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仮交際始めました
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い、犬だ……この前会った時は体は人間だったけど、これは完全に犬……!
最早デートというより散歩じゃねぇか!
だけど俺はすっかり嬉しくなってしまった。
かっ、カンワイイい~~!!
犬になってしまった犬塚さんは尻尾を振りながら紙袋に長い顔を突っ込み、中からさっき俺が見つけたプラスチックの塊をガサガサと引き出した。
白くて丸くて薄っぺらな円盤みたいな形してるやつ。――あぁ、フライングディスク。フリスビーだ!
それが、投げろと言わんばかりに俺にグイグイ押し付けられた。
どうやら完全に犬になってると喋れねぇらしい。
「オケオケ、分かったよ! やったことねぇから投げんの下手だと思うけど許してなっ」
完全に犬だとついつい敬語が取れちまうなー。
まあいっか、俺の方が年上だし。
「行くぜー!」
ゴールデンレトリバーのテンションがマックスになり、俺の周りをグルグル回って助走を始める。
「えいっ!」
投げた途端にダッと犬塚さんが駆け出したけど、ディスクはとんでもない方向にすっ飛び、すぐ手前でヘロヘロになって墜落してしまった。
「あちゃー!」
それを旋回して戻ってきた彼が拾ってくわえ、尻尾を振りながら俺の所に持ってきてくれる。
「ごめんな! もう一回!」
確か、フリスビーを投げるには回転が大事ってどっかで読んだことあるぞ。
今度は手首にスナップを利かせて投げてみる。
すると今度は予想外の飛距離が出た。ただし方向は明後日だ。
結構無理があったけど、犬塚さんがダーっと凄い勢いで飛び出して地面ギリギリでディスクをキャッチする。
「お見事! コツが分かってきたよ!」
金色の毛並みをビュンビュンなびかせ、四肢を目一杯使って、飛ぶように芝生を走る犬がメチャクチャにカッコよくて、惚れ惚れする。
大型犬ってすげぇ……!!
こんな風に犬と遊ぶの、子供の頃からのすげぇ憧れだったんだ。
犬が飼いたい、クリスマスプレゼントも誕生日プレゼントも一生我慢するから子犬が欲しいって、よくお袋を困らせたもんなー。
物心ついて、ウチは貧乏で、俺に教育受けさせるだけで精一杯だってことが分かり始めてからは絶対に口にしなくなったけど。
まさか婚活でちょっとだけ願いが叶うなんて、三年負け続けても嫁さん探し頑張った俺への、神様のご褒美かな? だとしたらすげー嬉しい。
……戻ってきた彼からまたディスクを受け取り、今度はもっと後ろに引いてから、なるべく水平に投げる。
――おおっ、大分狙った方向にディスクを投げられたぞ。
「よっしゃ!」
ワン!ワン!と高い吠え声と共にまた巨大なゴールデンが飛び出して行き、地面を蹴り上げて身体をひねるみたいに飛び上がったかと思うと、空中で見事なキャッチ。
「スッゲェ! カッコいい!!」
思わず両手を広げて彼の帰りを待ち受けると、興奮しきった巨大な犬が、ドドドッと戻ってきた勢いで前脚を上げて俺の身体にのしかかってきた。
「おわぁっ!!」
チェックのマフラーが勢いで地面に落ちると同時に、背中が太陽光であったまった芝生に倒れる。
柔らかい毛並みの身体を思い切り抱き締めて、俺は切ないくらいの幸福感を味わった。
あぁぁ……ッ!!
もう、すっげぇ、柔らかくてあったかくて、ずっとこうしてたい……っ!
カンワイイし、気持ちイイ……っ、……なんかもうほんと、犬塚さんがっ、大好きだぁ……っ!!
犬として、だと思うけどーー。
ふっさふさの毛が生えた前足がのっしりと胸の上に乗り、長い舌が俺の頰やこめかみをベチョベチョになるくらいべろべろと激しく舐めてくる。
「アハッ、くすぐってぇって! ン、こら、くふふっ」
首筋までザッラザラの大きな舌で舐められ、ゾクゾクくすぐったくて、肩を竦めてゲラゲラ笑った。
「あははっ、ちょい待っ、うァッ」
こらっ、耳まで舐めるな、変な声出るだろ!
でもこれはちょっと、擽られてるみてぇで反則的に楽しい。
「仕返しだっ」
ドサクサに紛れ、毛足に唇を埋めて首筋の毛皮に沢山キスした。更に垂れてる可愛い耳持ち上げて、その下にも。うーん、この独特の甘ぁいような臭いような犬の匂い、……うっとりする……。
自分で仕掛けときながらポワアンとなってると、ピョイッと前脚を上げて犬塚さんが離れ、ブルブルブルっと身体を振りながら俺に吠えたてた。
あは、遊ぼうって催促してるのか?
「ごめんごめん、投げる投げる!」
すぐに立ち上がり、ディスクを出来る限り遠くに投げる。と、同時に俺も走って、一緒に落ちてくるのを奪い合ってみた。
犬塚さんともつれるみたいにゴロゴロ芝生に倒れて、また爆笑。
……そんな感じで久しぶりに思いっきり身体動かして、その後、芝生がだんだん人で混んで来た所で一緒に海沿いの道をランニングして……結局午前中はずっと、大型犬と思いきりじゃれあって過ごした。
最近俺ろくに運動してなかったのに、こりゃ明日は筋肉痛決定だわー。
全然後悔ねぇけど。
――この仮交際が途中でダメになって犬塚さんと会えなくなっても、今日のことはきっと一生の思い出になるに違いない……。
最早デートというより散歩じゃねぇか!
だけど俺はすっかり嬉しくなってしまった。
かっ、カンワイイい~~!!
犬になってしまった犬塚さんは尻尾を振りながら紙袋に長い顔を突っ込み、中からさっき俺が見つけたプラスチックの塊をガサガサと引き出した。
白くて丸くて薄っぺらな円盤みたいな形してるやつ。――あぁ、フライングディスク。フリスビーだ!
それが、投げろと言わんばかりに俺にグイグイ押し付けられた。
どうやら完全に犬になってると喋れねぇらしい。
「オケオケ、分かったよ! やったことねぇから投げんの下手だと思うけど許してなっ」
完全に犬だとついつい敬語が取れちまうなー。
まあいっか、俺の方が年上だし。
「行くぜー!」
ゴールデンレトリバーのテンションがマックスになり、俺の周りをグルグル回って助走を始める。
「えいっ!」
投げた途端にダッと犬塚さんが駆け出したけど、ディスクはとんでもない方向にすっ飛び、すぐ手前でヘロヘロになって墜落してしまった。
「あちゃー!」
それを旋回して戻ってきた彼が拾ってくわえ、尻尾を振りながら俺の所に持ってきてくれる。
「ごめんな! もう一回!」
確か、フリスビーを投げるには回転が大事ってどっかで読んだことあるぞ。
今度は手首にスナップを利かせて投げてみる。
すると今度は予想外の飛距離が出た。ただし方向は明後日だ。
結構無理があったけど、犬塚さんがダーっと凄い勢いで飛び出して地面ギリギリでディスクをキャッチする。
「お見事! コツが分かってきたよ!」
金色の毛並みをビュンビュンなびかせ、四肢を目一杯使って、飛ぶように芝生を走る犬がメチャクチャにカッコよくて、惚れ惚れする。
大型犬ってすげぇ……!!
こんな風に犬と遊ぶの、子供の頃からのすげぇ憧れだったんだ。
犬が飼いたい、クリスマスプレゼントも誕生日プレゼントも一生我慢するから子犬が欲しいって、よくお袋を困らせたもんなー。
物心ついて、ウチは貧乏で、俺に教育受けさせるだけで精一杯だってことが分かり始めてからは絶対に口にしなくなったけど。
まさか婚活でちょっとだけ願いが叶うなんて、三年負け続けても嫁さん探し頑張った俺への、神様のご褒美かな? だとしたらすげー嬉しい。
……戻ってきた彼からまたディスクを受け取り、今度はもっと後ろに引いてから、なるべく水平に投げる。
――おおっ、大分狙った方向にディスクを投げられたぞ。
「よっしゃ!」
ワン!ワン!と高い吠え声と共にまた巨大なゴールデンが飛び出して行き、地面を蹴り上げて身体をひねるみたいに飛び上がったかと思うと、空中で見事なキャッチ。
「スッゲェ! カッコいい!!」
思わず両手を広げて彼の帰りを待ち受けると、興奮しきった巨大な犬が、ドドドッと戻ってきた勢いで前脚を上げて俺の身体にのしかかってきた。
「おわぁっ!!」
チェックのマフラーが勢いで地面に落ちると同時に、背中が太陽光であったまった芝生に倒れる。
柔らかい毛並みの身体を思い切り抱き締めて、俺は切ないくらいの幸福感を味わった。
あぁぁ……ッ!!
もう、すっげぇ、柔らかくてあったかくて、ずっとこうしてたい……っ!
カンワイイし、気持ちイイ……っ、……なんかもうほんと、犬塚さんがっ、大好きだぁ……っ!!
犬として、だと思うけどーー。
ふっさふさの毛が生えた前足がのっしりと胸の上に乗り、長い舌が俺の頰やこめかみをベチョベチョになるくらいべろべろと激しく舐めてくる。
「アハッ、くすぐってぇって! ン、こら、くふふっ」
首筋までザッラザラの大きな舌で舐められ、ゾクゾクくすぐったくて、肩を竦めてゲラゲラ笑った。
「あははっ、ちょい待っ、うァッ」
こらっ、耳まで舐めるな、変な声出るだろ!
でもこれはちょっと、擽られてるみてぇで反則的に楽しい。
「仕返しだっ」
ドサクサに紛れ、毛足に唇を埋めて首筋の毛皮に沢山キスした。更に垂れてる可愛い耳持ち上げて、その下にも。うーん、この独特の甘ぁいような臭いような犬の匂い、……うっとりする……。
自分で仕掛けときながらポワアンとなってると、ピョイッと前脚を上げて犬塚さんが離れ、ブルブルブルっと身体を振りながら俺に吠えたてた。
あは、遊ぼうって催促してるのか?
「ごめんごめん、投げる投げる!」
すぐに立ち上がり、ディスクを出来る限り遠くに投げる。と、同時に俺も走って、一緒に落ちてくるのを奪い合ってみた。
犬塚さんともつれるみたいにゴロゴロ芝生に倒れて、また爆笑。
……そんな感じで久しぶりに思いっきり身体動かして、その後、芝生がだんだん人で混んで来た所で一緒に海沿いの道をランニングして……結局午前中はずっと、大型犬と思いきりじゃれあって過ごした。
最近俺ろくに運動してなかったのに、こりゃ明日は筋肉痛決定だわー。
全然後悔ねぇけど。
――この仮交際が途中でダメになって犬塚さんと会えなくなっても、今日のことはきっと一生の思い出になるに違いない……。
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