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貴公子と騎士
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何を言われているのか察した途端、頬がカッと熱くなり、胸の鼓動が激しくなる。
「恋人同士」と言われても、何しろ今朝からのことだ。
まだ全く心の準備というものが出来ていないが、もしも今夜オスカーに抱かれたら自分はどうなるのだろう――。
遠い記憶の中で、カインが言っていたことを思い出す。
……『心から好きになった人間が同じくらいお前のことを好きになり、そいつとセックスした時』、彼の助力は終わる……。
その時自分はカインの軛(くびき)から解き放たれ、元の自分に戻るのだ。
だが果たして、本当に戻ることが出来るのだろうか?
もしかしたら一気に百歳の老人になったりして、オスカーを失望させてしまうかもしれない。
でも、もしこのままの姿で普通の人間になれるなら、この先彼と同じ時を生きていける望みもある。
本当の所をもう一度カインに聞きたいが、今はとても聞ける状況ではなかった。
全く――カインはどうしているのだろう。
……あの悪魔は、自分に恋人ができたことをどう思うだろう?
そう考えると、不思議な罪悪感で胸がズキズキとしてきた。
彼は怒るだろうか?
自分に親しい相手が出来そうな時、自分の体に触れようとする者が居た時、彼は必ず怒って傍に現れた。
けれど今は何故か、影も形も現れない。
もう、レオンのことなどどうでもよくなってしまったのだろうか?
そうなのかもしれない――彼は恋人という訳ではないのだから。
相手にとっての自分も同じだ。
だからこそ、『終わりにしたかったら、他の人間を適当に探してどうにかしろ』と言って、最初から自分を突き放したではないか……。
(カインの言う通りにしただけだ……だから、いいんだ)
何に言い訳しているのかよく分からないまま自分の心に繰り返し、レオンは黙って立ち上がった。
オスカーの作ってくれた寝床へと足を運び、半身を起こして待っていた彼のすぐ隣に腰を下ろす。
緊張で胸から心臓が飛び出してしまいそうだった。
カインに強引に犯されたことは何度もあっても、人間と仲睦まじく肌を触れ合わせたことは一度もない。
鼓動を隠すように俯き体を固くしていると、オスカーの温かい手が首筋に触れた。
「あっ……」
動揺の余り声が出る。
「こんな所まで赤くなってる」
からかうように言われ、その手の平がするりと首筋を滑り、肩を抱き寄せてきた。
すぐ背後にいたオスカーの胸に密着する形になり、茉莉花の香りが香って、益々何も考えられない程胸が高鳴る。
「オスカー……」
不安と興奮で潤む瞳を彼に向けると、開いていた唇に口づけが降ってきた。
優しく舌を絡められ、その熱とぬめりに、普段は絵画の大天使のようにも見える彼が、熱く生々しい肉体を持つ一人の男だという事を深く感じる。
そのことが、またレオンの体を恥ずかしい程高揚させ、性器が甘く痺れるように疼いた。
「……ん……っ、ぅ……!」
口づけが深くなるにつれ、オスカーは少しずつ紳士の態度を剥ぎ落し、激しく貪るような動きを加えてくる。
毛布の上にどっと押し倒され、口蓋の奥深くまで厚みのある舌をねじ込まれて、喉や歯列の奥を味わうように犯され、レオンが息も絶え絶えになると、今度は唇の表面を擽るように擦って煽る。
そのキスをどこかで知っているような気がする――。
よく分からない心の痛みがまた、ズキズキと胸に走った。
「オス、カーっ……」
無意識に胸を押して唇を離すと、相手はハッとしたように表情を曇らせ、不安そうに訊いた。
「嫌だったか」
大きく首を振り、自分からも両腕を伸ばして体を強く密着させる。
乱れた深緑色の毛布の上で脚を絡め、レオンからも彼の唇を求め始めた。
舌を淫らに擦り合わせ、欲しがるように先を吸って、自分の中を犯すように仕向ける。
密着した太腿に、熱い相手の雄が当たり、レオンは震えた。
――本当に、感じてくれている。
自分に恋していると言ってくれたのが嘘ではないことを感じ、強い喜悦が全身を支配した。
このまま彼の物になり、何が起こっても後悔はしない……。
そんな気持ちが自然と湧きあがり、熱っぽい涙が頬を濡らす。
「……泣いているのか」
唇で涙を吸われ、髪を優しく撫でられた。
「泣いているお前も、可愛くて堪らないが」
こめかみや頬に何度も啄むようなキスをされて、疼くような幸福感に胸がいっぱいになる。
「微笑んでくれ……お前の笑っている顔が一番好きだ。……私の愛しいレオン……」
そう言われて、潤んだ瞳のまま彼に微笑んだ。
「生きていて、初めて幸せだから泣いている……だから、気にするな」
そう言うと、酷く切ない顔をされてしまった。
――呆れられたのだろうか。
少し不安になりながら、懐くようにオスカーの首筋に額を寄せる。
オスカーの唇が耳元に寄せられ、囁かれた。
「もっと溢れるくらい、お前を幸せにしたい……」
ふわふわとした高揚の中で優しくチュニカの裾が捲り上げられていく。
薄紅色に色づいている胸の突起にも口づけられて、ビクっと身体が跳ねた。
オスカーの熱い舌がそこを舐め上げ、厚みのある唇にきつく痛い程吸われて、淫らな声が喉から溢れる。
「っぁあ……!」
それは彼の舌を押し返す程固くピンと勃っていて、いかにも愛撫されたがって待ち焦がれていたかのようで、無性に恥ずかしかった。
――こんなに感じやすいのは、カインがいつも執拗にここに触れるからだ。
それを、オスカーにおかしいと思われたらどうしよう?
他にも、どこかにおかしい場所があったら――。
心では不安が止まらないのに、体の方はお構いなしに欲望に向かいエスカレートしていく。
胸や腹にも慈雨のように優しいキスを落とされ、レオンが焦れてもじもじと腰を揺らす程になった頃、
「――見てもいいか?」
囁きと共に、先走りで濡れ、天幕を張るように中が屹立している下着に手を掛けられた。
「恋人同士」と言われても、何しろ今朝からのことだ。
まだ全く心の準備というものが出来ていないが、もしも今夜オスカーに抱かれたら自分はどうなるのだろう――。
遠い記憶の中で、カインが言っていたことを思い出す。
……『心から好きになった人間が同じくらいお前のことを好きになり、そいつとセックスした時』、彼の助力は終わる……。
その時自分はカインの軛(くびき)から解き放たれ、元の自分に戻るのだ。
だが果たして、本当に戻ることが出来るのだろうか?
もしかしたら一気に百歳の老人になったりして、オスカーを失望させてしまうかもしれない。
でも、もしこのままの姿で普通の人間になれるなら、この先彼と同じ時を生きていける望みもある。
本当の所をもう一度カインに聞きたいが、今はとても聞ける状況ではなかった。
全く――カインはどうしているのだろう。
……あの悪魔は、自分に恋人ができたことをどう思うだろう?
そう考えると、不思議な罪悪感で胸がズキズキとしてきた。
彼は怒るだろうか?
自分に親しい相手が出来そうな時、自分の体に触れようとする者が居た時、彼は必ず怒って傍に現れた。
けれど今は何故か、影も形も現れない。
もう、レオンのことなどどうでもよくなってしまったのだろうか?
そうなのかもしれない――彼は恋人という訳ではないのだから。
相手にとっての自分も同じだ。
だからこそ、『終わりにしたかったら、他の人間を適当に探してどうにかしろ』と言って、最初から自分を突き放したではないか……。
(カインの言う通りにしただけだ……だから、いいんだ)
何に言い訳しているのかよく分からないまま自分の心に繰り返し、レオンは黙って立ち上がった。
オスカーの作ってくれた寝床へと足を運び、半身を起こして待っていた彼のすぐ隣に腰を下ろす。
緊張で胸から心臓が飛び出してしまいそうだった。
カインに強引に犯されたことは何度もあっても、人間と仲睦まじく肌を触れ合わせたことは一度もない。
鼓動を隠すように俯き体を固くしていると、オスカーの温かい手が首筋に触れた。
「あっ……」
動揺の余り声が出る。
「こんな所まで赤くなってる」
からかうように言われ、その手の平がするりと首筋を滑り、肩を抱き寄せてきた。
すぐ背後にいたオスカーの胸に密着する形になり、茉莉花の香りが香って、益々何も考えられない程胸が高鳴る。
「オスカー……」
不安と興奮で潤む瞳を彼に向けると、開いていた唇に口づけが降ってきた。
優しく舌を絡められ、その熱とぬめりに、普段は絵画の大天使のようにも見える彼が、熱く生々しい肉体を持つ一人の男だという事を深く感じる。
そのことが、またレオンの体を恥ずかしい程高揚させ、性器が甘く痺れるように疼いた。
「……ん……っ、ぅ……!」
口づけが深くなるにつれ、オスカーは少しずつ紳士の態度を剥ぎ落し、激しく貪るような動きを加えてくる。
毛布の上にどっと押し倒され、口蓋の奥深くまで厚みのある舌をねじ込まれて、喉や歯列の奥を味わうように犯され、レオンが息も絶え絶えになると、今度は唇の表面を擽るように擦って煽る。
そのキスをどこかで知っているような気がする――。
よく分からない心の痛みがまた、ズキズキと胸に走った。
「オス、カーっ……」
無意識に胸を押して唇を離すと、相手はハッとしたように表情を曇らせ、不安そうに訊いた。
「嫌だったか」
大きく首を振り、自分からも両腕を伸ばして体を強く密着させる。
乱れた深緑色の毛布の上で脚を絡め、レオンからも彼の唇を求め始めた。
舌を淫らに擦り合わせ、欲しがるように先を吸って、自分の中を犯すように仕向ける。
密着した太腿に、熱い相手の雄が当たり、レオンは震えた。
――本当に、感じてくれている。
自分に恋していると言ってくれたのが嘘ではないことを感じ、強い喜悦が全身を支配した。
このまま彼の物になり、何が起こっても後悔はしない……。
そんな気持ちが自然と湧きあがり、熱っぽい涙が頬を濡らす。
「……泣いているのか」
唇で涙を吸われ、髪を優しく撫でられた。
「泣いているお前も、可愛くて堪らないが」
こめかみや頬に何度も啄むようなキスをされて、疼くような幸福感に胸がいっぱいになる。
「微笑んでくれ……お前の笑っている顔が一番好きだ。……私の愛しいレオン……」
そう言われて、潤んだ瞳のまま彼に微笑んだ。
「生きていて、初めて幸せだから泣いている……だから、気にするな」
そう言うと、酷く切ない顔をされてしまった。
――呆れられたのだろうか。
少し不安になりながら、懐くようにオスカーの首筋に額を寄せる。
オスカーの唇が耳元に寄せられ、囁かれた。
「もっと溢れるくらい、お前を幸せにしたい……」
ふわふわとした高揚の中で優しくチュニカの裾が捲り上げられていく。
薄紅色に色づいている胸の突起にも口づけられて、ビクっと身体が跳ねた。
オスカーの熱い舌がそこを舐め上げ、厚みのある唇にきつく痛い程吸われて、淫らな声が喉から溢れる。
「っぁあ……!」
それは彼の舌を押し返す程固くピンと勃っていて、いかにも愛撫されたがって待ち焦がれていたかのようで、無性に恥ずかしかった。
――こんなに感じやすいのは、カインがいつも執拗にここに触れるからだ。
それを、オスカーにおかしいと思われたらどうしよう?
他にも、どこかにおかしい場所があったら――。
心では不安が止まらないのに、体の方はお構いなしに欲望に向かいエスカレートしていく。
胸や腹にも慈雨のように優しいキスを落とされ、レオンが焦れてもじもじと腰を揺らす程になった頃、
「――見てもいいか?」
囁きと共に、先走りで濡れ、天幕を張るように中が屹立している下着に手を掛けられた。
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