聖騎士の盾

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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囚われの騎士

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「……」
 あいつが、あの男が、まさかそんな。
 だが、声は確かに中から聞こえてくる。
 レオンは唇をキリと結び、歩哨の横を追い越して天幕の入口をバサリと開けた。
 そして――目に飛び込んできたのは。
 藁を敷いた簡易な寝台の上で、獣のように淫猥に蠢く二つの影。
 熱気と、中で灯った蝋燭の炎に照らされて輝く、長い見事な銀色の髪。
 それは一方に覆い被さる、黒いマントを纏った悪魔的な美貌の女性のものだった。
 白い顔をすっと上げた女は、こちらを見て大胆不敵に微笑む。
 その下で逞しい両脚を開いている、短く刈り込んだ金髪の親友は、全裸を見られているというのにこちらに気付きもしない。
「……!?」
 一瞬の後、女と思ったのは頭に怪異な角を生やした男性だと気付いた。
 体躯がレオンよりも大きく、また彼の体を包む黒いマントの間から凶悪な大きさのペニスがちらちらと見え、それが親友の尻を深々と貫いている。
 ――女のものと思っていた甲高い声は、股の間を犯されているアレクスの物だった。
「っあ……っ!!」
 レオンは心底驚き、腰が抜けそうになる程動揺した。
 だが、気力でその場に踏みとどまって剣を抜く。
「こ……の悪魔……!! その男から離れろ!」
 従士は腰が抜けてしまったのか、その場にへたり込んでしまっている。
「悪魔……、エルカーズの悪魔だ……」
 悪魔と呼ばれた男は、気分を害したように眉を顰めると、自分が犯している騎士の中からずるりと男性器を抜いた。
「……ァあぁっ……抜かないでくれ……、……欲しい……もっと……中に」
 アレクスはレオン達の姿が全く見えていないのか、整った顔立ちを涙でぐしゃぐしゃにして、脚を広げたままヒクヒクと身体を震わせている。
「――全く空気の読めねぇ奴らだ。本人はああ言ってるのに」
 嘲笑いながら、異形の男が寝台を降り、マントの下で、黒い襟高の軍服のように見える衣服を整えた。
「アレクスから離れろ!」
 剣を持ったままにじり寄るレオンを、男の血色の瞳がじっと見据える。
「……お前……」
 悪魔の表情からふっと笑みが消えた。
 長い銀髪を揺らめかせながら、悪魔が振り返る。
 その逞しい腕が、ぼんやりとしている全裸の騎士の腕を掴み、黒いマントの中に隠すようにしてその身体を軽々と抱き上げた。
「この男は貰って行く。――返してほしかったら、ここから二里、北東にある城にお前が一人で来い……レオン・アーベル」
 何故か男に名で呼ばれ、レオンは驚愕した。
「なぜ俺の名を知っている……!?」
 問いに答えることなく、黒い炎が天幕を焼き尽くす勢いで巻き上がり、悪魔と親友はもろともに姿を消した。


 友を助けに行くと言うレオンに、従士は当然のごとく反対した。
「エルカーズの罠です。北東に二里と言えば、すでに奴らの領地ですよ。大体、アレクス様はもう誘惑に負けて破倫している。助けに行く理由などありません」
「いや……俺には行かなくてはならない理由がある……」
 夜明け前の空の下、レオンは馬に鞍を載せながら首を振った。
 ――つい数日前。
 本陣での作戦会議の後で、アレクスと2人きりになったことがあった。
 その時、彼は自分に愛を告白したのだ。
 ……気持ちをずっと墓場まで持っていくつもりだったが、戦場で死ぬ前に言いたい、ずっと前からお前を愛している、と。
 レオンは自らの信条に従い、当然の如くその場で彼の言葉を拒絶した。
 ――お前、何を言っているのか分かっているのか? 俺たち二人は神に仕える騎士だ。
 男同士で情を交わし、交わるなどということは恐ろしい罪になるのだぞ。
 もう二度とそんなことは言ってくれるな。
 俺はお前を罰したくはない――。
 たしなめた自分を、彼は深く傷ついた表情で受け入れた。
 ――分かった、悪かった。もう二度とこんな罪深いことは口にしない。こんな気持ちが存在したことさえ忘れよう……。
 そう言った。
 騎士としての高潔さを何よりも優先し、彼の心を完膚なきまでに打ち砕いたのは自分だ。アレクスがその隙を悪魔に襲われたのだとしたら……それは自分の責任かもしれない。
 レオンは聖騎士団の白銀色の鎧を身に着けると、止める従士を押し切る形で、1人馬を駆って陣営を抜けた。
 悪魔は城が北東にあると言っていたが、地図にはそのような印はない。
 老いた修道士に聞いたところでは、昔は確かにそこに城があったが、半世紀前に焼き尽くされ今は廃墟のみのはずということだった。
 しかし、その場所しか手掛かりはない。
 冷たく乾燥した風に耐えながら荒地を進み続けると、数刻でそれらしき影が地平線の向こうに見え始めた。
 岩をそのまま削って土台とし、空を切り取るように複数の尖塔が立った、黒々とした古城。建築様式は粗削りで、ひと昔前のもののように見える。
「……エルカーズの古城か……」
 敵陣を調べさせた時の斥候の報告にも無かったが、城は確かに目の前に存在していた。
 正門と思われる場所に近づくため、坂になっている岩の道を駆け上がっていく。
 やがて道はどんどん狭くなり、落とし格子の門が目の前に現れた。
 馬を降り、格子の向こうを覗くが、見張りも誰もいない。
「謀られたか……」
 眉を顰め、他の入り口を探そうと馬の手綱を引き寄せた瞬間、錆びた鉄を擦るような鈍い音が響き、ひとりでに落とし格子が上がった。
「面妖な……」
 どういう仕組みなのか全く分からない。
 馬を引きながら慎重に中へ入ろうとした瞬間、ミシっと天井に上がった格子が音を立てた。
「! ……何っ……!?」
 レオンは馬を飛び降り、前のめりに転がりながら城の中へ入った。
 馬が大きな嘶きを上げて前脚を跳ね上げ、身体を捩る。
 両者の間に、ズンと音を立てて鉄格子が突き立った。
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