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第二話「空と海と嘘とキス」
050.クルトとヴォルフ(1)
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ヴェンディスへ行くまでには、約二日かかるんだそうだ。港に船はつけられないけど、代わりに近くの陸に下ろしてくれると、ヴォルフは約束してくれた。
私はその間すごくたいくつだった。だってやることが何もないんだもの。だから、船を探検することにしたんだ。
船には中にも外にもいろんなものがあった。一番面白かった場所はしょうろうという、マストのてっぺんにある見張り台だった。とっても高いところにあって、どこまでも続く海が見渡せて、空飛ぶ鳥に挨拶もできる。
けれどもすぐにヴォルフに、「危ないから上るな!」って怒られて、下りるしかなかったんだにゃあ……。
ウォルフはいつも私を追いかけて、「あれをやるな、これをやるな」とうるさかったけども、他の皆はとっても優しくて親切だった。
ご飯やお酒を食べたり飲んだりしているのを、羨ましくて見つめていると、「食べますかい?」「どうぞ一口……」とわけてくれる。甲板でのんびり日向ぼっこをしていると、「暑くはありゃせんか」と扇いでくれたり、お水を持ってきて飲ませてくれた。
その日の午後、私はだんだん気持ちよくなってきて、ごろんと寝転がってお腹を見せた。慌てて敷く布をくれたお兄さんに、「ねえねえ、撫でて」とおねだりをする。お兄さんは「えっ」とかちんと固まった。
「あっ、あごの下でもいいよ」
私が顔を早く早くと差し出すと、お兄さんはなぜか真っ赤になって、両手を振りながら後ずさった。
「い、い、い、いや、いけませんって! ダメですって!! 俺、まだ船長に殺されたくないっス!」
にゃにゃ? どうしたんだにゃ? 猫の姿の時には皆撫でてくれるのに。人間だと撫でちゃいけないんだろうか?
「……だめ?」
私がしゅんとしていると、お兄さんは「うっ」とその場に立ち尽くした。そこにヴォルフが「おい、お前、何やってるんだ!」と駆けつけてくる。
「げっ、船長」
お兄さんはぴんと背を伸ばすと、その場にかちんと固まって、「も、申し訳ございません」と謝った。
「ま、まだ何もしていないっス。指一本触れていないっス! ですからお許しをおおおお!!」
「俺が叱りつけたいのはお前じゃねえ! その女だ!!」
ヴォルフはわんわん吠える犬みたいに怒鳴った。「おい、お前なあ!」と寝っ転がる私を抱き起すと、「いいか!!」と肩を掴んで言い聞かせる。
「この船での営業はいっさい、いっさい禁止だ。わかったな!?」
「……えいぎょう?」
営業って宿屋をけいえいしたり、酒場でご飯を出したりすることだよね?
「私、営業なんてしていないよ?」
「~~~っっっ!!」
ヴォルフは頭を抱えていぶし銀の髪をかき回した。周りにいる皆がざわざわとしている。
「船長が……船長が振り回されているぞ」
「あんな船長初めて見たぞ」
私はなんだか申し訳なくなってしまって、「あ、あの、ごめんね」とヴォルフに謝った。
「私、撫でてもらうのが好きなの。だってクルトはいつも夜眠る前に、いっぱいマッサージしてくれるんだもん。私の気持ちがいいところを全部知っているの。あっ、クマ男はそんなクルトをゲボクって言ってた!」
「……あ、そ。お前がやってもらうほうか」
ヴォルフはがっくりと肩を落とすと、「このナリで女王様かよ……」とうなった。「いいか」ともう一度肩を掴む。
「二度と俺の部下を誘うんじゃねえ。そんなに撫でてほしいなら俺に言え!」
「……!!」
私はさっそく顎をぐいと差し出して、「撫でて♪」とヴォルフにねだった。
「ちょっとツメを立てて、カリカリってかいてほしいの!」
ヴォルフは「なんなんだよ……」と溜め息を吐いたけど、ちゃんと私が言ったとおりに顎を撫でてくれた。
「うーん、気持ちいいにゃー♪」
私が目を細めて喜んでいるのを見て、ヴォルフは「変な女……」と苦笑いをしていた。
私はその間すごくたいくつだった。だってやることが何もないんだもの。だから、船を探検することにしたんだ。
船には中にも外にもいろんなものがあった。一番面白かった場所はしょうろうという、マストのてっぺんにある見張り台だった。とっても高いところにあって、どこまでも続く海が見渡せて、空飛ぶ鳥に挨拶もできる。
けれどもすぐにヴォルフに、「危ないから上るな!」って怒られて、下りるしかなかったんだにゃあ……。
ウォルフはいつも私を追いかけて、「あれをやるな、これをやるな」とうるさかったけども、他の皆はとっても優しくて親切だった。
ご飯やお酒を食べたり飲んだりしているのを、羨ましくて見つめていると、「食べますかい?」「どうぞ一口……」とわけてくれる。甲板でのんびり日向ぼっこをしていると、「暑くはありゃせんか」と扇いでくれたり、お水を持ってきて飲ませてくれた。
その日の午後、私はだんだん気持ちよくなってきて、ごろんと寝転がってお腹を見せた。慌てて敷く布をくれたお兄さんに、「ねえねえ、撫でて」とおねだりをする。お兄さんは「えっ」とかちんと固まった。
「あっ、あごの下でもいいよ」
私が顔を早く早くと差し出すと、お兄さんはなぜか真っ赤になって、両手を振りながら後ずさった。
「い、い、い、いや、いけませんって! ダメですって!! 俺、まだ船長に殺されたくないっス!」
にゃにゃ? どうしたんだにゃ? 猫の姿の時には皆撫でてくれるのに。人間だと撫でちゃいけないんだろうか?
「……だめ?」
私がしゅんとしていると、お兄さんは「うっ」とその場に立ち尽くした。そこにヴォルフが「おい、お前、何やってるんだ!」と駆けつけてくる。
「げっ、船長」
お兄さんはぴんと背を伸ばすと、その場にかちんと固まって、「も、申し訳ございません」と謝った。
「ま、まだ何もしていないっス。指一本触れていないっス! ですからお許しをおおおお!!」
「俺が叱りつけたいのはお前じゃねえ! その女だ!!」
ヴォルフはわんわん吠える犬みたいに怒鳴った。「おい、お前なあ!」と寝っ転がる私を抱き起すと、「いいか!!」と肩を掴んで言い聞かせる。
「この船での営業はいっさい、いっさい禁止だ。わかったな!?」
「……えいぎょう?」
営業って宿屋をけいえいしたり、酒場でご飯を出したりすることだよね?
「私、営業なんてしていないよ?」
「~~~っっっ!!」
ヴォルフは頭を抱えていぶし銀の髪をかき回した。周りにいる皆がざわざわとしている。
「船長が……船長が振り回されているぞ」
「あんな船長初めて見たぞ」
私はなんだか申し訳なくなってしまって、「あ、あの、ごめんね」とヴォルフに謝った。
「私、撫でてもらうのが好きなの。だってクルトはいつも夜眠る前に、いっぱいマッサージしてくれるんだもん。私の気持ちがいいところを全部知っているの。あっ、クマ男はそんなクルトをゲボクって言ってた!」
「……あ、そ。お前がやってもらうほうか」
ヴォルフはがっくりと肩を落とすと、「このナリで女王様かよ……」とうなった。「いいか」ともう一度肩を掴む。
「二度と俺の部下を誘うんじゃねえ。そんなに撫でてほしいなら俺に言え!」
「……!!」
私はさっそく顎をぐいと差し出して、「撫でて♪」とヴォルフにねだった。
「ちょっとツメを立てて、カリカリってかいてほしいの!」
ヴォルフは「なんなんだよ……」と溜め息を吐いたけど、ちゃんと私が言ったとおりに顎を撫でてくれた。
「うーん、気持ちいいにゃー♪」
私が目を細めて喜んでいるのを見て、ヴォルフは「変な女……」と苦笑いをしていた。
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