魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-

東 万里央(あずま まりお)

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第二話「空と海と嘘とキス」

044.海賊ヴォルフガング(1)

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 あんまり何度も引っかいたから、疲れてしまったんだろうか。きっとお腹も空いていたんだろう。私は箱の中でぐったりとなって、浅い息をくり返し吸って吐いた。

 嫌だ、嫌だよう。こんなところで「また」死ぬのは嫌だよう。

――ううん、待って。

 私はなぜかぎくりと身体を震わせる。

 どうして「また」だなんて思ったんだろう? 

 そう考えはじめたとたんに、頭がずきんと痛んだ。痛みはどんどん強くなって、がまんできなくらいになっていく。

 痛い、痛いよう。クルト、助けて……。

 私がここにはいないクルトに助けを求めていると、次は知らない誰かの声が遠くから聞こえた。

――ルナ、思い出してはいけないよ。

 優しい声だった。どこかで聞いたことがあるような、ないような不思議な声だ。

――あなたは、だぁれ? 

 柔らかな、でも温かくはない手が額に当てられた気がした。手は私の額をそっと撫でて痛みを取りのぞいていく。

――決して思い出してはいけないよ……。



◇◆◇◆◇



 私がやっと目を覚ました時には、もう頭は痛くなくなっていた。不思議な声も聞こえなくて、私は夢だったのかにゃと首をかしげる。

 ところがううんと背伸びをする前に、箱がぐらりと持ち上げられて、私は慌てて壁に爪を立てた。

 にゃ、にゃにが起こったんだにゃ!?

 外からは二人の男の人の声が聞こえる。ヴェンディスの港で聞いた声とは違うものだった。

「この船倉の物品はこれで全部だな?」
「ああ。けどよー、こんなもんマジで売れるのか? 宝石や黄金ならともかく、ガラスじゃねえか」
「阿呆。ヴェンディスのガラス細工の価値を知らねえのか。高いもんになると家が一件建つんだぞ」
「へえ、ガラスがねえ」

 この人たちはいったい誰で、どこへ行くつもりなんだにゃ!?

 慌てふためく私の二つの疑問は、次のセリフですぐにわかった。

「この船はどうするんだ?」
「盗るもん盗ったら用なしだからな。海軍に見つかるとまずいから、沈めることになるだろうさ」
「……!!」

 身体が一気に冷たくなるのを感じる。

 この人たちは海賊だ!!

 私が眠っているうちに貿易船が襲われたんだろう。品物を運び出している最中なんだ。他に中にいた人たちは無事なんだろうか。

 私の心配に答えてくれる人は誰もいない。そうこうする間に私の入った箱は、また冷たく静かなところに運びこまれた。ところが前とは違って放り投げられてしまったのだ。

「み"ゃーっ!」

 頭をまたぶつけて悲鳴を上げる。

「おい、乱暴にするなよ!」
「こんだけありゃ一個くらいどうってことねえだろうが」
「ま、な」

 海賊の二人はガハハと笑い合うと、私を残してどこかへ行ってしまった。

 私はそっとフタを頭で押してみる。何かが外れる音がしたので、もしかしてと思ったのだ。

「……!!」

 フタはやっぱりすぐに開いた。私はおそるおそる外に出ると、あたりの観察を開始したのだった。
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