魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-

東 万里央(あずま まりお)

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第二話「空と海と嘘とキス」

047.海賊ヴォルフガング(4)

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 メロンの女の人が帰ったあとには、部屋にはまた船長と私だけになった。船長は床のお皿を見ると「ん、全部食ったか」とまた笑う。

 こうして笑うといい人に見えるから困るにゃ……。で、でも、船長は海賊なんでしょう!? 貿易船からいろんなものを盗んで、人間を誘拐してみのしろきんを取って……。

 私がいっしょうけんめい警戒していると、船長がまた私の首筋をひょいと摘まんだ。

「んじゃ、寝るか」

 え、ええっ!?

「明日は早いからな」

 私を高々とかかげながら、目を合わせて話しかける。

「しっかしお前どこから来たんだ? ノラの割には毛艶がいいから、陸の飼い猫が迷い込んで来たって感じか」

 違うよ。しゅっかされたんだよ!と言いたくても、首根っこを押さえられている。

「っても、もうどこの港からかはわかんねえよな。いざとなったらビアンカに預けるか……それとも船でネズミ除けに飼っとくか?」

 私はみゃっと声を上げそうになった。
 
 ど、ど、ど、どうしよう! このままじゃクルトの使い魔から、海賊の猫になっちゃうよ! ネズミを捕まえるのは好きだけど、毎日ネズミがご飯じゃ飽きちゃうにゃ!

「まあ、明日のことは明日考えるさ」

 船長は私をベッドにぽすんと落とすと、上着とシャツを脱いで裸になった。

 わっ、やっぱり身体中に傷あとがある。これは剣で切り付けられたもの、あれはボウガンで射られたあとだろうか。

 そういえばクルトの左胸にも傷あとがあったと思い出す。大きな星を思わせるもので、昔ずっと弱かった子どものころに、つけられたものだと言っていた。けれどもクルトの心臓は右にあったから、今でも生きているんだよって。

 クルトが小さかったころに出会っていたら、自由に人化できる能力があったら、そんな傷あとは絶対残さなかったのに……。

 そんなことを考えながら船長を見あげていると、船長はベッドに腰を下ろして私の頭を掴むように撫でた。

「とりあえずお前ももう寝ろ」

 手を組んで枕にするとどさりと寝ころがる。

『……』

 私も次はおとなしくシーツの上に丸まった。

 ここは船長の言うとおりにしておくにゃ。とりあえずお腹もいっぱいになったし、だっしゅつの方法は明日になってから考えよう。そう、必ずヴェンディスに戻って、クルトに「お帰りなさい」って言うんだ。

 まぶたを閉じる前になんとなく窓を見あげる。まん丸の真月と添え月が空に輝いていた。こんなにきれいな満月はマーヤ以来だ。空が曇っていないからか、どっちのお月様もはっきり見える。

――お月様、どうかお願いです。クルトのもとに帰れますように……。

 私はそうしてゆっくりと眠りに落ちていった。いつの間にか月の光が降りそそいで、私の姿を変えていくのにも気づかずに……。



◇◆◇◆◇



……なんだかさっきからほっぺが痛い。誰かに引っ張られている気がする。

「おい、起きろ」
「……」
「起きろってんだ。ったくこの女は大胆なのか、鈍感なのかどっちなんだ」

 ダイタン? ドンカン? それって美味しいの?

 私がやっとの思いで重いまぶたを開けると、どあっぷになった男の人の顔があった。

「にゃっ!? 誰にゃっ!? あっ、船長だったにゃ……って!?」

 私は思わず喉を押さえる。

 人間の声が出ている!?

 慌てて顔や身体をぺたぺたと触ると、耳もヒゲもしっぽもなくなっている。代わりに長くて黒い髪と白い手と足があった。

 私は「どうして」とぼうぜんと呟いた。

 どうして人化しているの!?

 船長は気だるげに起きあがると、いぶし銀の前髪をかき上げた。

「どうしては俺のセリフだ。どうして俺のベッドに女がいる。ビアンカの店の新顔か? ずいぶん積極的な営業だな」

 「だがな」と片ひざを立てて頬杖をつく。

「さすがに朝っぱらからその気にはなれねえぞ」
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