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【続編・神々の祭日】貴公子と王都
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「ーー待って下さい。その案自体に異論はないが、元魔物の兵士といえば、素人ばかりを集めることになる。本当に彼らの手で神殿や王城の修復など出来るものか……」
別の貴族が不安気に手を挙げる。
オスカーは余裕ある態度を崩さず頷いた。
「確かに、下働きの人足はともかく、やはり石造建造物の修復に当たっては、有能な建築家と熟練した石工を招く必要がある。しかしその点も既に半分は解決済……実際に皆様の目でご覧頂ければ納得頂けるかと思いますが」
意味深な言葉とともに彼はベアリットに目配せをした。
「ティモ、建築家殿をお連れして貰えるかな」
老神官が指示すると、黒衣のティモが内陣の方へ下がり、そこにある扉口から1人の人物を連れてやって来た。
その人物は、見たこともないほど大きな羊皮紙の束を抱え、祭壇のある方から歩いて来る。
大きな紙束のせいで顔も様子も隠れてよく見えない程だったが、近づいて来るにつれ、その風体に見覚えがあることにレオンは気付いた。
様々な工具を仕込んだベルトだらけの黒衣、あちこちに飛び跳ねた黒髪――そして青白い肌。
そして今は仮面を外しているその端正な顔立ちは、瞳の色が黒いが、どこか女性的でカインに似ていた。
(屋敷で留守番をしていたはずなのに、いつの間に……)
やはり彼らは人間ではない、と確信する。
カインが2人を召喚で呼び出したに違いない。――恐らく、自分の兄弟神を。
よくよく考えれば、ずっと以前に古文書を調べた時、彼らの名を見た事がある。
カインは騎士の神、彼らは確か……。
(建築を司る神、マルファスとハルファス……俺はうっかり神に畑仕事を頼んで来てしまったのか……)
唖然として成り行きを見守る。
「建築家のマーラー殿です。彼はボルツ様のお知り合いで、大公に大変な恩義を感じていらっしゃるとかで、このエルカーズの王都の為に、無報酬の奉仕として働いても良いとまで仰って下さっております」
恐らくマルファスと思われる男は老神官の紹介にコクリと頷くと、円卓の中央に大きな羊皮紙を広げた。
オスカーが自ら立ち上がり、わざとらしく驚きながら説明を始めた。
「ほう、これは王城の正面の図面か……こちらは1番損傷の酷い玉座の間……」
鮮やかな色彩で塗られた、玉座の間の設計を詳細に描いた正確な図面に皆が目を見張った。
その下部にはエルカーズ語でサインが記入されている。
――マル&ハル。
それを目にして、レオンは密かに溜息をついた。
一介の南部の貴族が「神」の個人的知り合いであるはずがない。
マルファス達が恩義を感じている人物がいるとすれば、前王によって囚われていた彼らを元の世界に返した、弟に対してだろう。
カインは何らかの手段でボルツを黙らせ、自分の思い通りに事を運んだのだ。そして今この会議は恐らく、完全にカインのシナリオに乗った茶番と化している。
単なる屋敷の留守番ではなく、この見世物をする為にカインがあの2人を呼んできたのだという事は、今更説明されなくても明らかだった。
(明らかだが、なぜ俺にはいつも、事前に何も言ってくれないんだ……)
胸の痛みと共にオスカーを見る。
だが彼はそんなレオンの視線に気付くことなく、今度はギレスの方向に顔を向け話し始めていた。
「ボルツ大公殿が王都修復にこれほどの貢献をされるつもりがあるようですが、ギレス様は如何ですか。聞けば、ご自身の治める都市に優れた職人を多くお抱えになっていらっしゃるとのこと」
プレッシャーを掛けるような慇懃無礼な物言いに、プライドの高いギレスが顔を真っ赤にした。
暫く唸った後で、渋々と図面を手に言葉を吐き出す。
「私の所からも費用と石工を派遣する……」
その返答にこの上なく華やかな笑顔を浮かべ、オスカーは頷いた。
「流石はギレス様」
その日の会議は結局、それ以上の議題には触れることなく終わった。
明日以降も話し合いは続く予定だが、以降の他の問題も道筋が付いてしまったようなもので、恐らく今日以上に紛糾することはないだろう。
争点があったとしても、オスカーがベアリットと共謀して今日のように上手く己の思う通りに方向付けるに違いない。
しかし――。
「あんなものは、本当に会議と言えるのか……? 全てお前が事前に仕組んだのだろう」
オスカーに対し、レオンはどこか不機嫌なまま呟いた。
――日が沈み、会議が終わった後、2人は大通りにある酒場の一つで食事を取っていた。
他の会議のメンバーも出席する神殿での晩餐を断り、二人きりで街に降りたのだ。
周囲は人々の笑い声とけたたましい音楽が鳴り響き、どんな事を話していても紛れてしまう程の喧騒である。
しかも会話がエルカーズ語でないとあれば、誰もその内容を知ることはない。
素朴な木製のテーブルを挟み向かいに座しているオスカーは、既に派手な礼装は脱ぎ、元の地味な深緑の軍装に着替えている。
「……会議というのは単に、皆の同意を得たという形を作り、それを全員に周知させる場でしかない」
平然とオスカーが言い放ち、レオンの色素の薄い瞳を覗き込んだ。
「私はお前が朝から不満そうな顔をしている理由を聞くためにここに来た。――だが、お前はそんなつまらない話をしたかったのか?」
「オスカー」にしては酷く棘のある言い方に傷付き、レオンは眉根を寄せながら視線を落とした。
別の貴族が不安気に手を挙げる。
オスカーは余裕ある態度を崩さず頷いた。
「確かに、下働きの人足はともかく、やはり石造建造物の修復に当たっては、有能な建築家と熟練した石工を招く必要がある。しかしその点も既に半分は解決済……実際に皆様の目でご覧頂ければ納得頂けるかと思いますが」
意味深な言葉とともに彼はベアリットに目配せをした。
「ティモ、建築家殿をお連れして貰えるかな」
老神官が指示すると、黒衣のティモが内陣の方へ下がり、そこにある扉口から1人の人物を連れてやって来た。
その人物は、見たこともないほど大きな羊皮紙の束を抱え、祭壇のある方から歩いて来る。
大きな紙束のせいで顔も様子も隠れてよく見えない程だったが、近づいて来るにつれ、その風体に見覚えがあることにレオンは気付いた。
様々な工具を仕込んだベルトだらけの黒衣、あちこちに飛び跳ねた黒髪――そして青白い肌。
そして今は仮面を外しているその端正な顔立ちは、瞳の色が黒いが、どこか女性的でカインに似ていた。
(屋敷で留守番をしていたはずなのに、いつの間に……)
やはり彼らは人間ではない、と確信する。
カインが2人を召喚で呼び出したに違いない。――恐らく、自分の兄弟神を。
よくよく考えれば、ずっと以前に古文書を調べた時、彼らの名を見た事がある。
カインは騎士の神、彼らは確か……。
(建築を司る神、マルファスとハルファス……俺はうっかり神に畑仕事を頼んで来てしまったのか……)
唖然として成り行きを見守る。
「建築家のマーラー殿です。彼はボルツ様のお知り合いで、大公に大変な恩義を感じていらっしゃるとかで、このエルカーズの王都の為に、無報酬の奉仕として働いても良いとまで仰って下さっております」
恐らくマルファスと思われる男は老神官の紹介にコクリと頷くと、円卓の中央に大きな羊皮紙を広げた。
オスカーが自ら立ち上がり、わざとらしく驚きながら説明を始めた。
「ほう、これは王城の正面の図面か……こちらは1番損傷の酷い玉座の間……」
鮮やかな色彩で塗られた、玉座の間の設計を詳細に描いた正確な図面に皆が目を見張った。
その下部にはエルカーズ語でサインが記入されている。
――マル&ハル。
それを目にして、レオンは密かに溜息をついた。
一介の南部の貴族が「神」の個人的知り合いであるはずがない。
マルファス達が恩義を感じている人物がいるとすれば、前王によって囚われていた彼らを元の世界に返した、弟に対してだろう。
カインは何らかの手段でボルツを黙らせ、自分の思い通りに事を運んだのだ。そして今この会議は恐らく、完全にカインのシナリオに乗った茶番と化している。
単なる屋敷の留守番ではなく、この見世物をする為にカインがあの2人を呼んできたのだという事は、今更説明されなくても明らかだった。
(明らかだが、なぜ俺にはいつも、事前に何も言ってくれないんだ……)
胸の痛みと共にオスカーを見る。
だが彼はそんなレオンの視線に気付くことなく、今度はギレスの方向に顔を向け話し始めていた。
「ボルツ大公殿が王都修復にこれほどの貢献をされるつもりがあるようですが、ギレス様は如何ですか。聞けば、ご自身の治める都市に優れた職人を多くお抱えになっていらっしゃるとのこと」
プレッシャーを掛けるような慇懃無礼な物言いに、プライドの高いギレスが顔を真っ赤にした。
暫く唸った後で、渋々と図面を手に言葉を吐き出す。
「私の所からも費用と石工を派遣する……」
その返答にこの上なく華やかな笑顔を浮かべ、オスカーは頷いた。
「流石はギレス様」
その日の会議は結局、それ以上の議題には触れることなく終わった。
明日以降も話し合いは続く予定だが、以降の他の問題も道筋が付いてしまったようなもので、恐らく今日以上に紛糾することはないだろう。
争点があったとしても、オスカーがベアリットと共謀して今日のように上手く己の思う通りに方向付けるに違いない。
しかし――。
「あんなものは、本当に会議と言えるのか……? 全てお前が事前に仕組んだのだろう」
オスカーに対し、レオンはどこか不機嫌なまま呟いた。
――日が沈み、会議が終わった後、2人は大通りにある酒場の一つで食事を取っていた。
他の会議のメンバーも出席する神殿での晩餐を断り、二人きりで街に降りたのだ。
周囲は人々の笑い声とけたたましい音楽が鳴り響き、どんな事を話していても紛れてしまう程の喧騒である。
しかも会話がエルカーズ語でないとあれば、誰もその内容を知ることはない。
素朴な木製のテーブルを挟み向かいに座しているオスカーは、既に派手な礼装は脱ぎ、元の地味な深緑の軍装に着替えている。
「……会議というのは単に、皆の同意を得たという形を作り、それを全員に周知させる場でしかない」
平然とオスカーが言い放ち、レオンの色素の薄い瞳を覗き込んだ。
「私はお前が朝から不満そうな顔をしている理由を聞くためにここに来た。――だが、お前はそんなつまらない話をしたかったのか?」
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