明日のさよなら

宇田 るう

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「早くしろ!」
え、困るし。

「生娘でもあるめぇし、もったいぶってんじゃねぇ!」
ちょっ、待ってって。
このボタン、なんでかはずれないし!

なかには「やめろ、ボスに怒られるぞ」って仲間をとめてくれてる人もいたけど、「ちょっと遊んでやるだけだ」ってあしらわれてた。

とりあえず反抗の意思はないことを示すために、首もとのスカーフをゆっくりと引き抜く。
それは極上の手触りでしゅるりと首筋を滑りおちた。
シルクのしっとりとした感触が指先にまとわりつく。
ここからどうしようと、柔らかくうねるそれを悩ましげにもてあそぶ。

こんなんで済まされるはずないよな、とうつむきかげんに上目遣いで伺い見れば、どこかでごくりと唾を飲むような音がした。

「ふへっ、よく見たら可愛い顔してんじゃねえか」
なんですと?

獣皮のベストを着た男がやにさがった顔をしてそう言えば、また別の男が「ヤローだけど上物だぜ」とナイフの刃を前にべろりと舌をひらめかせる。

「うひひ、やっぱり脱がなくていい。俺たちがお姫様のお召し物を一枚一枚丁寧に脱がしてやるよ・・・」

こ、これはもしかして貞操の危機?

じりじりとにじり寄ってくる野盗達。
狭められる包囲網にたじろぐ俺。

「ぐへへ、そうだ。抵抗しなきゃお前にもいい思いさせてやるよ」

異世界こわい。
こんなジミメンでも、小綺麗な格好をしてるというだけで性の対象に見られるなんて。
そういえばこの世界、舞台がBL小説だった。

また「ボスにばれたらどうすんだ!」ってさっきも制止しようとしてくれた人がみんなに言ってるけど、誰の耳にも入ってないみたいでまわりは変な熱気に包まれはじめた。

追いつめられ、どんと背中が馬車に当たる。
獣ベストにずいと顔を寄せられて、じゅるりと頬をなめられた。

き、気持ち悪い。

「肌がすべすべで気持ちいいなぁ。こりゃ、あっちの方も使い心地がよさそうだ」
「これだけの人数が相手だと、ボコボコの穴だらけにされちまうなぁ」
「へへ・・・、俺のエクスカリバーでよがり狂わせてやるよ」

次々と浴びせられる厭らしい言葉責めにポキポキ心が折れていく。

「う・・・」
男達の手が胸や股間をまさぐってきて怖気が走った。
俺のうめき声に益々男達が色めき立つ。

「ぐひっ、もっと鳴けよ」
「ほら、ここか?ここがいいのか?」
「うひひ、気位の高いお貴族様も俺らと同じでヤることヤってんだろ?なら俺たちともイイことしようぜ」

「ぁ・・・」
襟元から差しこまれた手で胸元を撫でさすられ、生理的刺激で乳首が勃ってきた。
そこを柔らかい布越しにコリコリとつままれて、びくりと腰が跳ねる。
別の手にボトムの前立てごと股間をもにゅもにゅ揉みこまれて腰が引けた。
そこをいつの間にか後ろに回り込んでいた男に背後から両手を掴まれ、猛ったものを尻の合間に押し付けられてゆさゆさと揺さぶられる。

「・・・っ」

みんな無言で、はぁはぁと興奮する男達の息遣いでむせかえるなか、固唾をのんで俺を見てる人と目があった。
さっきからみんなを止めようとしてくれた人だ。
その人も今は目を爛々と光らせて俺の乱される姿を興奮した顔で見てる。

ああ、味方が一人もいない。
万事休すだ。
どうしたらいいんだろう。
短剣で応戦する?
大人しくヤられる?
それとも、貴族なら貴族らしく誇りを守って自害する?

いやいや、どれも詰んでるし。
どう転んでも痛い目にしかあわない。

どうする俺!




と絶体絶命のピンチと思っていたら、あとから駆けつけてきた野盗のボスが助けてくれました。

野盗さん達、ボスの「引け!」の鶴の一声でさっと退いてくれた。

なんでもこの人達、依頼で俺を探してくれてたらしいです。
人相書きと服の特徴で、名前を聞かなくてもすぐ俺って分かったんだって。
まあね、派手好きの貴族からしたら、黒の礼装って地味で逆に目立つよね。

けど、どこからの依頼だろ?王宮からの追っ手とはまた違う感じだし。

ボスは俺を見つけたら乱暴するなと厳命してたらしく、悪戯の現場を押さえた時も「お前達の処分はおって沙汰する」と言って震え上がらせてた。さすがの貫禄。

みんなより若そうなのに、ビリビリッとした雷みたいなオーラがビシバシ出ててちょっとおっかない。
けど、三角巾で隠してる顔から覗く目は切れ長でカッコいい。

背筋もスッとしてて高身長で体格もいいから、普通にヒーローでいそうな感じ。
悪役なのになんでだろ、助けてもらったからそう見えるのかな。

御者さんも怪我してなかった。
縄で縛ったのは抵抗をふせぐためで、特に乱暴はされてないって。
派手な音がしてたのは、興奮した御者さんがやみくもに腕を振り回して馬車にぶち当たってたせいらしい。

そして今。
野盗さん達の隠れ家の最上階の4階にあるゲストルームにいます。
テーブルセットや、清潔なベッドもあって快適そうな部屋です。
ボス自ら案内してくれました。
良かった。他の人だとまた何かされるんじゃないかって不安だからね。

隠れ家は山奥にある大きなお屋敷だった。
漆喰の壁と木の床の洋風建築で、外の馬屋には馬もいっぱい。

野盗さん達はみんなここで寝泊まりしてるのかな。
お屋敷にいた人も、帰ってきた人たちを普通に出迎えててアットホームな雰囲気だった。
野盗の本拠地とは思えない、どこか田舎っぽいのどかさ。

掃き溜めに鶴みたいな人もいて、「見つかって良かった」って歓迎してくれた。
エリィさんて男の人で、家のなか全般取り仕切ってるらしい。

お部屋は外国のホテルみたいな感じで、ボスが手ずからミルクたっぷりのお茶をいれてくれた。
このお茶もなんか慣れ親しんだ味で落ち着く。
俺がひと息ついたのを見計らって、ボスが居ずまいを正してあらためて謝ってくれた。

「テオを見つけたら丁重に連れてこいと言ってあったのに、命令が行き届いてなくてすまなかった。

常日頃から悪さをしたらただでは済まないと言ってあったんだがな。
どうも悪ふざけが過ぎたようだ。

あれでも大分更正してきたんだが、いつまでも昔の手癖の悪さが抜けないやつもいてね。

しかし、テオの気を悪くしたのは確かだ。
きっちりと罰を与えておく。
今後のことあるし、皆にはあらためて厳重注意しておこう」

悪ふざけか。
何人もの男の人に襲われて恐かったけど、この世界ではあれもおふざけの範囲内なんだろうか。
それに今後ってなんだろ。
これからも何かあるのかな。
なんか憂鬱だ。

居心地が悪くなっておしりがもぞもぞしてしまう。
このシチュエーションにも慣れない。
野盗のボスさんとその隠れ家で、深夜のティータイム。
それもおしゃれな茶器でという、さっきとはうってかわった優雅さ。

「それにしても久しいな」
なんて?

「幼い頃王宮で会ったろう?」
え?野盗のボスと王宮で?

「イーサンだよ。忘れたか?」
イーサン・・・?
テオの記憶にも小説にもいない人物だ。

「しかし、さすが王子の懐刀と言われてるだけのことはあるな」
かいとうとは。

「あれだけの暴漢を前に全く動じる様子がなかった」
いえいえ、びびって動けなかっただけです。

「得意の空間転移を使えば逃げられたものを。そうしなかったのは手刀だけで倒せると踏んでたからか?」
滅相もございません!んん?空間転移??

「高等魔法である空間転移を会得してるとは。黒い鳥の二つ名もさてありなんだな」

く ろ い と り???

なんか色々ぶっこまれて、どこからつっこんでいいかわからないけど、俺がテオとしての記憶を失くしてるのは言った方がいいの?どうなの?

頭がぐるぐるして、思わずくらっとしてきた。

「おっと」
「あ、すみません・・・」

「やっと喋ったな」

え、喋ってなかったっけ?
そっか、怒濤の展開で声を出す余裕もなかった。

「ああ、顔色が悪い。今日はもう休め。
部屋着はベッドの上に用意してあるとエリィが言っていた」

確かに。今日は色んなことがあった。
さっきだって、イーサンさんが来るのがもう少し遅かったらどこまでされてたんだろう。
おふざけの範囲だって、きっと野盗さん達と俺では違うだろうし。

「冷静沈着といわれる黒い鳥でも、弱ることがあるんだな」

冷静沈着。
なんか、テオがどういう人だったのかなんとなくわかってきた。
でも俺はただの善良な一般市民です。

あ、そうだ。
これだけは聞いておかないと。

「その・・・黒い鳥とはなんですか?」

さっきエリィさんも「黒い鳥が見つかったと伝令を」って配下っぽい人に言ってたし。

「ん?本人は知らないのか。それより腹が減ってるだろう。
寝る前に温かいスープでも用意させよう」
「あ、それは大丈夫です。」

「遠慮はいらない。この婚約破棄騒ぎで何も食べてないだろう」
「いえ。お城で捕まってた部屋に、ご飯の用意があったので」

「食べたのか?」
「食べました」

「・・・」
「え、ダメでした?」

「いや・・・、あいつの監視下だったのなら大丈夫だろう。今さら君相手に言うことでもないが、いつ誰が毒を盛るともわからない。今後は注意が必要だ」

おふっ。ここはそういう心配も普通にしなきゃいけない世界なのか。
なんてヘビーな。

益々顔色をなくした俺をイーサンが肩を抱いて力強く支えてくれる。
密着した肩がじんわり温かくて、青い瞳が至近距離に見えた。
なんだろ、この感じ。
なんだか懐かしくて安心するような。

「腹が減ってないないならもう寝ろ。明日の朝また来てやる」
「ありがとうございます・・・」

「では、ゆっくり休め」
「はい、おやすみなさい」

ベッドスペースに促され、よたよたと部屋着に着替えようとして気がついた。

俺この服脱げないんだったー!




登場人物
イーサン・グロブナー 「雷鳴の獅子」
王様の腹違いの弟。王太子オスカーにとっては叔父だが、年が近いので幼少の頃はよく遊んでもらった。
堅苦しい王宮暮らしにイヤ気がさし、10才で王位継承権を放棄して市井で暮らすことに。
気に入らないやつをしめ続けてたら、いつの間にかギャングのボスになってたので、ついでとばかりに悪いやつらを捕まえては更正してる。
裏社会の情報が手に入るため、結果的に国の役に立つことに。
(もちろん王弟であることは秘密にしている)
今回も王子の依頼でテオ捜索に駆り出された。
ワイルドなイケメンガンナー。
通り名は鳴り響く銃声が獅子のように襲いかかることから。
195cm

エリィ「風の鞭使い」
イーサンの相棒で乳兄弟。
ギャングの姉(あね)さん的存在。
イーサンより年上だが、若く見える。
線が細くて、いつも優しげに笑っている。戦闘でも疾風のごとく鞭をふるいながら常に微笑みをたたえている。こわい。
180cm

アッバース商会 謹製 スペシャルロイヤルティー
東の小国で採れる貴重な茶葉を使用した紅茶。
まろやかですっきりとした味わい。
ストレートでもミルクを入れても美味しい。
オスカーもイーサンもお気に入り。
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