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【続編・神々の祭日】騎士の目覚め
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(……俺は一体、何をやってるんだ……)
風呂場から寝室に戻り、レオンは深く落ち込んでいた。
目の前の壁に取り付けられた大きな丸鏡にエルカーズの騎士の着る黒い軍服に身を包んでいる自分が映っている。
かっちりとした装いの下では身体中のあちこちがまだジクジクと疼いていた。
カインはもう先に部屋を出てしまったので、今はもうそばにいない。
冷静になってみると、さっきまでの行為は思い出すだけで顔から火が吹きそうだった。
乱れすぎた自分に羞恥と密かな後悔を感じつつ、高襟の首元をかっちりと留め、うなじに付けられた紅い口づけの跡を隠す。
最後にもう一度姿見に映る自分を点検していると背後で扉を開ける気配がした。
振り向いた先に、背中まである長い蜜色の髪を革ひもでくくり、緩い絹のシャツと仕立ての良いズボンを身につけた美青年が立っている。
「レオン、パンが焼けたぞ。早く下に来い」
彼は張りのある声でそう告げて、男らしい濃い眉の下で明るい緑の瞳を細めた。
――彼はこの屋敷の主人、オスカー・フォン・タールベルク。
異形の神カインの仮の姿だ。
「ああ、分かった……」
レオンがぎこちない返事を返すと、金色の髪が揺れて、がっしりとした背中が廊下に消えてゆく。
夜の甘い時間が終わったことを悟り、レオンは密かにため息をついた。
カインはこの世界で暮らすにあたり、オスカーという貴族の青年に成り代わっている。
本物の人間のオスカーは王城の地下牢に囚われたまま既に亡くなっているが、そのことは一部の神官を除き誰も知らない。
オスカーの姿をしている時、何故かカインの性格は明るく快活になり、しかも世話好きになる。
――言葉遣いや行動もカイン本来のものとは全く異なるので、まるで別の人格に感じられる程だ。
どうやらそれは姿を借りている人間――本物のオスカーの影響によるものらしい。
人間のオスカーの遺体は今、屋敷の裏の納骨堂に静かに眠っている。
去年、王城の地下牢で白骨化していたのをレオンが見つけ出し、布に包んで密かに持ち帰って、この生まれ故郷の地に返したのだ。
生前のオスカーのことをレオンは全く知らないが、カインは知っている風だった。
だがオスカーについて聞こうとすると何故か嫉妬するので詳しく聞けたことは無い。
今もずっと姿を借りていると言うことは、カインにとってオスカーという男は相当気に入った人間だったに違いないのだけれど――。
(もしかして俺としたような事をしていたんだろうか……いや、余り想像したくないな……)
一瞬複雑な妄想をしてしまいながら、レオンは寝室を出て螺旋階段を降りた。
階段室から出ると、焼きたてのパンとスープのいい匂いがしてくる。
その幸福な香りに無意識に足が速まった。
――食事の用意などをマメにやり、食生活を楽しもうとするのは「オスカー」の得意分野だ。
レオンは料理が不得意なので、正直なところ有難い。
「オスカー?」
呼びかけながら食堂に近づいていく。
油断のないように、例え二人きりでもオスカーの姿の時は彼の本名を呼ばないよう言われているので、まるで二人の男と暮らしている気分だ。
いつものように食堂のある広間の扉を開け、そこにカイン――今はオスカーが――待っているかと思いきや、見慣れぬ二人の珍客がいることに気付き、レオンはギョッとして足を止めた。
暖炉の前の長テーブルを挟み、いくつも置かれた椅子の1番手前側に、背の高い男が二人、向かい合わせに座っている。
鏡合わせの如く、二人は全く同じ背格好で、全く同じ服装だ。その服が何とも奇妙だった。
全身にベルトがあしらわれた漆黒の上下に身を包み、羽ペンや定規、ルーペに丸めた羊皮紙、果ては小型のペンチやハサミ、金槌などの工具まで、色々な道具をそのベルトで挟みこんで固定している。
――まるで生きる工具箱のようだ。
髪は二人とも真っ黒で短くあちこちに跳ねていて、その顔の上半分はカラスのようなクチバシの付いたベルト付きの丸眼鏡で覆われているので、表情が全く読み取れない。
余りにも奇妙な二人は、全く同じ動作でテーブルに置かれたパンを黙々と千切り、口に運んでいる。
「……!?」
無法者の侵入かと思い、レオンは思わず腰の剣に手を掛けた。
「待て、レオン。その二人は私の客人だ」
制止する声が背後から上がり、ハッと動きを止める。
いつの間にか背後に、皿を並べた盤を持ったオスカーが立っていた。
「客人……? 一体いつから」
「昨日からいる。名前はマルファスとハルファスだ。別に覚えなくてもいいぞ」
客人二人はちょこんと同時に会釈をして、再びクチバシの下の口で目の前のパンを静かに食べ始めた。
僅かに見える肌は人間とは思えない程青白い。
(人間じゃ無い……?)
怪訝に思いながらも抜き掛けた剣を収める。
オスカーはレオンの隣を通り抜けると、片手に持った盤から一人一人の席に熱いスープの入った器をくばり始めた。
「お前も席につけ」
こともなげに言われ、素直に自分の席に着こうとして、ふと疑問に思って顔を上げた。
「待て、オスカー。この客人がたは昨日の夜はどこに泊まったんだ」
「? 勿論この屋敷だ。空いている客間があっただろう?」
それを聞いてレオンはヒッと息を呑んだ。
客間は寝室と同じ並びの廊下にあり、風呂場を挟んだその隣にある。
恥ずかしい言葉も、淫らな喘ぎ声も、甘い睦言も、全てがこの客人達に聞かれていたという事ではないか。
「お前……一緒に暮らしている人間に……そういう事は、早く言え!!」
器を置き終わってこちらを向いたオスカーの頬を、レオンは平手で激しく張り飛ばした。
風呂場から寝室に戻り、レオンは深く落ち込んでいた。
目の前の壁に取り付けられた大きな丸鏡にエルカーズの騎士の着る黒い軍服に身を包んでいる自分が映っている。
かっちりとした装いの下では身体中のあちこちがまだジクジクと疼いていた。
カインはもう先に部屋を出てしまったので、今はもうそばにいない。
冷静になってみると、さっきまでの行為は思い出すだけで顔から火が吹きそうだった。
乱れすぎた自分に羞恥と密かな後悔を感じつつ、高襟の首元をかっちりと留め、うなじに付けられた紅い口づけの跡を隠す。
最後にもう一度姿見に映る自分を点検していると背後で扉を開ける気配がした。
振り向いた先に、背中まである長い蜜色の髪を革ひもでくくり、緩い絹のシャツと仕立ての良いズボンを身につけた美青年が立っている。
「レオン、パンが焼けたぞ。早く下に来い」
彼は張りのある声でそう告げて、男らしい濃い眉の下で明るい緑の瞳を細めた。
――彼はこの屋敷の主人、オスカー・フォン・タールベルク。
異形の神カインの仮の姿だ。
「ああ、分かった……」
レオンがぎこちない返事を返すと、金色の髪が揺れて、がっしりとした背中が廊下に消えてゆく。
夜の甘い時間が終わったことを悟り、レオンは密かにため息をついた。
カインはこの世界で暮らすにあたり、オスカーという貴族の青年に成り代わっている。
本物の人間のオスカーは王城の地下牢に囚われたまま既に亡くなっているが、そのことは一部の神官を除き誰も知らない。
オスカーの姿をしている時、何故かカインの性格は明るく快活になり、しかも世話好きになる。
――言葉遣いや行動もカイン本来のものとは全く異なるので、まるで別の人格に感じられる程だ。
どうやらそれは姿を借りている人間――本物のオスカーの影響によるものらしい。
人間のオスカーの遺体は今、屋敷の裏の納骨堂に静かに眠っている。
去年、王城の地下牢で白骨化していたのをレオンが見つけ出し、布に包んで密かに持ち帰って、この生まれ故郷の地に返したのだ。
生前のオスカーのことをレオンは全く知らないが、カインは知っている風だった。
だがオスカーについて聞こうとすると何故か嫉妬するので詳しく聞けたことは無い。
今もずっと姿を借りていると言うことは、カインにとってオスカーという男は相当気に入った人間だったに違いないのだけれど――。
(もしかして俺としたような事をしていたんだろうか……いや、余り想像したくないな……)
一瞬複雑な妄想をしてしまいながら、レオンは寝室を出て螺旋階段を降りた。
階段室から出ると、焼きたてのパンとスープのいい匂いがしてくる。
その幸福な香りに無意識に足が速まった。
――食事の用意などをマメにやり、食生活を楽しもうとするのは「オスカー」の得意分野だ。
レオンは料理が不得意なので、正直なところ有難い。
「オスカー?」
呼びかけながら食堂に近づいていく。
油断のないように、例え二人きりでもオスカーの姿の時は彼の本名を呼ばないよう言われているので、まるで二人の男と暮らしている気分だ。
いつものように食堂のある広間の扉を開け、そこにカイン――今はオスカーが――待っているかと思いきや、見慣れぬ二人の珍客がいることに気付き、レオンはギョッとして足を止めた。
暖炉の前の長テーブルを挟み、いくつも置かれた椅子の1番手前側に、背の高い男が二人、向かい合わせに座っている。
鏡合わせの如く、二人は全く同じ背格好で、全く同じ服装だ。その服が何とも奇妙だった。
全身にベルトがあしらわれた漆黒の上下に身を包み、羽ペンや定規、ルーペに丸めた羊皮紙、果ては小型のペンチやハサミ、金槌などの工具まで、色々な道具をそのベルトで挟みこんで固定している。
――まるで生きる工具箱のようだ。
髪は二人とも真っ黒で短くあちこちに跳ねていて、その顔の上半分はカラスのようなクチバシの付いたベルト付きの丸眼鏡で覆われているので、表情が全く読み取れない。
余りにも奇妙な二人は、全く同じ動作でテーブルに置かれたパンを黙々と千切り、口に運んでいる。
「……!?」
無法者の侵入かと思い、レオンは思わず腰の剣に手を掛けた。
「待て、レオン。その二人は私の客人だ」
制止する声が背後から上がり、ハッと動きを止める。
いつの間にか背後に、皿を並べた盤を持ったオスカーが立っていた。
「客人……? 一体いつから」
「昨日からいる。名前はマルファスとハルファスだ。別に覚えなくてもいいぞ」
客人二人はちょこんと同時に会釈をして、再びクチバシの下の口で目の前のパンを静かに食べ始めた。
僅かに見える肌は人間とは思えない程青白い。
(人間じゃ無い……?)
怪訝に思いながらも抜き掛けた剣を収める。
オスカーはレオンの隣を通り抜けると、片手に持った盤から一人一人の席に熱いスープの入った器をくばり始めた。
「お前も席につけ」
こともなげに言われ、素直に自分の席に着こうとして、ふと疑問に思って顔を上げた。
「待て、オスカー。この客人がたは昨日の夜はどこに泊まったんだ」
「? 勿論この屋敷だ。空いている客間があっただろう?」
それを聞いてレオンはヒッと息を呑んだ。
客間は寝室と同じ並びの廊下にあり、風呂場を挟んだその隣にある。
恥ずかしい言葉も、淫らな喘ぎ声も、甘い睦言も、全てがこの客人達に聞かれていたという事ではないか。
「お前……一緒に暮らしている人間に……そういう事は、早く言え!!」
器を置き終わってこちらを向いたオスカーの頬を、レオンは平手で激しく張り飛ばした。
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