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第四幕 νήμα(ニーマ) 紡ぐ

νήμα04 女神の声

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 翌日。
ギルベルト猊下はコサージュを2つに分けた。
「これで良し。では謁見に行こうか、ルギオス卿?」
そう言うとルド・ルギオスがため息を吐く。
「何故人間の姿で…」
「ブツブツ言わない。ちゃんとしないと、この体で暮らすからな」
「分かった!」
ルド・ルギオスがマリミエドと共に馬車に乗り、ギルベルト猊下が馬で王宮へ向かった。

 実は前日の夢で、全員が会議を開いたのだ。
王宮で呼ばれた日に何をするかをーーー。

魔界に送られた人間をギルベルトが救ってきたとして、王宮がギルベルトを招いたのだ。
それと同時に、善行を行う魔族としてルド・ルギオスも呼ばれていた。

 王宮に来ると、3人は一礼して謁見の間に進む。
そして、ギルベルト猊下が言う。
「今日は、このルド・ルギオスめより皇帝陛下と、結婚なされる王太子殿下に贈り物がございます」
「何だ」と皇帝陛下。
「こちらの〝世界樹のコサージュ〟を…その御胸に着けさせては頂けませぬか?」
「世界樹の! しかし…」
「我々がお渡し致します」
そう言いルド・ルギオスとマリミエドが世界樹のコサージュを手にして前に出る。
ルド・ルギオスが皇帝の手に、マリミエドが王太子の手に、それぞれに針を少しだけ刺す。
「っ………な、んだ…?」
皇帝の目に生気が戻る。
「ん…?」
王太子も周りを見た。
すると皇后が言う。
「大変素晴らしい品をありがとう。…けれど、魔物に代わりは無いわ…早々に出て行くように」
「はっ、大変失礼を…」
そう言いギルベルト猊下は深く一礼して出口に歩く。
 その時、朝の祈りの鐘の音が響いて声がした。

『私はリュミエリーナです。愛する人間達よ…どうか聞いて』

「リュミエリーナ…女神…⁉」
皇帝が声を上げる。

『魔物を追いやったのは我々人間なの。どうか無差別に殺すのはやめて! 悪しき魔物は、今、浄化するわ!』

その声と共に、神殿の裏に待機していたユークレースが両手をかかげる。
聖なる清浄化セイン・フェブリュース!』
全力の浄化を行った。
光は女神像から溢れて、世界中へと広がる。
瘴気が消え、邪悪なる魔物のみが消されていく…。
「くっ…!」
光が水平線の彼方に消えていくと同時にユークレースが力尽きて倒れ、それをベルンハルトが支えて運んだ。

『…これで、悪しき魔物は消えました! もう魔物に襲われる事は無いのです!』

世界がザワめいている。

『今居る魔物は、良い魔物なのだと、どうか理解して欲しいの! シャルルが作った世界を取り戻して!』

女神がそう言うと、世界各地で花びらが舞い幻覚が見える。
「お母さん、花が咲いてるよー」
「ふふ、慌てないの」
そう言って笑いながら走るコボルトの親子。
「ママ、今日の夕ご飯は?」
「あなたの好きなプディングよ」
そう言って手を繋いて歩くハーピーの親子。
「今日はリンゴが安いよー」
そう言い露店で売るトロール。
「あなた、もうお酒は程々になさって」
「分かっとる!」
そう言い合う貴族風なオウルベアなどなど…。

花びらが消えると幻影も消える。
『良い魔物もいるのだと、どうか知って欲しい…!』

「ルド・ルギオス様は助けて下さったわ!」
クリフォードと共に街に来ていた助けられた少女が声を上げる。
「そうよ、ルド・ルギオス様は紳士だったわ!」
レアノルドが連れてきていた、助けられた少女も叫ぶ。
新聞では一面で取り上げたばかりの事だ。
ルド・ルギオス、ルド・ルギオスという民衆達の声が、王宮に迫った。
王宮にルド・ルギオスが入るのを目撃したからだ。
街に居た貴族達もアーダルベルト辺境伯達を見て参加した。

すると皇后が咳払いをして言う。
「待ちなさいルド・ルギオス。共にバルコニーへ出て、手を振るといいわ…にこやかに」
ギルベルト猊下は笑って振り向いて言う。
「しかしながら、わたくしめは魔物故に…」
そう言う間にも、民衆の声はどんどん大きくなっている。
民衆達が王宮を取り囲んでいた。
「ルド・ルギオス様を殺させるなー!」
「ルド・ルギオス様を守れー!」
そんな声まで出ていて王宮騎士では制御不能だった。
「…ルド・ルギオス…どうか」
皇后が立ち上がり、一礼して言った。
ついに重い腰を上げさせられたのだ!
ギルベルト猊下はボウ&スクレープをする。
「そう仰る皇后陛下に、敬意を払って」
そう言い、歩いて皇帝、皇后、王太子と共にバルコニーへ出て手を振った。
「ルド・ルギオス様ー!」
すぐそこまで押し寄せていた民衆達が熱狂して手を振る。
「そなた達も」
皇帝が言い、メイナード兄妹を呼び寄せて、2人も頷いてバルコニーへ出て手を振った。
「ギルベルト様バンザーイ!」
助けられた人間達が熱狂的に言う。
「にこやかに」
ひそっとマリミエドがルド・ルギオスに言う。
〈くっ、なんだこのむず痒さは!〉
そう思いながら、ルド・ルギオスも笑って手を振った。

 民衆が去る気配が無いので、皇帝は思わずメイナード兄妹を見た。
するとルド・ルギオスがそっと皇帝に耳打ちする。
「これよりは、魔物との盟約を復活させる、と言わないと危険かと存じます。…陛下ご自身、などと…疑われぬ為にも」
そう言うと、皇帝はギクッとして頷いた。
皇帝自身も、魔物と通じていたのだから。
「これよりは、魔物を討ち滅ぼすのではなく、良き友となるように盟約を進めていくと誓おう!」
そう皇帝が言うと、ワーッと歓声が上がる。
「皇帝陛下バンザーイ!」
「皇帝陛下バンザーイ!」
しばらくはそれが続いた。
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