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【続編・神々の祭日】囚われの貴公子
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陽気な旋律が微睡《まどろ》むレオンの耳に届いた。
最初は一つの旋律であったそれは、途中から二つに分かれ、追いかけ合いながら高揚する。
そしていつも、同じ所でつまづき、唐突に止まるのだった。
いつの間にか独り寝になっていた豪奢なベッドを抜け出し、柔らかなシャツ一枚を羽織っただけの姿で窓に顔を寄せる。
寝室の外を見下ろすと、王城の庭先の芝生に座り込み楽器の練習をしているのは、マルファスとハルファスだった。
独特のベルトだらけの黒衣を纏い、何語なのか全く分からない言葉でやり取りをしている。
最近まで彼らは話せないのかと思っていたが、どうやら人見知りなだけらしい。
二人は雪で修復作業の滞る冬の間、暇に任せて練習し始めた楽器に今も夢中のようだった。
弦楽器のリュートや小型のハープから始まり、今は明るく鮮明な音色のイーリアン・パイプの音色に熱中している。
踊りだしたくなるような軽快なパイプの音色に微笑みながら、レオンは遠く城下を眺めた。
通りは以前よりも行き交いやすく整備され、広場に敷き詰められたモザイクのタイルも見違えるように修復されているのが遠目にも分かる。
そこから四方に伸びる大通りの一つには、賑わう朝市の様子が見えた。
窓を開き、暖かになった風に口元を綻ばせる。
気付けばこの国に来てもう3度目の春が来ようとしていた。
あの死の街であった王都が、短期間でこれ程までに栄えるようになったことは感慨深い。
商人の誘致や神殿巡礼の称揚を通じて人口が増え、空き家も随分と減り、城下の街はすっかり都市らしい雰囲気を取り戻している。
恋人の努力が呼び覚ました繁栄の兆しを愛おしく思いながら、レオンは窓を閉じて部屋の奥へ入った。
壁際の簡素なクローゼットを開き、慣れた所作で軍服に着替え始める。
耳にはまた双子の奏でる音色が届き始めた。
酒場でよく耳にするようなダンスの為の音楽だ。
(あんなに練習して、宴でも開くつもりなんだろうか)
不思議に思っていると、背後で三回ノックの音がして扉が開いた。
振り向くと、最近では珍しい白の礼装を身に纏ったオスカーがそこに立っている。
「もう起きていたのか。せっかく姫君をキスで起こそうかと思っていたのに」
彼は蜜色の髪を揺らしながらレオンのすぐ背後まで来て、肩に腕を回して来た。
「朝からそういう台詞は余計だ……オスカー、その格好、今日は何かあるのか?」
軍服の前を合わせながら首を振り返らせて問う。
彼はどこか憂いを帯びた表情で息をついた。
「午後、ギレス公が東部から視察に到着する予定だ。王城修復の進度を説明するように言われている」
「それは気が重いな……」
去年の会議で見かけたギレスの痩せて神経質そうな容姿を思い出す。
彼は自分こそがこの国の正当な王位継承者であるという気持ちが強く、王都にたびたび使いを送って来ては、何かと口を出してくる存在だ。
その度にカインは上手くかわしていたのだが、業を煮やしてついに自分の足ではるばるやって来たらしい。
「……説明するだけで終われば良いのだがな」
含みのあるその呟きに疑問を持ち、恋人の腕の中で身体を反転させる。
「何か他にも問題ごとがあるのか?」
問いながら指を伸ばし、オスカーの美しい髪を撫でる。
彼は甘く溜息をつきながら首を振った。
「いや……取り敢えずの心配は、公がここに来る前にこの王城の掃除が終わるかということ位だ」
冗談ぽく肩を竦めて言うと、美しい貴公子はレオンの唇に優しくキスを落とした。
朝食の後、すぐにオスカーは神殿兵と修復作業員達を総出で集め、午前中一杯を王城の大掃除に費やした。
何しろ主人も召使いもいない城なので、レオンとカインの使う執務室と寝室以外はどこもかしこも埃にまみれている。
部屋数も多いので、積もった埃を全て取り、古布であちこちを磨いて回るのも恐ろしいほどの重労働だった。
「全く総長殿の人使いの荒さには毎日感心してしまいますよ」
今やレオンの副官二人の内の一人となったヴィクトルも、嫌味を言いながら頭に頭巾を巻き、率先して掃除を進めてくれた。
レオンも頑張って彼と一緒に動いて回り、最後は慣れて来て、協力して流れるように作業を終えて行った。
時間ぎりぎりでようやく全ての部屋の掃除が終わった後、部下達と街の見回りに戻ろうとする副官を、レオンは呼び止めた。
「ヴィクトル」
「はっ、何でしょうか総長」
わざとらしい敬礼をしながら広い背中が振り返る。
「……お前がいてくれて本当に助かったよ。恩に着る」
名を呼ぶようになったのは最近だ。上官と部下の関係ではあるものの、最近は彼に友人のような親しみを感じるようになっている。
相手は何故か目尻を赤くし、周囲に誰もいないのを確かめて気安くレオンの肩を抱いた。
「ギレスってオッさんは相当ヤバい奴らしいぜ。気を付けろよ」
共通語で耳元に囁かれ、レオンは眉を顰めた。
「お前、共通語でもちゃんと敬語を使え」
ヴィクトルは返事もせず、笑いながら腕を外した。
手を振りながら王城の扉を開けて出て行った彼の青い軍服姿は、以前よりずっとその身に似合っているように思えた。
最初は一つの旋律であったそれは、途中から二つに分かれ、追いかけ合いながら高揚する。
そしていつも、同じ所でつまづき、唐突に止まるのだった。
いつの間にか独り寝になっていた豪奢なベッドを抜け出し、柔らかなシャツ一枚を羽織っただけの姿で窓に顔を寄せる。
寝室の外を見下ろすと、王城の庭先の芝生に座り込み楽器の練習をしているのは、マルファスとハルファスだった。
独特のベルトだらけの黒衣を纏い、何語なのか全く分からない言葉でやり取りをしている。
最近まで彼らは話せないのかと思っていたが、どうやら人見知りなだけらしい。
二人は雪で修復作業の滞る冬の間、暇に任せて練習し始めた楽器に今も夢中のようだった。
弦楽器のリュートや小型のハープから始まり、今は明るく鮮明な音色のイーリアン・パイプの音色に熱中している。
踊りだしたくなるような軽快なパイプの音色に微笑みながら、レオンは遠く城下を眺めた。
通りは以前よりも行き交いやすく整備され、広場に敷き詰められたモザイクのタイルも見違えるように修復されているのが遠目にも分かる。
そこから四方に伸びる大通りの一つには、賑わう朝市の様子が見えた。
窓を開き、暖かになった風に口元を綻ばせる。
気付けばこの国に来てもう3度目の春が来ようとしていた。
あの死の街であった王都が、短期間でこれ程までに栄えるようになったことは感慨深い。
商人の誘致や神殿巡礼の称揚を通じて人口が増え、空き家も随分と減り、城下の街はすっかり都市らしい雰囲気を取り戻している。
恋人の努力が呼び覚ました繁栄の兆しを愛おしく思いながら、レオンは窓を閉じて部屋の奥へ入った。
壁際の簡素なクローゼットを開き、慣れた所作で軍服に着替え始める。
耳にはまた双子の奏でる音色が届き始めた。
酒場でよく耳にするようなダンスの為の音楽だ。
(あんなに練習して、宴でも開くつもりなんだろうか)
不思議に思っていると、背後で三回ノックの音がして扉が開いた。
振り向くと、最近では珍しい白の礼装を身に纏ったオスカーがそこに立っている。
「もう起きていたのか。せっかく姫君をキスで起こそうかと思っていたのに」
彼は蜜色の髪を揺らしながらレオンのすぐ背後まで来て、肩に腕を回して来た。
「朝からそういう台詞は余計だ……オスカー、その格好、今日は何かあるのか?」
軍服の前を合わせながら首を振り返らせて問う。
彼はどこか憂いを帯びた表情で息をついた。
「午後、ギレス公が東部から視察に到着する予定だ。王城修復の進度を説明するように言われている」
「それは気が重いな……」
去年の会議で見かけたギレスの痩せて神経質そうな容姿を思い出す。
彼は自分こそがこの国の正当な王位継承者であるという気持ちが強く、王都にたびたび使いを送って来ては、何かと口を出してくる存在だ。
その度にカインは上手くかわしていたのだが、業を煮やしてついに自分の足ではるばるやって来たらしい。
「……説明するだけで終われば良いのだがな」
含みのあるその呟きに疑問を持ち、恋人の腕の中で身体を反転させる。
「何か他にも問題ごとがあるのか?」
問いながら指を伸ばし、オスカーの美しい髪を撫でる。
彼は甘く溜息をつきながら首を振った。
「いや……取り敢えずの心配は、公がここに来る前にこの王城の掃除が終わるかということ位だ」
冗談ぽく肩を竦めて言うと、美しい貴公子はレオンの唇に優しくキスを落とした。
朝食の後、すぐにオスカーは神殿兵と修復作業員達を総出で集め、午前中一杯を王城の大掃除に費やした。
何しろ主人も召使いもいない城なので、レオンとカインの使う執務室と寝室以外はどこもかしこも埃にまみれている。
部屋数も多いので、積もった埃を全て取り、古布であちこちを磨いて回るのも恐ろしいほどの重労働だった。
「全く総長殿の人使いの荒さには毎日感心してしまいますよ」
今やレオンの副官二人の内の一人となったヴィクトルも、嫌味を言いながら頭に頭巾を巻き、率先して掃除を進めてくれた。
レオンも頑張って彼と一緒に動いて回り、最後は慣れて来て、協力して流れるように作業を終えて行った。
時間ぎりぎりでようやく全ての部屋の掃除が終わった後、部下達と街の見回りに戻ろうとする副官を、レオンは呼び止めた。
「ヴィクトル」
「はっ、何でしょうか総長」
わざとらしい敬礼をしながら広い背中が振り返る。
「……お前がいてくれて本当に助かったよ。恩に着る」
名を呼ぶようになったのは最近だ。上官と部下の関係ではあるものの、最近は彼に友人のような親しみを感じるようになっている。
相手は何故か目尻を赤くし、周囲に誰もいないのを確かめて気安くレオンの肩を抱いた。
「ギレスってオッさんは相当ヤバい奴らしいぜ。気を付けろよ」
共通語で耳元に囁かれ、レオンは眉を顰めた。
「お前、共通語でもちゃんと敬語を使え」
ヴィクトルは返事もせず、笑いながら腕を外した。
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