ、そのおかしな顔は?」
「いえ……あなたの口からそんな言葉が出るとは思ってもみなかったので……」
ふんっと鼻をならしながら祖父が言う。
「どうせワシのことを頑固じじいだとでも思ってたんだろう」
その通りなので返す言葉もない。まぁつけ加えれば、いけすかない頑固じじいだと思っていた。
「まぁ小さい頃からお前にはキツく当たっていたからな」
強すぎる炎の力を持って産まれた俺は、この力を使いこなせなければ周りから疎まれてしまう。祖父が俺に厳しかったのは、俺を心配しての事だと知らされ言葉もないほどの衝撃を受けた。
「エイデン、お前はよく頑張った。お前ならきっとレイナを幸せにしてやれるはずだ」
祖父からこんな優しい言葉がかけられることなんて一生ないと思っていた。胸が熱くなる……
もしかすると、俺は祖父に愛されていたのだろうか?
自分は母からも祖父からも嫌われていると思っていた。しかし祖父は自分を気にかけてくれていたのだ。そのことが素直に嬉しい。
「……今度、俺にもガードランドの話を聞かせてください」
「そうだな。レイナと三人で、美味い茶でも飲みながら話すとしよう」
今まで見たことのない優しい顔で祖父は笑った。
俺のレイナを騙そうったってそうはいかない。素直なレイナはすぐに人を信じちまうんだから、俺が守ってやらないと……
「何だお前か」
部屋を訪れた俺を歓迎する様子もなく、祖父は仕方ないといった様子で中へ通した。
「……それで何の用なんだ?」
炎の力を持つものが俺しかいなかったため、ただ一人の王位継承者として祖父には厳しく躾けられた。そのためだろうか、祖父の前では今でも萎縮してしまう。
でもここで怯んでいては、レイナを守る事なんてできやしない。
「一体何を企んでいるんです?」
「企むとは?」
勧められたままに腰かけると、相変わらず厳しい目をして祖父が尋ね返した。
「あ、あなたがレイナと仲良くするなんて、何か企んでるとしか考えられません」
「……だとしたらどうなんだ? 」
眼光は鋭いが、祖父の口調はとても穏やかだった。
「お前は龍族の力のためにあの娘と結婚したいだけだろう? 力も記憶も封印してあるような娘に、何の価値がある?」
くそっ。この前の火事のせいで、俺がレイナの力を封印してることはバレてしまったか。
レイナを愛しているから嫁として迎えたい。そう伝えたら先代である祖父にも、国の重鎮達にも反対されるのは分かっていた。
王として国益になる結婚を……
幼い頃からそう教えられ、婚約者も用意されていた。
だが俺はレイナに出会ってしまったのだ。レイナ以外の女なんて必要ない。
「……俺は……俺はレイナを愛しています」
小さいけれど、はっきりとした声で祖父へ伝えた。
「レイナを傷つけるつもりなら、たとえあなたが相手でも容赦しませんから」
祖父を睨みつけるようにして自分の思いを伝えた。こうして睨むのが、何を言われてもレイナを諦めるつもりはないという俺の意思表示だ。
しばらく無言のまま見つめ合う、というより睨み合いのような状態が続く。っと、突然祖父の顔がふっと緩んだ。
「そりゃよかった……」
よかった? よかったとはどういう意味だ?
祖父の言葉の意味がすんなりと頭に入ってこない。おそらく罵倒された方がまだ理解できたかもしれない。
「……よかったんですか?」
「ああ。お前がレイナを本気で守るのなら、安心だからな」
これは本当に祖父なのだろうか?
面食らう俺に祖父は一枚の絵を見せた。綺麗な花畑で4人の人物が楽しそうにピクニックをしている絵だ。
これは……俺じゃないよな?
真ん中に描かれている若い赤髪の男は何となくだが俺に似ているような気がする。
「これは若い頃のワシと妻の絵だ」
今はさっぱり似ているとは感じられないが、若い頃の祖父が自分に似ているというのは何だか不思議な気分だ。
「そしてこれが……これがレイナの祖父母」
「えっ!? どうして……?」
どうして祖父母の絵の中にレイナの祖父母がいるんだ?
「レイナの祖父、アルバートはワシの親友だからな」
本当だったのか?
レイナは祖父とそんな話をしたと言っていたが、てっきり祖父がレイナを騙すための作り話かと思っていた。本当なら、何故今まで話してくれなかったんだ?
「これはワシと妻が新婚旅行でガードランドに行った時を描いたものだ。記念にとアルバートがよこしてきおった」
絵を見つめる祖父の目は、普段自分に向けられる厳しいものとは違いとても穏やかだ。
「レイナにはワシらは知り合いだったと知らせたが、親友だとまでは言うつもりはないからお前も言うなよ」
「どうしてですか?」
「ワシらが知り合いだと知った時、レイナは祖父のこと、ガードランドのことを知りたいと言ったんだ」
それはそうだろう。ガードランドはレイナが小さい時に滅んだのだから、覚えていることはほとんどないはずだ。知りたいと思うのも当然だ。
「ワシはガードランドのこともアルバートのことも、あの娘にはあまり教えたくない」
「なぜですか?」
「なぜって……」
祖父はふんっと鼻をならした。
「レイナにとっては辛い話が多いからな……知らない方が幸せかもしれんだろ」
祖父の口からレイナを思いやるようなセリフが出たことが驚きだ。
「ワシはな……ガードランドが滅んだ時アルバートに何もしてやれんかった。だからアルバートの娘と孫のレイナだけは何としても助けてやりたかった……」
「じゃあなぜ俺とレイナの結婚を反対したんです?」
「お前が龍族の力のためにレイナと結婚すると言ったからだ」
「そうでも言わないと、あなたが決めた婚約者との結婚をやめられなかったじゃないですか?」
国益になる花嫁をと言われて決められた婚約者は、確か砂漠の国サンドピークの王女だったはずだ。レイナと結婚するためにかなり強引に婚約破棄してしまったが。
婚約破棄する際、祖父や国の重鎮達に婚約者よりレイナと結婚する方がメリットがあると説得する必要があった。そのために龍族の力の話を出したのだ。
「ワシはずっとレイナ達親子の行方を探させておった。やっと見つけたと思ったら、お前に邪魔されて保護できなかったがな」
あの時森の中でレイナを捕まえようとしていたのは祖父の家臣だったのか?
「ワシも早く保護しなければと焦っておったんだ。レイナは他の者にも狙われていたからの。しっかし、使いに出した者達がお前に燃やされたと言って帰って来た時には驚いたぞ」
「あれじゃ保護してたようには見えませんよ」
どう見ても、レイナを攫おうとしているようにしか見えなかった。
「それからずっと二人の行方は分からんかった。まさか龍の力が封印されておったとはな」
力が封印されていたせいで、レイナ達がずっと見つからなかったのだと祖父は納得したらしい。
「このまま普通の娘として幸せになれればいいと思っていたんだがな。でもあの火事があった事で、お前がレイナのことを本当に想っているのがよく分かった。レイナの記憶がなくなってしまったのは残念だったが……」
祖父が俺に同情するような表情を見せた。
「お前が本気でレイナのことを想っているなら、ワシはお前達の結婚に大賛成だ」
思いがけない話の流れに驚いてしまう。
「なんだ、そのおかしな顔は?」
「いえ……あなたの口からそんな言葉が出るとは思ってもみなかったので……」
ふんっと鼻をならしながら祖父が言う。
「どうせワシのことを頑固じじいだとでも思ってたんだろう」
その通りなので返す言葉もない。まぁつけ加えれば、いけすかない頑固じじいだと思っていた。
「まぁ小さい頃からお前にはキツく当たっていたからな」
強すぎる炎の力を持って産まれた俺は、この力を使いこなせなければ周りから疎まれてしまう。祖父が俺に厳しかったのは、俺を心配しての事だと知らされ言葉もないほどの衝撃を受けた。
「エイデン、お前はよく頑張った。お前ならきっとレイナを幸せにしてやれるはずだ」
祖父からこんな優しい言葉がかけられることなんて一生ないと思っていた。胸が熱くなる……
もしかすると、俺は祖父に愛されていたのだろうか?
自分は母からも祖父からも嫌われていると思っていた。しかし祖父は自分を気にかけてくれていたのだ。そのことが素直に嬉しい。
「……今度、俺にもガードランドの話を聞かせてください」
「そうだな。レイナと三人で、美味い茶でも飲みながら話すとしよう」
今まで見たことのない優しい顔で祖父は笑った。
応援ありがとうございます!
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