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神と騎士
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レオンの足首に白い触手が巻き付き、千切れるかと思うような凄まじい力がそこに加わる。
「うわあぁッ!」
否応なく体が激しく床に引き倒され、レオンはうつ伏せのままズルズルと玉座の方へと引っ張られ始めた。
「レオン……!」
カインがこちらへ助けに来ようとするが、彼を次々と襲う悪魔の腕のせいで阻まれる。
レオンの腕や首にもヌルリとした感触の触手が巻き付き、天井に向かって体を高く持ち上げられた。
王の細い体を覆っていた布がバリ、と音を立てて開き、中から大きな針を先端に備えた、赤い舌のような濡れそぼった臓器が現れる。
「――騎士には美しく力強い獣として、とこしえの命を与えてやろう。神は我が一部となり、共にエルカーズの為に尽くすがよい……」
濡れた舌がレオンの頬を舐めまわし、先端の大きな針で唇へと入ってこようとする。
「くぅうっ……」
顔を背けて避けていると、突然、ばさりと何かが羽ばたくような音がした。
片目を開けて足元を見れば、そこには銀色の長い髪を翻し、黒いローブを風に煽らせた、本来の姿となったカインが立っている。
そのローブがみるみる鳥の羽のような白い翼に変化して左右に伸びてゆき、触手の包囲網を逃れるようにレオンの元へと飛び立った。
白い羽毛を散らしながら飛ぶ彼の剣が王の魔手を断ち切り、レオンを両腕で包み込むようにして、その体を不快な臓器から引き剥がしてゆく。
その姿を、神としか言いようがない――とレオンは感じた。
幼い頃に夢見た、慈愛に満ち溢れた表情で、自分を救い抱く大天使の姿。
出会った頃からオスカーに感じてきた、神々しいものへの憧れのような気持が、一体どこから来たのかやっと分かったような気がした。
カインがレオンを抱いたまま少し離れた場所にふわりと降り立ち、驚いたようにルビーの瞳を見張る。
「傷が……」
カインの視線の先にわずかな痛みが感じられ、濡れたものがこめかみを伝うのが分かった。
触手に引き倒された時に、床にぶつけて額を切ったらしい。
「お前、俺の守りが切れてんのか……なんで……『オスカー』としてお前を抱いたことは、一度もなかったのに――」
カインが動揺して慄いた。
抱かれながらレオンが彼に話しかけようとした瞬間、その肩口の向こうで干からびた王が笑う。
「カイン、危ない、王が――」
言いかけたその瞬間、王の触手が再び二人を襲った。
「っ……、逃げろ、カイン……、カイン……??」
「レオン……」
カインは何故か動かず、レオンの体をかばうように大きな翼の中に掻き抱いて守る。
その無防備な背中を、今しがたレオンを狙っていたあの赤い臓器が襲った。
――もう既に、避ける暇も逃げる暇も無かった。
剣がガランと音を立てて床に落ち、青い血に染まった白い羽が、ひび割れた床に飛び散る。
カインの黒い軍服に大きな穴が開き、大量の血液がその胸の中央からドクドクと噴き出す。
そのまま彼の腕の中のレオンまでも襲おうとするその先端を、カインの白い尾が巻き付いてどうにか止め、そしてギリギリと締め付けた。
「――かっ……カイ……ン……っ」
顔面蒼白になったレオンの頬に、青い返り血が大量に飛ぶ。
「ヒャハハハハ……ついに最後の神を手に入れたぞ……これで私は……かつてのように、完璧な王になる――」
ドクッドクッと脈打つようにカインを貫く赤い臓器が蠢き、何かを吸っている。
カインの青白い顔から表情が消えてゆき、その体から力が抜け、足元から崩れるようにレオンの方へ倒れかかる。
自分がかつて彼を剣で刺した時は、こんなことになったりはしなかったのに。
翼を飛び散らせて床に倒れ伏し、カインの苦しそうに歪んだ顔が、視界に溢れる涙に滲んでいく。
「カイン……しっかりしろ……!!」
床に跪いて何度も名前を呼び、貫かれたままの彼の体に縋る。
だがカインは苦し気な表情の中でも、ニヤと不敵な笑みを浮かべた。
「レオン……これが、こいつの魔に染まり切った神の力の本体だ……このまま引きずりだすぞ……!」
背中を貫き蠢く赤い臓器を自分の体にとどめたまま、カインの唇が開く。
「――開け扉よ……!」
独特の発音の呪文と共に、翼と彼の着ていた黒い軍服の上衣が粉々に弾けた。
裸身になったカインの背中に、青白く激しく光る円の模様が浮かびあがる。
その模様にレオンは見覚えがあった。
あの神殿の床に描かれていたものと同じ、複雑な図形と古代文字の集合体――。
「か、神が自ら……体にゲートを仕込んでいただとぉ……っ」
王が明らかに動揺し、白い触手をくねらせて悶え始める。
「――召喚の術を受け継ぐ唯一の神官に、この背中に描かせた。人間の皮を被っていたから、お前には見えなかっただろうが」
カインが青白く光り輝く背中を晒したまま腕を突いて体を起こし、挑戦的な表情で背後を振り向く。
「そ、そんなことをすればお前はっ、この世界で形を保ってはいられぬぞ……!」
「結構だ。俺はもう、この世界を十分楽しんだ……さあ――、一緒に帰るぜ父上達よ……!」
赤い帯のような臓器が王の体の中からズルズルと引きずり出され、カインの背中に繋がった異界へと吸い込まれていく。
王の体はどんどん萎びてゆき、やがて木の皮のようになって玉座の上で文字通り干からびた。
そして全てがカインの背に吸い込まれると――ゲートが急速に光を失い始め、同時に彼自身の肉体が、どんどん透明に薄れ始めた。
「どうなってるんだ、お前が消えていく……っ」
レオンは泣きながら両腕を伸ばし、彼の裸身を抱きしめた。
透けているが、触れるとあの懐かしい温もりが伝わり、涙が止まらない。
カインは切なげに微笑み、その手でレオンの髪を愛おしげに撫でた。
「言っただろ。……俺とお前はここで、永遠に別れるんだって……」
「うわあぁッ!」
否応なく体が激しく床に引き倒され、レオンはうつ伏せのままズルズルと玉座の方へと引っ張られ始めた。
「レオン……!」
カインがこちらへ助けに来ようとするが、彼を次々と襲う悪魔の腕のせいで阻まれる。
レオンの腕や首にもヌルリとした感触の触手が巻き付き、天井に向かって体を高く持ち上げられた。
王の細い体を覆っていた布がバリ、と音を立てて開き、中から大きな針を先端に備えた、赤い舌のような濡れそぼった臓器が現れる。
「――騎士には美しく力強い獣として、とこしえの命を与えてやろう。神は我が一部となり、共にエルカーズの為に尽くすがよい……」
濡れた舌がレオンの頬を舐めまわし、先端の大きな針で唇へと入ってこようとする。
「くぅうっ……」
顔を背けて避けていると、突然、ばさりと何かが羽ばたくような音がした。
片目を開けて足元を見れば、そこには銀色の長い髪を翻し、黒いローブを風に煽らせた、本来の姿となったカインが立っている。
そのローブがみるみる鳥の羽のような白い翼に変化して左右に伸びてゆき、触手の包囲網を逃れるようにレオンの元へと飛び立った。
白い羽毛を散らしながら飛ぶ彼の剣が王の魔手を断ち切り、レオンを両腕で包み込むようにして、その体を不快な臓器から引き剥がしてゆく。
その姿を、神としか言いようがない――とレオンは感じた。
幼い頃に夢見た、慈愛に満ち溢れた表情で、自分を救い抱く大天使の姿。
出会った頃からオスカーに感じてきた、神々しいものへの憧れのような気持が、一体どこから来たのかやっと分かったような気がした。
カインがレオンを抱いたまま少し離れた場所にふわりと降り立ち、驚いたようにルビーの瞳を見張る。
「傷が……」
カインの視線の先にわずかな痛みが感じられ、濡れたものがこめかみを伝うのが分かった。
触手に引き倒された時に、床にぶつけて額を切ったらしい。
「お前、俺の守りが切れてんのか……なんで……『オスカー』としてお前を抱いたことは、一度もなかったのに――」
カインが動揺して慄いた。
抱かれながらレオンが彼に話しかけようとした瞬間、その肩口の向こうで干からびた王が笑う。
「カイン、危ない、王が――」
言いかけたその瞬間、王の触手が再び二人を襲った。
「っ……、逃げろ、カイン……、カイン……??」
「レオン……」
カインは何故か動かず、レオンの体をかばうように大きな翼の中に掻き抱いて守る。
その無防備な背中を、今しがたレオンを狙っていたあの赤い臓器が襲った。
――もう既に、避ける暇も逃げる暇も無かった。
剣がガランと音を立てて床に落ち、青い血に染まった白い羽が、ひび割れた床に飛び散る。
カインの黒い軍服に大きな穴が開き、大量の血液がその胸の中央からドクドクと噴き出す。
そのまま彼の腕の中のレオンまでも襲おうとするその先端を、カインの白い尾が巻き付いてどうにか止め、そしてギリギリと締め付けた。
「――かっ……カイ……ン……っ」
顔面蒼白になったレオンの頬に、青い返り血が大量に飛ぶ。
「ヒャハハハハ……ついに最後の神を手に入れたぞ……これで私は……かつてのように、完璧な王になる――」
ドクッドクッと脈打つようにカインを貫く赤い臓器が蠢き、何かを吸っている。
カインの青白い顔から表情が消えてゆき、その体から力が抜け、足元から崩れるようにレオンの方へ倒れかかる。
自分がかつて彼を剣で刺した時は、こんなことになったりはしなかったのに。
翼を飛び散らせて床に倒れ伏し、カインの苦しそうに歪んだ顔が、視界に溢れる涙に滲んでいく。
「カイン……しっかりしろ……!!」
床に跪いて何度も名前を呼び、貫かれたままの彼の体に縋る。
だがカインは苦し気な表情の中でも、ニヤと不敵な笑みを浮かべた。
「レオン……これが、こいつの魔に染まり切った神の力の本体だ……このまま引きずりだすぞ……!」
背中を貫き蠢く赤い臓器を自分の体にとどめたまま、カインの唇が開く。
「――開け扉よ……!」
独特の発音の呪文と共に、翼と彼の着ていた黒い軍服の上衣が粉々に弾けた。
裸身になったカインの背中に、青白く激しく光る円の模様が浮かびあがる。
その模様にレオンは見覚えがあった。
あの神殿の床に描かれていたものと同じ、複雑な図形と古代文字の集合体――。
「か、神が自ら……体にゲートを仕込んでいただとぉ……っ」
王が明らかに動揺し、白い触手をくねらせて悶え始める。
「――召喚の術を受け継ぐ唯一の神官に、この背中に描かせた。人間の皮を被っていたから、お前には見えなかっただろうが」
カインが青白く光り輝く背中を晒したまま腕を突いて体を起こし、挑戦的な表情で背後を振り向く。
「そ、そんなことをすればお前はっ、この世界で形を保ってはいられぬぞ……!」
「結構だ。俺はもう、この世界を十分楽しんだ……さあ――、一緒に帰るぜ父上達よ……!」
赤い帯のような臓器が王の体の中からズルズルと引きずり出され、カインの背中に繋がった異界へと吸い込まれていく。
王の体はどんどん萎びてゆき、やがて木の皮のようになって玉座の上で文字通り干からびた。
そして全てがカインの背に吸い込まれると――ゲートが急速に光を失い始め、同時に彼自身の肉体が、どんどん透明に薄れ始めた。
「どうなってるんだ、お前が消えていく……っ」
レオンは泣きながら両腕を伸ばし、彼の裸身を抱きしめた。
透けているが、触れるとあの懐かしい温もりが伝わり、涙が止まらない。
カインは切なげに微笑み、その手でレオンの髪を愛おしげに撫でた。
「言っただろ。……俺とお前はここで、永遠に別れるんだって……」
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