魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-

東 万里央(あずま まりお)

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第一話「月の光と胸の痛み」

031.ずるくて優しい(4)

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 通りのみんながやっと落ち着いた顔になった。やるべきことがわかったからだろう。

「じゃあ、みんな、今は逃げることが最優先だから、荷物は置いて行くんだよ。すべては命があってこそなんだからね」

 ところがやっとみんなに「りせい」が戻ったのに、二人の男の人が人ごみを掻き分けて、おかみさんと私に詰め寄った。「冗談じゃねえぞ!」と私を指差し、怒りに満ちた声を張り上げる。私はその声とぎらぎら光る目に身体が凍り付いてしまった。

「――魔物の言うことなんざ信じられるかよ!!」

 私はあっと息を呑んで目を見ひらいた。クルトと杖を買いに行ったあの日、私を道で蹴ろうとした人たちだったからだ。

「魔物は人間にとってカタキでしかねえ。俺たちを陥れるに決まっている!!」
「……あんた達は馬鹿かい」

 おかみさんが呆れたように溜息を吐いた。今度は別の男の人の声が耳に届く。

「馬鹿じゃなければ阿呆か間抜けじゃのう。なら、あんたがたは人間なら信じられるのかいのう? 自警団は真っ先に逃げてしまったというのに」

 銀の影がおかみさんと迫る男の人たちの間に割って入り、私をかばうかのようにさりげなく手を横に挙げた。向かいの部屋に泊まっていた冒険者、戦士で弓使いのアーベルさんだった。

『あっ、アーベルさん……』

 アーベルさんはクルトと同じくらいの年に見えるけれども、ほんとうは七十歳を超えているおじいさんなんだと聞いた。銀の長い髪を三つ編みに束ねて耳がぴんととがっている。同じ銀の穏やかな瞳だけが生きた時の長さを伝えていた。アーベルさんは太古にとつぜん消えた「えるふ」という種族の末裔で、まれに人間からせんぞがえりで生まれてくるんだと言う。

 アーベルさんは「安心しなさい」と呟くと、男の人たちに向き直り見下ろした。

「ワシはこの子を信じるぞ。先祖返りのエルフのワシよりも、よほど感覚が鋭いんじゃ」

 男の人のひとりが更にいきりたつ。

「人間の俺よりそんな魔物を信用するって言うのかよ!!」

 けれどもアーベルさんは冷静だった。

「ルナは誰かを騙すような子じゃない。よこしまな人間よりよほど真心がある。ワシは七十四年生きてきたが、ワシを親から盗んだのも、売り飛ばしたのも、虐げこき使ったのも、すべて人間でしかなかったぞ。魔物など一匹もおらんかった。それになあ」

 振り返りおかみさんに抱かれた私の頭を二度軽く撫でる。

「ワシはこの子と仲良しなんじゃ。友だちを信じるのは当たり前じゃろ?」

 男の人たちがぐっと黙り込み悔しそうに拳を握り締めた。

「は、エルフ風情が……」
「エルフも魔物も信じられんというのなら、お前さんたちは別の道を見つければよい」
「……」

 他のみんなはおかみさんと私についてくるつもりみたいだ。仲間や家族ごとに意志を確認し合っている。その中から二人の女の人が音もなく私たちに近づいてきた。二人とも赤紫のロングスカートのワンピースの上に、膝まであるジャケットを重ねて着ている。服装と手の杖で女魔術師さんなんだと分かった。

「では、私たちがおかみさんとルナさんの護衛をします」

 お姉さんたちは姉妹の魔術師でランクはCだけれども、二人とも水の魔術が使えるんだそうだ。

「火を消せるほどではありませんが、みなさんに降りかかる火の粉を払うくらいはできます。お二人ともよろしいでしょうか?」

 おかみさんは「もちろんだよ!」とうなずいた。私を地面に下ろししゃがみ込む。

「ルナちゃん、道案内をお願いしていいかい」

 私は「まかせて!」と大きくうなずいた。くるりと身をひるがえし走り出す。

『私についてきて!!』

 できるだけたくさんの人間や生き物をこの街から外に出すんだ――私はそんな思いを胸に抱きながら道を駆け抜けて行った。
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