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第一話「月の光と胸の痛み」
014.はじめての胸の痛み(1)
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結局クルトはクマ男を店に残して支払いを済ませ、食べきれなかった魚をお持ち帰りに包んでもらい、私を小脇に抱えて強風のブースト・ジャンプで宿屋に戻った。
クマ男は今度は座ってうなだれたまま追いかけてすら来なかった。
クルトはその後何ごともなかったかのように、ランクBのソロのクエストを次々こなし、お金を稼いでポーションや薬草を買い溜めていった。
私はその間もクマ男が気になっていたけれども、クマ男はあれからちらりとも現れず、クルトも話に出さずどうしようもなかった。
そんな中で私たちはマーヤでの二週間目を迎えた。
私たちのいる宿屋は第三通りの片隅にある。大通りからは少し外れているけれど、安くてきれいで居心地がよかった。
一階は小さな食堂になっていて、入り口の扉の上には豚の形をした鉄の看板、隣にはお肉の塩漬に使ったタルが置かれている。これは「こんな料理があるよ」「こんなに美味しいよ」って宣伝のためなんだそうだ。
私はそのタルのフタに座り日向ぼっこをしていた。
まだ午前だけれどもお日様が当たって気持ちがいい。私は暖かさにうとうととしながら、時々我に返って慌てて座り直していた。
ちょっと前起きたばかりなのに、いけにゃいいけにゃい。
通りがかりの女の人二人が立ち止まり、私を見つめながらささやき合っている。
「あれ……あの猫置物じゃないわよね?」
「ホンモノでしょう。ほら、少し動いた」
「七ヶ月くらい? きっとまだ子猫よね」
私は思わずカッと目を開けた。もう子猫じゃないのに!!
「あ、ほら、やっぱり生きていた」
「かーわいっ♪ 触らせてくれるかな?」
落ち込んで尻尾をタルの上からだらんと垂らす。
もう一歳にもなっているのに……。
見るとその二人だけではなく後ろに男の人もいる。男の人は右の肩に大きな袋を引っかけ、「んん……?」と首を傾げて私を見ていた。縦も横も大きいちょっと頭がさみしい人だ。
私は心の中で「あっ」と声を上げた。
『――クマ男!!』
「ああチビクロ、やっぱりお前だったか」
クマ男がどすどすと樽に近づいて来る。女の人二人は「きゃっ」と声を上げ、そろってどこかに走って行ってしまった。
今日のクマ男はレザー・アーマーを着ていない。ロングソードも置いてきたのか、生成りのズボンに長袖のシャツ、紐で前をくくるベストを着ている。ごくふつうの街の人間の服装だった。
クマ男は腰を屈めて私のいる高さに合わせた。
「お前たちこんなところに泊まっていたのか。まあ、大通りの辺りにゃ花街もあるからなぁ。さすがにお嬢ちゃんにゃ見せたくはなかったか」
『はなまち?』
「あ、こっちの話こっちの話。ガッハッハ」
私は不思議に思いながらもクマ男に尋ねる。
『今日クマ男はクエストじゃないの?』
「ん……いや、もうクエストはな……。今日は実家の手伝いなんだ。取引先が近くにあるのさ」
クマ男はなんだか気まずそうだ。私には答えず宿屋の二階に目を向ける。
「あー、お前がここにいるってことは、クルト・フォン・ハンスもここか?」
クマ男は今度は座ってうなだれたまま追いかけてすら来なかった。
クルトはその後何ごともなかったかのように、ランクBのソロのクエストを次々こなし、お金を稼いでポーションや薬草を買い溜めていった。
私はその間もクマ男が気になっていたけれども、クマ男はあれからちらりとも現れず、クルトも話に出さずどうしようもなかった。
そんな中で私たちはマーヤでの二週間目を迎えた。
私たちのいる宿屋は第三通りの片隅にある。大通りからは少し外れているけれど、安くてきれいで居心地がよかった。
一階は小さな食堂になっていて、入り口の扉の上には豚の形をした鉄の看板、隣にはお肉の塩漬に使ったタルが置かれている。これは「こんな料理があるよ」「こんなに美味しいよ」って宣伝のためなんだそうだ。
私はそのタルのフタに座り日向ぼっこをしていた。
まだ午前だけれどもお日様が当たって気持ちがいい。私は暖かさにうとうととしながら、時々我に返って慌てて座り直していた。
ちょっと前起きたばかりなのに、いけにゃいいけにゃい。
通りがかりの女の人二人が立ち止まり、私を見つめながらささやき合っている。
「あれ……あの猫置物じゃないわよね?」
「ホンモノでしょう。ほら、少し動いた」
「七ヶ月くらい? きっとまだ子猫よね」
私は思わずカッと目を開けた。もう子猫じゃないのに!!
「あ、ほら、やっぱり生きていた」
「かーわいっ♪ 触らせてくれるかな?」
落ち込んで尻尾をタルの上からだらんと垂らす。
もう一歳にもなっているのに……。
見るとその二人だけではなく後ろに男の人もいる。男の人は右の肩に大きな袋を引っかけ、「んん……?」と首を傾げて私を見ていた。縦も横も大きいちょっと頭がさみしい人だ。
私は心の中で「あっ」と声を上げた。
『――クマ男!!』
「ああチビクロ、やっぱりお前だったか」
クマ男がどすどすと樽に近づいて来る。女の人二人は「きゃっ」と声を上げ、そろってどこかに走って行ってしまった。
今日のクマ男はレザー・アーマーを着ていない。ロングソードも置いてきたのか、生成りのズボンに長袖のシャツ、紐で前をくくるベストを着ている。ごくふつうの街の人間の服装だった。
クマ男は腰を屈めて私のいる高さに合わせた。
「お前たちこんなところに泊まっていたのか。まあ、大通りの辺りにゃ花街もあるからなぁ。さすがにお嬢ちゃんにゃ見せたくはなかったか」
『はなまち?』
「あ、こっちの話こっちの話。ガッハッハ」
私は不思議に思いながらもクマ男に尋ねる。
『今日クマ男はクエストじゃないの?』
「ん……いや、もうクエストはな……。今日は実家の手伝いなんだ。取引先が近くにあるのさ」
クマ男はなんだか気まずそうだ。私には答えず宿屋の二階に目を向ける。
「あー、お前がここにいるってことは、クルト・フォン・ハンスもここか?」
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