魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-

東 万里央(あずま まりお)

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第二話「空と海と嘘とキス」

049.海賊ヴォルフガング(6)

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――それから船長は「……信じられねえ」とぶつぶつと呟きながらも、「約束は約束だ」とヴェンディスへ連れて行ってくれることになった。

 これから私を紹介するために、甲板に仲間を集めるんだって。私と船長は揺れる廊下を歩きながら、ないしょの打ち合わせをしていた。

「いいか。お前は俺の女ってことにしておくからな。じゃないとあいつらが十中八九手を出す」
「船長の女?」

 それってクルトの使い魔ってことと同じなのかな?

「わかったにゃ!」

 私は元気よく右手を上げた。

「ビアンカには俺から話しておくさ。ったく、変な借りができちまったな。しっかし、お前、娼婦より猫が向いているんじゃねえか?」
「だから、猫なんだよ!」
「あー、わかった、わかった」

 船長は大股で廊下を歩いていく。私は慌ててそのあとについて行った。「ねえねえ」と船長の顔をのぞき込む。

「船長はどうして海賊になったの?」

 船長は「そうだな」とすすけた天井を見あげた。

「ま、成り行きだな。親が死んで途方に暮れていたところを、この船のオヤジに拾われた」

 二年前にそのオヤジさんが亡くなって、ユイゴンで「お前が新しい船長だ」――そう言われて船長になったんだって。ほんとうはヴォルフガングという名前で、仲間からは「船長」か「ヴォルフ船長」、海軍からは「銀狼の海賊」と呼ばれているんだそうだ。

 ヴォルフガング――トゥリンジアごで、「旅する狼」という意味だ。私は「ねえねえ」と今度は船長の服を引っ張った。

「私もヴォルフって呼んでいい?」

 船長は舌を噛んじゃいそうで言いにくいんだもの。

 船長はちょっと戸惑った顔で「まあ、構わねえが」と答えた。私はなんだか嬉しくなって、「ヴォルフは私と同じだね」と笑う。

「同じ……?」
「私もお母さんが死んで、クルトに拾われたんだよ」

 ヴォルフの足が止まる。

「……クルト?」

 私はいっぱいの笑顔になって頷いた。けれどもすぐにしゅんとなってしまう。 五日間もお仕事なんて寂しいにゃ……。

 ヴォルフがちょっと大きな声で尋ねる。

「クルトって誰なんだ?」

 私は床に目を落としたまま答えた。

「私のご主人様なの。でも、私を置いて行っちゃったの……」
「……おいおい、ご主人様かよ」

 あっ、でも、クマ男はクルトは私のゲボクだって言っていたにゃ? クルトは私のご主人様と私のゲボクのいったいどっちなんだろう?

 私がそんなことを考えこんでいると、ヴォルフが腕を伸ばして私の頭を撫でた。

「俺が言うのもなんだが、そのご主人様ってのも、お前を娼館に売るなんざ、ロクでもねえ野郎だな」
「……にゃ?」

「お前も苦労したんだなあ」とため息を吐く。けれどもすぐに顔を上げて、「のわりには能天気だよな」と苦笑していた。
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