聖騎士の盾

かすがみずほ@3/25理想の結婚単行本

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番外

柔らかな遊戯

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 だが、大きな猫は四つ足を投げ出して寝そべったまま、全く動かない。
 毛の中に片耳を当てると、低く規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
「寝てる……? さっきまで起きてたのに……?」
 カインが勝ち誇ったように意地悪く微笑した。
「残念だったな。そいつは一日の3分の2は寝て過ごすんだ。すっかり熟睡しちまってるし、今夜はもうお前の遊び相手にはならねぇよ」
「……。なら、俺もこのまま寝る。おやすみ」
 レオンは膨れっ面で上半身を猫の腹毛に埋もれさせた。
 ところが――毛と体の隙間に、カインの手がするりと忍び込んでくる。
 薄いシャツの上から、敏感な胸の尖りを指先が探ってきて、レオンの背中がびくっと跳ねた。
「ン……」
 久しぶりの明らかな誘惑に、腹の奥に歓喜の火が灯る。
「……っ」
 そのまま布越しに爪の先で乳頭をカリカリと引っ掻かれ、くすぐったいその刺激に、淫らな愛撫を待ち望む期待が全身に広がっていく。
 だが、意地で寝たふりを続けていると、リンネルのシャツの胸骨のあたりまでを閉じていた胸紐が緩められ始めた。
 するりと紐が抜かれ、シャツの胸元を開かれて、二つの乳首があらわになる。
 もう一度紐を入れ直すのが面倒なのに……と頭の中で舌打ちしていると、ギュウ、と乳首を摘み上げられて、こらえきれずあからさまな喘ぎ声が漏れた。
「ぁはあっ……」
「……お前には寝たふりは無理だろ。ここ十年で、ますますエロい身体に仕上がってるし……ほら、こっち向いて……口開けて舌を出せ……」
 意地を張り通すことなど出来ず、言われるがままに仰向けになる。
 天井を向いて張り詰めた二つの突起を指先で弄びながら、カインの赤く形のいい唇が、レオンの震える舌先に吸い付いた。
「ふ……うゥ……んンン……ッ!」
 ジュッ、ジュッと先から徐々に吸われていき、舌が痙攣するほど根元まで扱くような愛撫を受ける。
 腰が砕けたようになり、ズボンが苦しいほど勃起が抑えられなくなって、鼻から甘い呻きが漏れた。
 じゅぱ、と音を立てて舌を解放され、唾液が溢れた口腔をゆっくりと舐めまわされてゆく。
 同時に乳首を優しく指で倒され、下肢があさましい期待で満ちた。
 張り詰めた股間をカインの太腿に押し付け、涙目で赤い瞳を見上げる。
 まるで紅玉のようなその瞳に映っている自分を見て、レオンは唇をもぎ離して顔をそむけた。
「……。レオン? どうした」
 カインが片眉を上げ、こちらを覗き込んできて、その視線にいたたまれない気持ちになる。
「……。恥ずかしいんだ……。だって、もういい歳をして、こんな……乱れるようなことは……みっともないだろう……っ」
「はぁ?」
「――酒場でも、お前より年上に見られたし……。お前だって、無理をしているんじゃないか……? 昔なら若かったからまだ可愛げもあっただろうが、今はこんな……どう見たって可愛くもない男を、抱くなんて――」
 長い指が、レオンの額に落ちる髪を撫で上げた。
「バカ。例えジジイになったって、お前は死ぬほど可愛いに決まってんだろ」
「でも、カインもオスカーも、ずっと若いままじゃないか。気にするなという方が無理だろう……!? 俺ばかり歳を取って……どんどん、その、釣り合いも……」
 冷たいほどの白皙の美貌が、一瞬ギョッとしたような表情になる。
「俺も歳をとった方が良かったのか?」
「は……?」
 レオンが首を傾げると、銀髪の神は額を抑えて天井を向いた。
「俺は、お前があの姿を好きなんだと思って変えないでいたのに」
「どういう意味だ……?」
 言葉の意味を飲み込めないでいると、カインの姿が目の前で変わっていく。
 その姿を見て、レオンは驚愕した。
 白髪混じりのシルバーブロンド、目元に優しげな渋みのある、美しいが貫禄ある姿の堂々とした貴族……壮年のオスカーが自分を見下ろしていたからだ。
 その、懐かしいのにどこか新鮮な、大人の男の艶やかな魅力に、一瞬で心を奪われる。
「――カインの時の私の姿はどうにもならないが、人間の前に出る時にこういう姿の方がいいのなら、次からはこの姿になるぞ」
「い、いいと思うが、極端すぎる……! いきなり老けたら怪しまれるだろう」
「なら、少しずつ歳を取るか。これからはな」
 からからと明るく笑った年上オスカーの下で、レオンはわざと横を向き、もぞりと身を捩った。
 ――心惹かれるのに見慣れない相手に緊張してしまって、目を合わせていられなくなってしまったのだ。
「も、元に戻れ……! お前、その姿では俺を抱かないんだろう……」
 真っ赤になってしどろもどろに言い放ったレオンの顔を、目元に笑い皺の出来た草原色の瞳が見つめる。
「この姿は『オスカー』というよりも、私が勝手に作った外見だからな。別に、このままでお前を愛してもいいと思っているが。……そうだな、貴族の紳士らしく正装して、ひと晩中、舌と指と道具だけでお前の身体を支配するのも、悪くはないかも知れないな……?」
 耳朶にキスしながら囁かれて、甘い妄想が一瞬脳裏に浮かぶ。
 けれど、レオンはすぐに、子供のようにブルブルと首を横に振った。
「いやだ……っ、カインがいい……カインじゃないと嫌だ……っ」
 その言葉に嬉しそうににんまりと微笑んで、銀髪の神がまた正体を現した。
「ーー俺だって、同じ気持ちだぜ。お前がどんなにヨボヨボのジジイになったって、お前じゃなけりゃあ、嫌だ。ーーそう思ったから、お前と添い遂げることにしたんだろ」
 ルビー色の瞳が瞬き、慈愛に満ちてレオンを真っ直ぐに見つめる。
「……カイン……っ」
 銀髪の神の肩を抱き寄せ、レオンは自ら彼に口付けた。
 軽く啄むようなキスを返して、カインの両手がレオンのリンネルのシャツの裾を掴んで持ち上げる。
 脱がされて上半身裸になると、背中にふんわりとベレトの毛が触れ、ぞわりとした快感が起こった。
「あ……ベレトを、ベッドからおろしてやらないと……」
「いいだろ、別に寝てるし……こいつは上に乗って飛び跳ねたって起きやしねぇよ」
 脇の下や乳首に口付けられながら、レオンは羞恥と快感に身悶えた。
「はぁっ……ま、待ってくれ……あァっ、」
 茶色の乗馬用ズボンの中に、カインの手が忍び込む。
 長く綺麗な指が、清浄の為に剃り落としてある陰毛の跡を揉み込むように撫で、先走りでトロトロになっている薄桃色のペニスを取り出した。
 指の腹が竿の皮を時折引っ張りながら、ヌルヌルとくびれや敏感な先端を滑っていく。
 欲望に張り詰めた肉の果実は、手のひらの柔らかい場所で包まれて擦られて、レオンの喘ぐような呼吸が激しくなった。
「カイン、……はァぁっ、……気持ちいい……っ」
「やらしい糸引いて……昨日俺の尻尾と浮気した、スケベな穴の方も濡れてるんだろう? 自分で脱いで、見せてみろ……」
 レオンは羞恥に眉を寄せながら頷き、濡れそぼってしまっている下着とズボンとを下ろし、裸足の足先から抜いた。
 カインにペニスの先端をクチュクチュと弄ばれたまま、太腿を大きく開いて身体に引きつけ、尻の横から自分の蕩けた後孔を指で撫でる。
「こっちも、濡れ、てる……っ」
 欲情にぼんやりと視線を揺らしながら、自ら指を押し当ててそこを開いて見せた。
「ああ、発情してすっかりベチョベチョだ……」
 亀頭への愛撫を続けたまま、カインの顔がそこへ近付いていく。
 レオンがねだるように両太腿の付け根を掴んでそこを見せつけると、カインの唇がそこへクチュリと触れて口付けした。
「アッ、あ!」
 更に赤い舌が無遠慮にそこを突き、水音を立てて出入りし始める。
「あウ……っ!! ウ、ン……ッ!! も、っと……」
 ビクッ、ビクッと引き締まった尻が持ち上がり、長い年月ですっかり交接の為の性器に変わり果てたそこが、舌の愛撫を淫らな涎を流して悦ぶ。
 ひとしきり中を舐め回して、蜜を引いた舌先をわざと見せつけながら、神は意地悪く微笑んだ。
「すげぇ締め付けるじゃねぇか……。昨日ここに俺じゃないモノを自分で奥まで突っ込んで、メスイキするまで腰振りまくってたくせに、物足りなかったか……?」
 カインの長い指がペニスを撫で下ろし、腿の付け根を撫でてから、濡れてとろけたそこにずぶりと入っていく。
 震えながら勃起している雄頸には、代わりに白い尾が巻き付いて、ねっとりとした汁を纏いながら、粘膜を覆う皮を上下させられた。
「んああ……っ、はぁっ、足りない……っ」
 浮かせた尻を淫らに揺らすレオンの中を、焦らすように緩く、指先がかき混ぜる。
「ん? 何が足りないんだ……? 強くて有能なエルカーズ一の剣士のお前が、結腸責めされてケツの奥で感じまくるのにグズグズにハマって、デカいチンポに飢えてるなんてことは……ないよなぁ?」
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