たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・一章

振り向くな振り向くな、後ろにいるのはきっと詐欺師だ

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 外は明るい。
 さっき酒場にやってきた時とは変わり、街はいつもの鼓動をはじめていた。
 今のアレクセイの状況や気持ちなんかとはまったく関係なく、いつもの元気な空気、いつもの活気。
 そんな街の雰囲気が気持ちをさらに重くする。
 でも、落ち込んでばかりはいられない。まずは前向きに考えよう。

 こうしてギルドを追放された俺に、なにか運命の出会いみたいなものがあったりとか……。

「盗み聞きってわけではないが、話は聞いたよ」

 ん?
 声がした方に振り返ると二人連れの女性がいた。

「ええと、俺ですか……?」

 アレクセイはなんとも言いがたい二人組を前に、なんとなく腰が引けた。

 声をかけてきたのはおばさんと呼んではいけない妙齢の女性だ。赤毛がよく目立つが、それよりもその四肢に目がいった。これは確か自分の魂と連動させて、マナの力で動く義肢だ。
 そもそもほとんどの人間がマナも<古い言葉>も扱えないのに、四肢全てをこの義肢にして日常生活を送っているとしたら、とんでもないことだ。

 その赤毛の女性の後ろにいるのも女性だろう。男性と比べても高い身長、その全身を包むローブ、顔を覆うフード。そんな姿だが、その服の上からでも女性的な肉体なのは見て取れた。

 よく見ると赤毛の女性、その髪に負けないくらい目が赤い。
 なんか、めちゃくちゃ血走ってる。
 うん。
 二人ともめちゃくちゃ怪しい。
 これはきっと関わっちゃダメな相手だ。

「ああ。もちろん君のことだ。気の毒だったな」
「はあ、まあ……」
「いきなり仕事をなくしてしまい、途方にくれているだろう。いくらこの国が裕福だと言っても無職では食べるものにも困るし、肩身も狭かろう。そこで、だ」

 どこか芝居臭い身振りの赤毛の女性が、そっと手を差し出してきた。

「ぜひ、君を我が白鉄しろがね騎士団に迎え入れたい。ああ、私は団長のライヤだ」

 ん?
 騎士団?
 俺を迎え入れたい?

 ……なんだそれ?

 役立たずだと冒険者クランをクビになったら、女騎士団長さんから騎士団に勧誘されました。

 …………。

 ……んなことあるかぁ!!

 あるわけないだろ、そんな都合のいい話!
 だいたい騎士団が、どうして実績もない元荷物持ちをスカウトしにくるんだよ!

 あ、いや、もしかしたら……。
 やっぱり、ないとは言い切れないんじゃ?

 と、心が弱っているせいで生まれた希望的観測に、ほんの少しだけ気持ちは揺れた。だが、団長だというライヤの後ろの女性を見て、きちんと思い直した。

 騎士が団員の勧誘でフード被って顔隠してるとか、絶対にありえない!


「あ、いえ、間に合ってます……んじゃっ!!」

 そしてアレクセイはダッシュした。
 詐欺だ。どう考えても詐欺だ。
 しかも女性を使ってだましてこようとする悪質なやつだ。まあ、その割に勧誘役はちょっと人選ミスな気もするけど……。
 くそぉ。信じてた仲間達に追放されて心が弱っているところを狙ってくるなんて!
 なんて、ふてえ野郎だ。
 あ、ふてえ女性だ。

「お、おい、少年!」

 後ろからそんな声がかかったが、アレクセイは絶対に振り返らなかった。



 ~ ↑ ↑ ↓ ↓ ← → ← → B A ~



「って、これはまさか逃げられたのか?」

 ライヤはアレクセイがすごい勢いで走り去っていく後ろ姿を、しばしの間ポカンと見つめていたが、唐突に冷静になってそうつぶやいた。

「私はなにか間違えたか? 仕事がない者にとって騎士団への加入くらいありがたいことはないと思うが……」

 隣の背の高い女性は「んー」とただ首をひねる。

「ん。思ったより、足速、い」
「まあ、そうだな。普段からなかなかの鍛錬をしているのだろう」

 アレクセイはこの二人の風貌――その義肢や体格、顔を隠しているような服装に気をとられたせいで、二人ともが胸につけているバッヂに気づいていなかった。
 雷のマークの下に星が七つ並ぶ、その見た目通りの雷七つ星勲章。
 すなわち、この国で武功をあげた本物の騎士にのみ送られる証だ。

「おい、あんたらなにやってんだ……?」

 店の中からこのやりとりの様子をうかがっていた男、つい先ほどアレクセイを追放したイゴールが怒気のこもった低い声を吐きだし、その二人の女性をにらみつけた。

「あ、いや、なんだ、すまないな」

 ライヤはイゴールにそう短く告げ、背の高い女性と共に歩き出した。
 が、少しして少年が去った方に振り返った。
 もう姿の見えない少年を思い出す。

 今日見た姿ではない。
 数日前、人知れず戦っていたあの身震いするような姿だ。

 “憑依”という、生まれてきてはならない禁忌と定められた力で。

「そうだ。やっと見つけた死なない才能なんだ」

 そうつぶやくライヤの目には力がこもっていた。

「あの少年だけは絶対に他には渡せない。特に教会にだけは――」



 教会にだけは――。
 騎士団長という肩書をもつライヤが、教会を警戒するようなことを言っていることなど、その時のアレクセイは知る由もなかった。

 逆にまた――。

「こんな時は教会だ。困った時は教会だ。弱者の味方は教会だ。やっぱり頼りは教会だ」

 と、今まさにアレクセイがその教会に向かっていることも、ライヤには知る由もないことだった。
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