聖騎士の盾

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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悪魔と騎士

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「――……お前は、もう2度と来ないと……思ってた……っ」
「まあ、そのつもりだったが、そんな切ない声で呼ばれたら流石にな」
「呼んでない……!」
「今更意地張るか」
呆れたように言われて、レオンはかっと頬を赤くしながら話題を変えた。
「そんなことより、教えてくれ……っ。エルカーズは一体、どうなっているんだ……。ロキで襲ってきた兵士に怪物がいた……」
 カインがレオンの汗ばんだ黒髪を梳くように指を通し、青白い瞼を伏せた。
「――エルカーズ人は俺たちのような存在を呼び出しはしたが……」
 思い出すように赤い瞳が細まり、薄い唇が言葉を紡ぐ。
「俺も他の神も、奴らのつまらねえ望みを叶えてやる気はさらさらなかったから、エルカーズ人達は随分落胆していた。俺たちは別に、奴らの奴隷じゃねえからな」
 その言葉には素直に頷けた。
 カインはエルカーズ人にとっては敵である、聖騎士のアレクスや自分にも接近し、形はどうあれ助力さえしている。
 エルカーズの一方的な味方という訳ではないことは、何となく察しがついた。
 悪魔が言葉を続ける。
「だが、王と王都の神官達は諦めなかった。召喚するだけじゃ思い通りにいかねえなら、神の力を自分の物にする方の秘術を実行したわけだ」
「神の力を自分の物に……?」
「主神バアルを、王の体の中に取り込み、その力を思うがままに操る秘術だ。そんな所業を成し遂げたエルカーズの王は今や、神と一体となったって訳だ。まあ、当初の奴らの思い通りかどうかは知らねえけどな」
 どこか投げやりな調子で溜息をつき、カインの指がレオンの顎を辿り、少し厚めの下唇をなぞるように愛撫した。
「お、お前の父親なんだろう……!? 取り込まれたって……それでいいのか」
 悪戯をする指を手で掴んで止め、聞き返す。
「いいも何も、お前ら人間が欲望に走った結果だろ。あいつらは魚だのカエルだの、丈夫で役に立つ兵士を量産して、世界征服でもなんでも好きにすりゃあいい。別に父上がどうなろうが、俺には関係ねえし」
 冷たく言い放ったカインに、レオンは激高した。
「化け物に姿を変えられた人間達はどうなるんだ!? ……どうすれば、もとに戻せる……!!」
 ベッドを軋ませて体を横転させ、レオンはカインの胸倉を掴んだ。
「……もとに戻せる術は死のみ、だろうな。あれは単に、王に都合のいいように姿を変えられただけの奴らだ。まあ、長いこと経つと中身も人間じゃなくなって、扱いづらくなるだろうが」
 冷静な返答にレオンは絶句した。
 ジーモン神父に託された希望が、こんなにあっさりと潰えてしまうとは。
「そ……んな……」
 深い絶望に襲われ、レオンは身を震わせた。
 カインが片眉を上げ、呆れたように続ける。
「そんな落ち込むようなことかよ。――そうだ、まあ、全く方法がない訳じゃない。王の首を跳ねて、父上を人間の体から開放するっていう手もある」
 ハッとしてレオンは目を輝かせた。
「そうすれば、魔法は解けるのか……!?」
「可能性はある。けど無理だな。神の力を持った人間を倒せると思うか? お前みたいな、人よりちょっと寿命が長くて傷がつかないだけのタダの人間に」
「……っ」
 それを言われてしまえば辛いものがあった。
 自分一人では大局がどうにもならないことは、ロキの町の戦闘で嫌という程知った所だ。
 レオンは自分の無力さを噛みしめ、押し黙った。
 その張り詰めた表情に、カインがお構いなしに覆いかぶさり、唇を近づけて来る。
 口づけられる寸前に、レオンは顔を上げ、一か八かで彼に問いかけた。
「……。お前に協力してもらうことは、できないのか」
 カインのルビー色の瞳をまっすぐにじっと目を見つめる。
「はあ? 何で俺がそんな面倒なことを。ごめんだね」
 美しい形をした唇が嘲笑する。予想通りの返答に胸が痛んだが、怯むことなく言い返した。
「人が大勢死んでいるのにか」
「元からお前らは戦争して散々殺しあってたじゃねえか。今と何が違う? 誰が死のうと俺には関係ねえよ」
 冷徹に言い放たれ、馬鹿なことを口にしたと後悔した。
 やはりこの男は悪魔だ。
 独特の価値観を持つ、冷たい悪魔――。
 レオンは諦め、カインの軍服を掴んでいた両手を離した。
「分かった。聞きたいことはみんな聞いた……。もう、こんな場所に居る理由もないだろう。帰ってくれ」
 沈んだ声でそう言って、顔を背けるようにして寝返る。
 だが、背後で悪魔は消え失せなかった。
「帰ってくれだ? お前のここはそうは言ってない」
 大きな手が背後から周り、ぎゅっと股間を掴まれて、ヒッと声が漏れる。
「……っ、何、する……っ、あ……っ」
 下着越しにそこをやわやわと揉みしだかれながら、耳元に囁かれる。
「……何でおっ勃ってんだよ。さっきから真面目な話ししてんのに、ずっと硬くしてたろ。スケべな奴」
 露骨な指摘に、羞恥の余りレオンは耳まで赤くなった。
 同時に、そうして軽く触れられただけで暴発寸前まで高まってしまう自分に心底嫌気がさす。
「お前が触るからだろうが……っ!」
「触るって。背中とか髪とか、単なるスキンシップだろ。お前、ちゃんと抜かねえからそんな感じ過ぎんだよ」
 まるで自分のせいのように言われ、涙ぐむほど恥辱が極まり、レオンは上半身を捻って相手に言い返した。
「ち、違う……! 前は別にこんな体じゃなかった……! お前があんな事教えるから、我慢が出来ないようにっ、なったんだ……っ」
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