10 / 10
10.伝説の始まり
しおりを挟む
※子どもを殺す描写があります。地雷な方は閉じるようお願いします。
――何故こんなことになってしまったのだろう。
どれだけ考えても分からない。
私はかつてとある王国の魔術師だった。若くして映えある魔術師団長の地位を賜り、国家戦略の一環として日本人の召喚を行ってきた。日本人は異世界人の中でもこと勤勉で従順、更には勇者や聖女としての適性があったからだ。労働力、戦力としては最適な人材だったと言える。だった、とは既にそうとは言えないからだ。
あのかつての勇者であるキョウコゥ・トッパ……日本人の名前はどうもうまく発音できない……は魔王討伐後に魔物と日本人から成る軍を率い、瞬く間に私の祖国を、この世界を統一してしまった。
既に王侯貴族はこの世にはなく、魔術師団も魔物に壊滅させられている。王都にいた私の親族も同じ運命を辿っているのだろう。だが、私はまだ死ぬわけにはいかない。死んだ両親が唯一残してくれた私の宝、弟がこの村に匿われていると知ったからだ。転移魔法で命からがら王都から脱出して三ヶ月。乞食のような格好でようやくこの村に辿り着いた。
なのに何故だ。
私はその場に呆然と手と足をついた。
何故村が焼き払われている!?
惨憺たる悪夢のような光景だった。燃え盛る炎が人の腕のごとく激しくうねっている。煉獄より救いを求め差し出されたように見えた。炎の腕は村を懐に抱き瞬く間に燃やし尽くして行く。
「――あら、長髪。やっと来たの。一歩遅かったわね」
確かに聞き覚えのある澄んだ声に、私は息を呑んで振り返った。
禍々しくも美しい一人の女が立っている。一つに束ねられた艶やかな長い髪に闇の瞳、きめ細かな肌に鮮やかな朱の唇が艶めかしい。身に纏った鎧は返り血で染められ、さながら死と戦の女神のようにも見えた。片手には聖剣、もう片手には何やら丸いものを鷲掴みにしている。
「悪いけど、あなたの一族は根絶やしにさせてもらったわ」
勇者はぽいと「丸い何か」私の手もとに放り投げた。「丸い何か」はごろりと一回転し、その正体を虚ろな目を以て私に示す。私によく似た銀の髪に銀の瞳、未だにあどけなくいとけない顔立ち――。
「ひいいいぃぃぃ!! エリオ、エリオぉぉぉっっ!!!」
それは誰よりも愛しい弟の首だった。
勇者は顔色一つ変えずに淡々と告げる。
「まだ子どもだから可哀想だとも思ったけど、代わりに苦しませずに殺したわよ。強い魔力のある者は、その血を残す可能性のある者は一人も生かしておけないの。人間は弱く狡く痛みから逃げる生き物だから」
そのためならばいとも容易く他人を傷つける。将来また何らかの危機が起こった時、私達の子孫がまた日本人を召喚しないとも限らない。それでは問題を解決したとは言えない。二度と召喚などに頼ってはならないのだ。第一日本も少子高齢化と人口減少が課題だと言うのに――勇者の言葉はわけが分からなかった。
「ううっ……。うあぁっ……」
私は弟の首を抱き締め滂沱の涙を流す。
一体私達が何をしたと言うのか? これほどの罰を受けるまでの罪を犯した記憶はない!!
そう、ただ私達は――
「国に従っただけです……!!」
勇者はこともなげに「あらそう」と微笑んだ。
「あなたの罪は自分の頭で考えなかったことよ。いつかこうなることはいくらでも予測ができたでしょうに」
恨むのなら無能なおのれの頭、おのれの国を恨むがいい――そう冷たく告げ勇者は聖剣を振り上げた。
「私達は帰ることができないけど、これで二度と日本人が無茶な召喚をされることもない」
それが私が最後に聞いた言葉だった。
――数百年後のこの世界の歴史は語る。
かくして日本人、キョウコゥ・トッパにより政権交代はなった。キョウコゥ・トッパは国名をシンニホンと変え、国王をシュショウと改めその初代となった。以降は戦禍からの復興、内政に力を入れ、簒奪者にして稀代の名君と称えられるようになる。
キョウコゥ・トッパ――そんなわけでとにかくすごい女だった、と最後の一文に書き加えられているのだそうだ。
なお何故歴代のシュショウ就任の際には、ダルマなる人形に目を入れる習慣となったのか、果たしてどんな意味が込められているのかは、歴史学者の間でも未だに謎のままとなっている。
――何故こんなことになってしまったのだろう。
どれだけ考えても分からない。
私はかつてとある王国の魔術師だった。若くして映えある魔術師団長の地位を賜り、国家戦略の一環として日本人の召喚を行ってきた。日本人は異世界人の中でもこと勤勉で従順、更には勇者や聖女としての適性があったからだ。労働力、戦力としては最適な人材だったと言える。だった、とは既にそうとは言えないからだ。
あのかつての勇者であるキョウコゥ・トッパ……日本人の名前はどうもうまく発音できない……は魔王討伐後に魔物と日本人から成る軍を率い、瞬く間に私の祖国を、この世界を統一してしまった。
既に王侯貴族はこの世にはなく、魔術師団も魔物に壊滅させられている。王都にいた私の親族も同じ運命を辿っているのだろう。だが、私はまだ死ぬわけにはいかない。死んだ両親が唯一残してくれた私の宝、弟がこの村に匿われていると知ったからだ。転移魔法で命からがら王都から脱出して三ヶ月。乞食のような格好でようやくこの村に辿り着いた。
なのに何故だ。
私はその場に呆然と手と足をついた。
何故村が焼き払われている!?
惨憺たる悪夢のような光景だった。燃え盛る炎が人の腕のごとく激しくうねっている。煉獄より救いを求め差し出されたように見えた。炎の腕は村を懐に抱き瞬く間に燃やし尽くして行く。
「――あら、長髪。やっと来たの。一歩遅かったわね」
確かに聞き覚えのある澄んだ声に、私は息を呑んで振り返った。
禍々しくも美しい一人の女が立っている。一つに束ねられた艶やかな長い髪に闇の瞳、きめ細かな肌に鮮やかな朱の唇が艶めかしい。身に纏った鎧は返り血で染められ、さながら死と戦の女神のようにも見えた。片手には聖剣、もう片手には何やら丸いものを鷲掴みにしている。
「悪いけど、あなたの一族は根絶やしにさせてもらったわ」
勇者はぽいと「丸い何か」私の手もとに放り投げた。「丸い何か」はごろりと一回転し、その正体を虚ろな目を以て私に示す。私によく似た銀の髪に銀の瞳、未だにあどけなくいとけない顔立ち――。
「ひいいいぃぃぃ!! エリオ、エリオぉぉぉっっ!!!」
それは誰よりも愛しい弟の首だった。
勇者は顔色一つ変えずに淡々と告げる。
「まだ子どもだから可哀想だとも思ったけど、代わりに苦しませずに殺したわよ。強い魔力のある者は、その血を残す可能性のある者は一人も生かしておけないの。人間は弱く狡く痛みから逃げる生き物だから」
そのためならばいとも容易く他人を傷つける。将来また何らかの危機が起こった時、私達の子孫がまた日本人を召喚しないとも限らない。それでは問題を解決したとは言えない。二度と召喚などに頼ってはならないのだ。第一日本も少子高齢化と人口減少が課題だと言うのに――勇者の言葉はわけが分からなかった。
「ううっ……。うあぁっ……」
私は弟の首を抱き締め滂沱の涙を流す。
一体私達が何をしたと言うのか? これほどの罰を受けるまでの罪を犯した記憶はない!!
そう、ただ私達は――
「国に従っただけです……!!」
勇者はこともなげに「あらそう」と微笑んだ。
「あなたの罪は自分の頭で考えなかったことよ。いつかこうなることはいくらでも予測ができたでしょうに」
恨むのなら無能なおのれの頭、おのれの国を恨むがいい――そう冷たく告げ勇者は聖剣を振り上げた。
「私達は帰ることができないけど、これで二度と日本人が無茶な召喚をされることもない」
それが私が最後に聞いた言葉だった。
――数百年後のこの世界の歴史は語る。
かくして日本人、キョウコゥ・トッパにより政権交代はなった。キョウコゥ・トッパは国名をシンニホンと変え、国王をシュショウと改めその初代となった。以降は戦禍からの復興、内政に力を入れ、簒奪者にして稀代の名君と称えられるようになる。
キョウコゥ・トッパ――そんなわけでとにかくすごい女だった、と最後の一文に書き加えられているのだそうだ。
なお何故歴代のシュショウ就任の際には、ダルマなる人形に目を入れる習慣となったのか、果たしてどんな意味が込められているのかは、歴史学者の間でも未だに謎のままとなっている。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
88
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
『異世界召喚』とは『ただの誘拐』ではないか?という、最近の私的疑問に回答のひとつを与えてくれた作品でした。
面白かったです!
感想ありがとうございます(´▽`)
自分たちの都合だけ、家族仕事恋人を奪い命がけで働かせる…そんな異世界トリップものを数多読んでムキー!となって書きましたヽ(^。^)丿
ほんとただの誘拐ですよね。誘拐犯には天誅を!と思ったらこんな展開にw