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第一幕 断罪からの始まり

vs28 父の反対

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「リュミ、次の休みに王立歌劇団に行こうか」
そう言うと、マリミエドの顔がぱっと明るくなる。
「いいんですか⁈」
「ああ、父上には俺から言っておこう。初代皇帝だったかな?」
「ええ、パンフレットの初代皇帝のお顔がとても凛々しかったですわ!」
とても嬉しそうだ…こんな事なら、もっと連れ出してあげれば良かった。
〈いや、これから沢山連れ出してあげよう〉
何も誰にも遠慮はいらない。
本来は王太子がやる役目を、自分がやるだけなのだから。

 ギルベルトは早速パンフレットを購入させて、マリミエドは馬車の中で楽しそうにそれを見ていた。


「駄目だ」
晩餐の時にそれを話したら、父から反対される。
「父上、俺が連れて行くのですからいいではありませんか。誰かと行ってくだらない醜聞を流される事もありません。王太子の代わりに俺がエスコートを」
「お前がエスコートして何になるというのだ。お前は早く違う令嬢を見付けなさい」
「婚約者ならば、次のパーティーで探すと言った筈です! 何故、マリミエドが王立歌劇団に行くのが駄目なのですか?! ーーーまさか、陛下から止められているのですか⁉」
直感で分かった。
その日、王太子が観に行くから駄目なのだとーーー。
父は宰相として皇室の行方を案じているのだ、と。
「…ともかく、その日は教会のボランティアが優先だ。ギルベルト、お前もたまにはマリミエドと共に参加しなさい。貴族の義務を全うしろノブリス・オブリージュだ…いいな?」
父のその言葉でギルベルトは確信した。
王太子が未来の〝側室〟と出歩くから会わせないようにしているのだ、と…。
そんな父と兄の言い争いに、マリミエドが心配して言う。
「お兄様、わたくしならば構いません。教会の方が大事ですわ」
「リュミ、しかし…」
「お兄様…お父様を余り困らせないで下さい。妹達が怯えていますわ」
そう言われて見ると、まだ11歳と9歳の3女と4女が震えながら俯いていた。
「あ…済まない。…では、その日は教会に行って参りますが…その後ならば、歌劇団に行ってもいいですよね?」
ギルベルトが冷静に言うと、父はワインを飲んでから立ち上がる。
「好きにしなさい。ただし、羽目を外し過ぎぬように」
そう言って父は出ていく。
その後から母も立ち上がって幼い妹達を立たせた。
「さあ、寝る時間になりますよ。乳母達と部屋に戻りなさい」
そう言い母も立ち去ろうとしたので、ギルベルトが引き止める。
「母上、ちょっと待って下さい。たまにはリュミと話でもされては…」
「…ごめんなさい、ギルベルト。わたくし疲れているの」
そう言い母はすぐに出ていってしまう。
その場には、俯くマリミエドと二人きり残された。
〈…何かおかしい…〉
しんとした空気の中でギルベルトは思った。
あの優しい母上が、一言もマリミエドと話さずに出ていくなどと有り得ない。
一体、この家に何が起こっているのか…?
「…では、わたくしも…」
と、落ち込んだマリミエドまで立ち上がるのでギルベルトはすかさずその手首を掴む。
「リュミ、リュミ済まない…話し合えないか? 少しそこのバルコニーでお茶を飲もう? な?」
そう悲しげに言うと、マリミエドはコクリと頷いてくれた。


 すぐにバルコニーに紅茶を用意させて、エレナだけを残して人払いをする。
食事の席で、マリミエドは余り食べていなかったので軽食も用意させた。
マリミエドは明らかに落ち込んで俯いて座っている。
ギルベルトは眉を寄せて、その正面に座って言う。
「済まない、説得はすぐに出来ると思っていたんだ。その…次から行けるのだし」
「お兄様、わたくし…知っていますの」
言われてギルベルトはドキッとする。
マリミエドはゆっくりと紅茶を飲んでから喋る。
「…お父様は、殿下がマリアさんと王立歌劇団を見に行くから駄目だとおっしゃられたのですわ」
「何故それを…あ、まさか前にも…?」
そう聞くと、マリミエドはくすっと自嘲気味に笑って言う。
「それもありますが…昔からそうでしたの。王太子が街で何かなさる時は、いつもお父様はわたくしに〝教会でのボランティア〟をさせてきましたから。教会で平民達と共に祈りを捧げて、貧しい人達にパンや着る物を与える…。ずっと…5歳の時からずっとやってきた事です。慣れましたわ」
そう言い笑ったーーーつもりだった。
だが、マリミエドの目はどこも映さない死んだ魚のような目をしていた。
「リュミ………」

何か言ってあげたかったのに、何も言葉が出なかった。

慰めも、励ましも通じないと分かったからだ。
廊下を歩きながら、ギルベルトは思う。
〈俺は、リュミの何を見てきたのだろうか…?〉
ずっとマリミエドを見てきた筈なのに、マリミエドの置かれた環境も何も判っていない。
昔から両親はあんな接し方だったか…?
マリミエドは一人でこんな広い屋敷の中で、王妃教育を受けていたのかーーー?
 そう思うと切なくなった。
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